世界最高峰のマーケティング・コミュニケーション・イベント「カンヌライオンズ」が、6月に開催された。本稿では、73回目となる今年の傾向を前編に続いてお届けする。
カンヌライオンズでは毎年200近いセミナーが開催され、ブランド側(事業会社側)の役職者によるセミナーは人気が高い。その中でも今年、エモーショナルさで群を抜いて目立っていたのが、ユニリーバ ビューティ&ウェルビーイングCMOレアンドロ・バレット氏による「Who Carries the Fire?(その火を運ぶのは誰?)」だ。
セミナー会場の座席に座ってみると、ステージ中央には“焚火”のようなものと椅子が置かれている。数多くのマーケティング系イベントに出席してきた筆者だが、こんなセッティングは見たことがない。登場したレアンドロ氏は、椅子に座って「そもそも自分は“マーケターになりたい”と思ったことはないんですよ」という個人的な話を、一緒に焚火を囲む友人に語りかけるように話し出した。
少しすると、ステージ中央に立ち上がって話し出したが、大スクリーンに映し出されているのは、炎。会場全体を、焚火を囲んでする語り合いの場のように見せる工夫だろう。

セミナーの内容は、「人は古代から焚火の周りで語り合って来た」「自分達の製品も、現代における“焚火の周りでの語り合い”に当たるところで話題にしてもらうことを目指している」「その意味で、従来のマーケティングの手法や、いわゆる広告キャンペーンに縛られない展開を心がけている」といったもの。「マーケターになりたいと思ったことはない」という語り始めも、こうした主張に繋がるイントロダクションとして機能している。
レアンドロ氏の語り口は、全体に非常にエモーショナルなものだった。もちろん、内容はロジカルでもあったのだが、どちらかと言うと、語り口自体もロジカルな調子が多いセミナーの中では出色の存在感で強いインパクトを残し、終了時の拍手や歓声も、ひときわ大きいように感じた。“AI時代だからこそ”が強く意識された内容と演出だった。
こうした「エモーション」や「手作り感」「リアルな日常」が、今年のカンヌライオンズから感じた傾向のひとつだったと言える。
それは受賞事例にも現れていた。ひとつは、デロンギによる「Tiny Coffee Shops(小さな小さなコーヒーショップ)」だ。インダストリークラフト部門グランプリを受賞した。
「Tiny Coffee Shops」byデロンギ
デロンギの家庭用コーヒーメーカーの売りは、「街のコーヒーショップにひけを取らない質のコーヒーが、自宅で簡単に飲める」というもの。そのことを伝えるために取られた施策は、無機質に見えるコーヒーメーカーを、ミニチュア・アーティストの手を借りて、“小さな小さなコーヒーショップ”に作り替えることだった。
5台のコーヒーメーカーが、それぞれ異なる国の素敵なコーヒーショップへと、精巧な手作りによって変身した。2階の窓も、店舗の外側に置かれた椅子やテーブルも、自転車も、極限の小ささで見事に再現されている。そのうちの1つは、日本のコーヒーショップで、片仮名の「スペシャリティコーヒー」や漢字の「喫茶店」という文字も読める。この詳細で精巧な“手作り感覚”は、まだまだAIに代替されそうもない。
応募用の事例ビデオでは、コーヒーメーカーを、小さな小さなコーヒーショップへと変身させて行く、細やかな手作りの作業が紹介されている。そして、この5点を幾つかの都市の展示会場で一般に公開したようだ。



