ベビーブーマー世代は、老後の社会保障を当てにできるか

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新しい予算法の社会保障に関する変更は、ベビーブーマー世代のカップルによっては、何万ドルもの減収になるものであり、フォーブスの読者や寄稿者などを含む人々から強いリアクションがあった。

怒りの主な理由は、削減が引退に非常に近い人達を対象にしていることである。「申請して停止」する方法は、来年4月末までに66歳にならない人に限定されており、2015年末までに62歳にならない人は66歳まで配偶者給付を申請することができない。その間、勤労給付は70歳まで増加する。「全ての公職の候補者は、どんな変更をするにしても、それは引退しているか間近のシニアには影響を及ぼさないと公約してきた」と、ニックネームがメイナード・ゲインズの読者が、私のブログに「言わせてもらえば、(50歳ではないにせよ)60歳を超える人は誰でも、引退しているか、引退間近であり、それが最後の最後に梯子をはずされた。」とコメントしてきた。

2015年超党派予算法831条 に規定された「意図しない抜け穴の閉鎖」と題された変更が、議論されずに取引の中に入れられたことにも、批判が集まっている。明らかに多くの修正が必要な社会保障を修正するのは、人々に公開された公聴会で、オープンに行われるべきである」と、ボストン大学 エコノミストのローレンス・コトリコフは意見を述べている。同氏は、フォーブスへの寄稿者である。

そのような問題点に加えて、より大きな問題は、ベビーブーマー世代は、これらの法的変更から何を学ぶべきかということが重要である。なぜなら、社会保障の最新の年次報告によれば、2034年になると、社会保障制度には、給付の四分の三を支払うのに十分な税収しか入って来なくなるからだ。先月の変更は、議会が引退間近や既に引退している人の給付を突然削減することによって、社会保障の長期の資金ギャップを解消するために決定したのだろうか。
エコノミストでBoston Center for Retirement Researchの所長である アリシア・H・マネルは、「何年にもわたって検討されていた抜け穴を塞ぐ」との決定からは、議会が今後何をするかについては分からないと主張する (マネルは、 2009年の論文 の共同執筆者として、これらの抜け穴を検討するのに一役買っている。同論文は、配偶者給付を請求できる権利だけでも、1年間で100億ドル近くの負担になる可能性があり、しかも、利益を得るのは大部分が金持ちであるとの推計を示している)。

トリックは、これらの「抜け穴」は2000年以来法律の一部であり、60代のカップルが、いつ社会保障の受給を開始して、いつ引退しようかを判断する時に、当然に利用するであろう社会保障計算表に組み込まれているということである。今後、これらすべての計算表や数多くの引退計画を作り変えなければならない (覚えていらっしゃる方もいるかもしれないが、筆者は昨年、オバマ政権は受給開始の方法を標的にしていると警告して、それを50代の人の引退計画で考慮しなければならないと提唱した。しかしながら、削減があまりに突然で、現在既に65歳のカップルの一部にも影響することには驚かされた)。

先月の予算取引の前には、社会保障に対する大きな変更は、55歳以上の人には影響しないというのが一般的な常識であった。もちろん、小さな変更(CPIが計算される方法など)は、高齢者であっても、特に高収入の人達には影響することもあった。そのような常識は、現在ではもう通用しないのだろうか。マネルは、そうではないと言う。そして、筆者も同様に、主な社会保障給付は、引退間近の人々については削減されない、少なくとも再選されたいと考えている政治家によってはそうされないと考える。今回は、マネルが主張するように、特別なケースだった。

しかしながら、筆者としては、議会が、社会保障制度の重要な改革を先延ばしする一方で、裏で小さな変更を行っているために、この必要不可欠な引退制度に対する不信が生じているとも考える。そして、そのような不信によって、引退が近い人の中には、自分自身の長期的な引退生活の保障を台無しにする判断をしてしまう人がいるかもしれない。

それは、こういうことだ。 社会保障給付は、62歳から70歳までの間に受給を開始することができるが、長く待てば待つ程、月々の給付が大きくなる(「完全」引退年齢が何歳かによって、早期に受給を開始することによる削減の大きさや、70歳まで待つことによるボーナスの大きさが決まってくる。1943年から1954年に生まれた米国人の完全引退年齢は66歳であり、70歳で受給を開始すると62歳で開始した場合より、76%毎月の給付が多くなる)。理論的には、保険数理上、毎月の給付に対する調整は公正であるが、今日のように、寿命が長くなっていて、金利の低い状況では、殆どの人は、可能であれば受給を遅らせた方が資金的に良い結果となる。マネルのシンクタンクの出した最近の研究 によれば、62歳で受給を開始する人の割合は大幅に減少している。2013年に62歳になった人のうち、女性の40%、男性の36%が、その都市からの社会保障の受給を開始した。これは、1992年に62歳になった女性の63%、男性の56%がその年で受給を開始していたことから減少している。しかしながら、殆どの米国人は、受給開始を70歳までは言うに及ばず、完全引退年齢まですら待たない。

現実をみれば、社会保障を早期に受給開始する人達は、請求書の支払をするために、現金を必要としているのである。それでも、全米経済研究所(NBER)の 新しい研究によれば、完全引退年齢より早く受給を開始する受益者の三分の一は、IRA資産を活用して受給を少なくとも2年間延期でき、四分の一は希望すれば4年間先延ばしできる。それでは、何故待たないのだろうか。NBERの研究によれば、一番の理由は健康である。経済的には待つことが出来るのに早期に受給を開始する人達は、平均すると余命が短く、これは、実際の死亡率や自己申告の健康状態に基づくものである。つまり、彼らの個人的な余命を考慮すれば、早期に受給することは合理的なのかもしれない。それが、謎の一部を説明する。別の部分については、米消費者金融保護局(CFPB)が、今日公表した白書の中で、早期に受給を始める人達は、ただ単に、待てばどれだけ毎月の給付が増加するか知らないと主張している (白書と一緒に、CFPBは、 簡単に使える計算表 を提供し始めた。これは、年齢と収入を考慮して、待てば月々の受給額がどう大きくなるかについて示してくれる)。情報不足が、謎のもう一つの部分であった。

しかしながら、これまで筆者が読者から得たコメントから考えると、社会保障の給付を遅らせる事で利益を得られる人々のうち、そうしない人達がいる一つの理由として、彼らは、将来給付が削減されることを心配しているのである。彼らは、結局支払われないかもしれない、より大きな金額を待つリスクを取ることよりも、獲得できるうちに、現在得られるものを100%得たいのである。筆者の読者に対する回答(彼らを説得できていないように思われる)は、議会が社会保障の受給を遅らせた人に不利になるようなことをするとは思えない、というものである。言い換えれば、同じ年齢の人が、社会保障の受給を開始した年齢によって、異なる扱いを受けることはないと考えている。

ただ、本当のところは、誰にも分からない。議会は、党利党略で、予測がつかない混乱状態だ。社会保障の未来に関する不確実性が続くうちは、受給を遅らせる事には、一層のリスクが伴うと考えるのは、確かにおかしなことではない。そして、(政治以外では)この不確実な状態を続けるべき理由など何もない。 X世代やミレニアル世代の事は置くとしても、ベビーブーマー世代は、社会保障がどのように改革されるのか知る必要がある。

この不確実な状態は、ささいな問題ではない。「いつ社会保障の受給を開始するかというのは、多くの米国の高齢者にとって、人生で行う最も重要な金融上の決断である」と、オリビア・ミッシェル教授が、引退計画に関するブルッキング研究所のフォーラムで発言した。彼は、ウォートンの教授であり、Pension Research Councilの理事である。聴衆の一人が、現在引退に近い人々は、2034年に削減があっても、年を取りすぎていて、パートタイムの仕事をしても生計が成り立たないと思われるが、どうやってその削減に備えたらいいのかと尋ねたのに対して、ミッシェル教授は、次のように答えた。「来るべき大統領選挙の活用をお勧めします。全ての候補者に対して、『何をしてくれるのか。私が85歳になって、給付削減されないように、すぐやって欲しい』と詰め寄るのです。」

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