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2026.08.16 07:00

874.5兆円の賭け──「トークン化」は暗号資産のスローガンから米金融の本業へ

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過去の試みは市場を作れず、決済手段と規制が後に整う

ウォール街は何年も前からトークン化を試してきた。オンライン小売から思いがけず暗号資産の先駆けとなったオーバーストック・ドットコムは、2015年にブロックチェーンを使った500万ドル(約7億9500万円)のトークン化債券を発行している。フォーブスが2019年に創設した「ブロックチェーン50」は、この技術を使う大企業を毎年選ぶリストだが、その第1回には、DTCCが10兆ドル(約1590兆円)規模のクレジットデリバティブ(信用リスクを売買する金融派生商品)契約の記録を分散型台帳(複数の関係者が同じ記録を共有する仕組み)に載せる計画が入っていた。JPモルガンはすでに、イーサリアムの非公開版であるQuorumを構築し、機関投資家向け決済用のJPMコインを発表していた。

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こうしたプロジェクトが証明したのは、取引の一部分をブロックチェーン上で動かせるということだった。だが、完結した市場を作り出すには至らなかった。多くの場合、資産はブロックチェーン上を動いても、代金は従来どおり銀行送金で届き、資産の保管は既存のシステムに残り、当事者は後から記録を突き合わせていた。

ステーブルコインが決済手段を用意、GENIUS法が国債需要を生む

最初に変わったのは、お金のほうだった。1ドルの価値を保つように設計されたデジタルトークンであるステーブルコインは、約3000億ドル(47.7兆円)の市場に育った。これによってトークン化された市場は、支払いの手段と、すでにブロックチェーン上でドル建てトークンを保有する多数の利用者を同時に得た。金利が上昇すると、トークン化された米国債ファンドが自然な受け皿になった。投資家は、原則として利息のつかないステーブルコインから、利息のつく国債へ、いったん銀行で現金化して従来型の証券口座に送金するという手間をかけずに移れるようになったからだ。

この流れをGENIUS法(ジーニアス法)が後押しした。2025年に成立したこの連邦法は、規制対象となる決済用ステーブルコインについて、1コインにつき1ドル以上の準備資産を保有することを義務づけ、発行者が保有者に利息を支払うことを禁じている。準備資産の運用益は発行者のものになるが、ステーブルコイン自体が保有者にその収益を回すことは基本的にない。そのためステーブルコイン会社は、安全で流動性の高い資産を大量に必要とし、一方で利回りを求めるステーブルコイン保有者は別の商品を買わざるをえない。デジタルドルの成長がトークン化米国債への需要に波及したのは、こうした理屈による(規模の大きいトークン化米国債商品については後述)。

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SECがDTCのトークン化試験を認可、資本上乗せも不要に

ルールも明確になってきた。2025年12月、米証券取引委員会(SEC)の担当部局は、DTCC傘下で証券の預託を担うDTC(Depository Trust Company)が3年間のトークン化パイロット事業を実施する道を開いた。翌月にはSECの三つの部門が、企業自身が発行するトークン、カストディアンが保管する証券を裏づけとするトークン、資産の価格に連動するだけの合成商品という三者の法的な違いを整理して示した。3月には、DTCのパイロット期間中、条件を満たすトークン化証券を従来型の証券と並べて売買できるようにするナスダックの規則をSECが承認した。連邦の銀行規制当局も、トークン化証券が従来型と同じ法的権利を備えている場合、ブロックチェーン上に記録されているというだけで銀行が上乗せの自己資本を積む必要は原則としてないとの考えを明らかにした。

こうして今、銀行はトークン化預金を作り、資産運用会社はトークン化した投資商品を発行し、取引所はその売買に備え、DTCは保管と決済の土台を築いている。ブラックロックの億万長者CEOラリー・フィンクは、この変化を金融市場の配管を刷新するものだと表現し、その潜在力を1990年代半ばのインターネットになぞらえた。「あらゆる株式、あらゆる債券、あらゆるファンド、つまりあらゆる資産をトークン化できる」と彼は書いている。

分散保有型のトークン化資産は約6兆円にとどまる

兆ドル(数百兆円)単位の予測が飛び交う一方で、足元のトークン化資産の市場ははるかに小さい。8月6日時点で、データ提供会社RWA.xyzが把握している「分散型(distributed)」のトークン化資産は約377億ドル(約6兆円)だった。今や数千億ドル(数十兆円)規模に達しているステーブルコインは、この数字に含まれていない。分散型とは、投資家が自分のウォレットでトークンを保有し、自由に移転できることを指す。金融機関がブロックチェーン上に資産への参照を記録しただけのものは、ここに数えない。

トークン化米国債が2.6兆円で首位、上位4商品に集中

米国債関連の商品が161億ドル(2.6兆円)を占め、全体の40%を超える。首位に立つのは意外ではない。米国債は流動性が高く、規格が揃っていて価格も付けやすい上、目の前の需要に応えている。ステーブルコインの保有者は、証券口座に戻ることなく、遊んでいるデジタルドルを利息の付く資産に移せる。機関投資家もこのトークンを資金管理や担保に使える。

この分類の6割近くを4商品が占める。首位はサークル(Circle)のUSYCで、トークン化されたMMFとして30億ドル(約4770億円)。次いでブラックロックのBUIDLが27億ドル(4293億円)で、これもMMFをマイアミのフィンテック企業Securitize(セキュリタイズ)がトークン化したものだ。Ondo Finance(オンド・ファイナンス)のUSDYは、短期の米国債資産と銀行預金を担保とするトークン化された債券で21億ドル(約3339億円)。フランクリン・テンプルトンのiBENJIは機関投資家向けMMFの持ち分を表すもので17億ドル(約2703億円)となっている。

資産分類の全体で見ると、RWA.xyzはSecuritizeを最大のトークン化プラットフォームと位置づけている。24商品で合計49億ドル(約7791億円)だ。

米国債以外では、プライベートデット(企業が銀行や公開市場を通さずに投資家から直接借り入れる融資)、社債、証券化商品などを含むトークン化クレジットが約71億ドル(1.1兆円)。商品(コモディティ)は圧倒的に金が中心で48億ドル(約7632億円)。プライベートエクイティとベンチャーキャピタルが合計約23億ドル(約3657億円)で、上場株式もほぼ同額である。分散型のトークン化不動産は約2億300万ドル(約323億円)にとどまる。

株式トークンは既存市場の1%未満、実運用は26%どまり

トークン化ファンドやプライベートクレジットで起きていることの多くは、投資家同士の売買ではない。発行体から直接トークンを買い、現金に換金し、担保として動かすという取引が中心である。ほかの分野では実際の流通市場が育っている。コインゲッコーは、2026年第1四半期のトークン化された金の現物取引が907億ドル(14.4兆円)、トークン化株式が151億ドル(2.4兆円)に達したと推計している。それでも規模はまだ小さい。アルファベット、テスラ、エヌビディアなどを含む上位5銘柄の株式トークンの取引高は、従来の株式市場の取引高の1%にも満たない。

ブロードリッジが7月に北米の金融機関の幹部200人を対象に実施した調査では、84%がトークン化を戦略上重要だと考えている一方、実際に本番稼働の段階にあると答えた企業は26%にとどまった。規模の大きい商品の多くは、今なお機関投資家、富裕層の適格投資家(一定の資産や収入の要件を満たす投資家)、あるいは米国外の顧客に限定されている。

日本は不動産商品を10万円から販売、香港は2385億円の起債

米国外では、市場の両端でトークン化に勢いがついている。日本の証券会社は2021年から、ブロックチェーンを使った不動産投資商品を一般の個人投資家に販売しており、最近では10万円程度から買える商品も登場した。市場のもう一方の端では、香港政府が全額出資する香港按揭証券有限公司(Hong Kong Mortgage Corporation)が6月、デジタル債券としては過去最大となる120億香港ドル(15億ドル、約2385億円)を調達した。

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翻訳=酒匂寛

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