AIを導入する多くの企業でエントリーレベル(実務未経験者や新卒などの初級職)の採用が減速しており、将来のタレントパイプライン(人材供給源)に対する懸念が高まっている。
ハーバード大学の新たなワーキングペーパーによると、生成AIを導入した企業では、2023年以降、四半期あたりのエントリーレベルの採用が約80%減少したという。AIはあらゆる業界でジュニアスタッフの需要を減少させており、その影響はすでにエントリーレベルの採用に現れている。
ハーバード大学のエコノミストであるセイド・ホセイニとガイ・リヒティンガーによるこの研究は、2015年から2025年にかけて、28万社以上の米国企業における6600万人の労働者を対象とした履歴書と求人情報のデータを分析したものだ。生成AIは、キャリアの梯子の最下部にいる労働者の需要を不釣り合いに減少させている一方で、それらの企業におけるシニア層(中堅・ベテラン)の雇用は成長を続けている。ホセイニとリヒティンガーは、これを「シニア偏向型の技術変化(seniority-biased technological change)」と呼んでいる。
このパターンは業界を問わず一貫しており、主にレイオフ(一時解雇)によって引き起こされているわけではない。企業はエントリーレベルの採用を手控えており、その理由は、AIが単純に仕事を代替しているという以上に複雑だ。
AIが定型業務を自動化し、エントリーレベルの採用が減少
多くのホワイトカラー職において、エントリーレベルの労働者はキャリアの初期段階を、コードのデバッグ、法的文書の確認、コミュニケーション文書の起草、データ入力などの「知的定型タスク」に費やす。これらこそ、生成AIが最も得意とするタスクだ。
AIをワークフローに積極的に統合した企業では、導入から6四半期以内に、導入していない企業と比較してエントリーレベルの雇用が約9%減少した。同時に、それらの企業におけるシニア層の雇用は拡大し続けた。
この減少は、エントリーレベルの仕事そのものの性質を反映している。生成AIは、実務を通じて蓄積される経験よりも、教科書や訓練データから学べるような、体系化され検証可能なタスクに特に効果を発揮する。キャリア初期を定義づけるタスクは、まさにこの範疇に当てはまる。日常のワークフローにAIを組み込む企業にとって、それはエントリーレベルの労働者が少なくて済むことを意味する。
将来的なAIの恩恵を見据え、エントリーレベルの採用を削減する企業
エントリーレベルの採用が80%減少したのは、自動化によってすでにそれらの労働者が置き換えられたからではない。企業が、将来的に置き換わるだろうと予測したからだ。
研究者らによると、2022年末のChatGPTリリース後、米国企業の決算発表でのAIへの言及は2023年中頃までに3倍に増加した。企業はほぼ即座にエントリーレベルの採用を手控え始め、すでに実現した自動化ではなく、将来的に予想される自動化に備えて調整を行った。
この減少は、主にレイオフの増加ではなく、採用ペースの鈍化が原因だ。AIを導入した企業では、エントリーレベルの労働者の離職率は低下した。離職した労働者の穴埋めが単に行われなかったのだ。企業がAIによるエントリーレベルの業務自動化のスピードを過大評価しているとすれば、こうした採用削減の一部は、最終的に時期尚早だったと判明する可能性がある。
採用のターゲットは「経験豊富な候補者」へシフト
AI導入企業では、エントリーレベルの採用が縮小したのと同じ期間、シニア層の雇用は増え続けた。これらの企業において、生成AIの影響を最も強く受ける職種のエントリーレベルの労働者は、影響の少ない職種の労働者と比較して相対的に7%減少した。一方、同職種のシニア層の労働者には、同様の減少は見られなかった。
ADPの給与記録を分析したスタンフォード大学の調査によると、2022年末以降、AIの影響を最も受ける職種におけるキャリア初期の労働者の雇用は、相対的に16%減少した。この減少は、これまでエントリーレベルの労働者を大量に受け入れ、ホワイトカラーとしてのキャリアへの確実な登竜門となってきたソフトウェア開発とカスタマーサービスの2つの分野で最も顕著だった。
このパターンは、企業が経験をどのように評価するかという、より広範なシフトを反映している。生成AIはシニア労働者の生産性を向上させる一方で、エントリーレベルの労働者が通常行う定型業務の必要性を減らしている。企業は単にエントリーレベルの候補者の採用を減らしているだけではない。経験の梯子の頂点へと需要を集中させているのだ。
AIを前提とした仕事の再設計により、採用が停滞
この変化は人員数だけの問題ではない。AI導入企業では、生成AIの影響を最も受けるタスクが、エントリーレベルの求人情報から明示的に排除されつつある。
大規模言語モデルとの現実のやり取りをタスクタイプ別に分類した「Anthropic Economic Index」のデータによると、エントリーレベルの職種におけるやり取りの50%以上において、AIが仕事を完全に代替している。シニア職種では、この割合は40%に低下する。
従来、エントリーレベルの役割を定義していた仕事は、単に自動化されているだけではない。職務記述書(ジョブディスクリプション)から完全に消え去りつつあるのだ。
失われた仕事を補うために、企業がエントリーレベルの労働者をより複雑な業務にシフトさせることを期待するかもしれない。しかし、ホセイニとリヒティンガーがまさにその点について調査したところ、そうした証拠は一切見つからなかった。AIが定型業務を吸収するなかで、企業がエントリーレベルの労働者により高度な仕事を任せることはしていない。彼らは単に、その職務自体を廃止しているのだ。
育成パイプラインがAIに追いつかないとき、エントリーレベルの採用は弱体化する
エントリーレベルの仕事は、単に欠員を埋める以上の意味を常に持ってきた。それは、企業が数年後に必要となるシニア人材を育成するための手段なのだ。企業がエントリーレベルの労働者の採用を止めれば、将来の経験豊富な候補者を生み出すパイプラインを自ら弱めることになる。
一部の企業がこのリスクを認識している兆候はある。SAPとウェイクフィールド・リサーチによる調査によると、最高人事責任者(CHRO)の88%が、AIのおかげでキャリア初期の人材がより早く実務に適応できるようになっていると回答している。これは、エントリーレベルの役割を排除するのではなく、AIを中心に再設計すべきだという議論を支持するものだ。エントリーレベルの労働者を迎え入れ、AIツールとともに育成する方法を見出した企業は、単に採用を停止した企業に対して大きな優位性を持つことになる。
エントリーレベルの採用動向が示す、組織の人材戦略への示唆
エントリーレベルの採用を行うべき理由は、新卒者への公平性だけではない。組織の継続性に関わる問題なのだ。シニア労働者は突如として現れるわけではない。彼らは、企業が現在削減しているエントリーレベルの職務を通じて成長するのであり、キャリアの初期段階で培うスキルは、AIが簡単には再現できない方法で時間をかけて蓄積されていく。
そのタイミングがリスクをさらに増幅させている。現在、採用削減を行っている企業は、AIツールがまだ発展途上であり、期待される自動化の恩恵が完全には実現していない時期にそれを行っている。初期の兆候が現実となれば、その代償は、キャリアをスタートする機会を奪われた労働者と、後に経験豊富な人材の不足に直面する組織に、不均衡にのしかかることになる。
ホセイニとリヒティンガーは、結論を過大評価しないよう慎重な姿勢を崩していない。データがカバーする期間は比較的短く、企業の人材育成や開発方法における長期的な調整によって、状況はまだ変わり得るからだ。しかし、この初期の証拠を無視することは難しい。生成AIの導入は「仕事をエントリーレベルのタスクから遠ざけ、組織内のキャリアの梯子の最下段を狭める可能性がある」と彼らは記している。エントリーレベルの採用を依然として「任意」と捉えている企業にとって、これは後回しにせず、今すぐ対処すべきリスクなのだ。



