AIの導入は猛烈なスピードで進んでいる。だが、イノベーションを急ぎ、競争で優位に立とうとするあまり、リーダーやプロフェッショナルたちはある重大な問題を見落としている。
それが「シャドーAI(Shadow AI)」だ。
シャドーAIとは、企業のIT部門による事前承認や把握がないままAIツールを利用することを指し、職場におけるリスクを高める。
セキュリティ企業BlackFogの最新レポートは、生産性への圧力が上級リーダーにAIの安全対策を迂回させ、データ漏洩のリスクを高めていると指摘している。
同社が2000人を対象に実施した調査によると、プロフェッショナルの86%が仕事関連のタスクで少なくとも週1回はAIツールを使用していることが分かった。そのうち3分の1超が、会社が承認したAIツールの「無料版」を使っていると認めている。無料版は、企業レベルのセキュリティやデータガバナンスの対象外だ。さらに、約半数が職場で承認されていないAIツールを利用していると認めている。
さらに目を引くのは次の点だ。
・回答者の約63%が、会社承認の選択肢が提供されていない場合、IT部門の監督なしにAIツールを使用することは許容されると回答した。
・一方、60%は、より迅速に作業して締め切りに間に合わせられるのであれば、未承認のAIツールを使用することはセキュリティリスクを冒す価値があると答えた。
・さらに悪いことに、21%は、マイルストーン(節目)を達成している限り、雇用主は未承認のAIツール利用を見て見ぬふりをするだろうと回答した。
リーダーが不適切なAI利用の手本に
しかし、リーダー自身が率先して誤った行動を示している場合、リスクはさらに深刻になる。
この調査の重要な発見の1つは、上級リーダーほどセキュリティよりスピードを優先する傾向が強いという点だ。レポートによると、これらのリーダーはAIツール使用によるスピード面のメリットが、プライバシーやセキュリティのリスクを上回ると考えている。
・社長やCスイート(経営幹部)レベルの約10人に7人(69%)
・取締役や上級副社長(SVP)レベルの約66%
セキュリティよりAIのスピードを優先することが組織にもたらす代償
では、実際にどのような情報が共有されているのだろうか。
・従業員の3分の1が、調査資料やデータセットを共有していると回答している。
・さらに27%は、給与情報や業績データを含む従業員データを共有している。
・4分の1弱が、機密性の高い財務データや売上データを共有した経験があると答えている。
このリスクをさらに高めているのは、半数以上の従業員が、IT部門の承認や監督なしに、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使用してAIツールを他の業務システムと連携させていると認めていることだ。
リーダーは新興テクノロジーにどう安全に追いつくべきか
筆者は先日、セキュリティ専門家団体ISC2(International Information System Security Certification Consortium)のCEO、スコット・ビールに話を聞き、このリスクが今日のリーダーに何を求めているのかを探った。
彼は次のように説明した。
「AIツールやポリシーが用意されていなければ、スタッフは陰でそれを使うようになる。彼らがこれらのツールを使うのは、業務をより効率的かつ効果的にできるからだ。しかし、そこに組織のセキュリティが伴っておらず、データがどこに行くかを意識していなければ、情報が盗まれたり、ソフトウェアへのプロンプトインジェクション(悪意ある命令の注入)を許したり、社外秘の情報が失われたりする可能性がある。つまり、ビジネスを停止させたり、スタッフや会員、顧客を危険にさらしたりする事態がいくらでも起こり得るのだ」
「これらはすべて、その企業が、人々が安全かつ確実にこれらのツールを使用できるようにするためのポリシー導入を恐れすぎているからだ」と彼は言う。
「手をこまねいていることは選択肢ではない」とビールは助言する。「そして、ただ『使うな』と伝えるのも、決して最善のアプローチではない」
ビールは、自動車の発明と、安全な運転を支える枠組みやシステムの整備を、この新たな産業革命におけるAIの進化になぞらえた。
「周りの誰もが車を運転しているなら、あなたの従業員も車に乗りたがるだろう。しかし、人々には教育を提供する必要がある。場合によっては、使い方を理解していることを示す資格や免許が必要だ」
「例えば、子どもに車を渡して好き勝手に走らせるわけではない。経験のある人々にポリシーを適用したうえで、車を使わせるはずだ。車には依然としてリスクが伴う。しかし、適切な訓練を受け、交通ルールを守れば、テクノロジーを正しく利用して大きな成果を上げることができる」
ただし、リーダーたちに公平を期すならば、今はリーダーシップを発揮するのが最も難しい時代の1つだ。
リーダーやマネジャーは、新興テクノロジーのペースについていくという厳しい現実に直面しつつ、同時に信頼性、信用、安全性を維持しなければならない。それは繊細なバランス感覚を要する作業だ。
ビールも次のように認めている。「本当に厳しい状況だ。ニュースを見ても、世界最大級の企業でさえ、CEOの交代が以前より増えているように感じられる」
彼は、AI時代には異なるタイプのリーダーが求められると考えている。「過去10年間に台頭してきたCEOやリーダーたちが、これからの10年の未来を導いていけるリーダーと同一であるとは限らない、と感じている」と彼は振り返る。
「リーダーシップの基本や原則の多くは変わっていないと確信している。しかし、この新しく不確実な世界を苦にせず、テクノロジーに自ら対処できるか、あるいは好奇心を持って専門家を自分の周りに配することができるリーダーが必要なのは確かだ」
AI導入にあたりリーダーが今すべきこと
この時代を生き抜く上級リーダーへの、彼の最大の助言は以下の通りだ。
・オープンで探求心を持ち続ける。
・他の業界リーダーの動向を観察し、バランスを取る。
・自社に最も関連性の高いテクノロジーとトレンドに集中する。
・小さく始めて試験導入(パイロット運用)を行い、明確な成功指標を見極めつつ、初期段階から「セキュア・バイ・デザイン(設計段階からセキュリティを組み込む)」のアプローチを維持する。
・多様な視点を持つ人々を身の回りに配置する。
シャドーAIは現実のリスクだ。それはすでに、あなたの組織の業務運用の中に入り込んでいるかもしれない。
特にリーダーとして、これを見て見ぬふりをすることは選択肢ではない。
なぜなら、問題に対処する準備が整った時点では、すでにリスクにさらされており、ポリシーの整備は遅すぎるからだ。



