半導体調達からサーバー設計・組立、データセンター運用、クラウドサービス提供までを一社で担う、国内でも数少ない“AIインフラ企業”メタデータラボ。代表取締役・本間裕二に、日本のAIインフラの現在地とその先を聞く。
AIの活用が叫ばれる一方、それを動かすサーバーの調達からデータセンターの運営、クラウドサービスまで、日本は海外企業に頼り続けている。
「インフラが整わなければ、どれだけ優れたソフトウェアも動かない」。
そう訴え続けてきたのが、メタデータラボ代表取締役・本間裕二だ。本来なら、半導体商社、サーバーメーカー、データセンター事業者、クラウド事業者と、少なくとも4社に分かれるのが当たり前のAIインフラ業界。その調達から設計・組立、運用、提供までを一社で完結させる、他に類を見ない“1社完結”体制を築いたのがメタデータラボだ。
その背景には、本間が20年超、半導体業界で感じてきた課題があった。
「技術やアイデアに優れているのに、形にするスピードがあまりにも遅い。ボトルネックを紐解くと、流通の複雑さに行き着きました。海外は直接取引が一般的ですが、日本は4~5社の商社を介してようやく調達できる。数週間で済む納入が数か月から半年に伸び、コストも高くなる。これでは競争力は上がりません」
かつて主流だった、人材やリソースを割いて最速で届ける“垂直統合型”の日本のものづくり。そこにフォーカスし、半導体業界で培った知見を生かし、仕入れからサービス提供までを自社で手掛ける一気通貫のビジネスモデルこそが、課題解決につながると考えた。
「中国や台湾のメーカーと商談を重ね、直接調達のルートを開拓しました。2010年代以降、スマートフォンの普及で日本企業はハードウェアづくりから撤退していきましたが、インフラが整わなければソフトウェアも動きません」
その思いがクリアになったのは、ソフトウェアの中でもとりわけ莫大な計算資源を必要とするAIが急速に広がった2022年。「海外のインフラしか使えない」日本への危機感は強まっていった。
「自分たちでインフラをつくらなければ、海外頼りのまま、決められた価格やサービスに従うしかない。今、日本が使うAIインフラはほぼ米中のもの。日本への優先順位が下がれば、『インフラが使えず仕事が進まない』事態になりかねません」
この危機感を裏付けるのが、投資の規模とスピードだ。Amazonは今後15年で約23兆円をデータセンターに投じる計画を示す一方、日本国内への投資だけでも2023年から5年間で2.3兆円にとどまる。
日本全体で官民102兆円のAI・半導体投資計画が動き始めているものの、米トップ企業が単独でこれほどの資金を投じ続ける現状との差は、金額だけの問題ではない。
「AIインフラへの投資は、もはや軍事予算と同じ次元の話です。国力の競争は、AIインフラをどれだけ持つかで決まる時代になりました」
AIインフラ事業へと柱を大きく転換した2023年当時、企業経営者の多くに「お金を出せば買える」という意識が根強くあったと本間は言う。
「でも実際は、AIインフラを自前で整えようにも、半導体部品の仕入れに半年、1年かかる。仕入れたところで、サーバーの組み立て方が分からない。そんな状況が多くの企業で生じていました。AIは企業の命運を分ける戦略物資ですが、その意識はまだ浸透していなかったんです」
一方で米トップ企業は、圧倒的に潤沢なインフラでAI活用のノウハウを蓄積していく。その差は、日本企業のAIリテラシーにも影を落としているという。
「AIを使える環境の有無がAIリテラシーに直結し、企業の格差となる。優秀な人材がいても発揮できる環境が制限されているのが問題です。取り返しのつかない競争力の差になるという危機感が、ようやく政府や企業で共有され始めています」
日本の停滞は、分業構造がつくっていた
メタデータラボの強みは、半導体の仕入れからクラウドサービス提供までの「圧倒的な低コストと異次元のスピード」にある。分業すれば、半導体・サーバー・データセンター・クラウド各社の連携が必要になり、納入は遅れる。ロスタイムは半年~1年。
その間にニーズが変わることもあるだろう。
「例えば、3年以内に結果を出さなくてはいけないスタートアップでは、どれだけ早くAIを使える環境を整えられるかが死活問題になる。SaaS業界では1カ月後に違うサービスへ変わるほど、スピード勝負は拡大しています」
ぶれずにハードウェアづくりに向き合ってきた同社だからこそ、顧客のニーズに応じて設計から構築する“オーダーメイドAIインフラ”を一緒につくれる。どのフローでも変更可能な対応力が、クライアントの信頼につながっている。
「AIの技術開発は、コストパフォーマンスや電力消費量など、あらゆる観点で競争が加速しています。しかし最終的には、どれだけ小さく安くつくれるかに集約されるでしょう。日本には知見を持つ50代~70代のエンジニアが数多くいる。彼らの経験値をAIに学習させることで、技術刷新はまだ伸びていく可能性があります」
そこにこそ、日本が世界に示せる強みがあると本間は考える。日本のスーパーコンピューターは演算速度でも世界トップ10に入るが、本間が着目するのは、少ない電力で高い実用性を発揮する効率性だ。
「日本はもともと、省エネや環境配慮の技術に強みを持ってきた国。そこに注力すれば、台数や規模でアメリカや中国に対抗するのではない、日本らしいAIインフラの勝ち筋が見えてくるはずです」
学生の一言から始まった、インフラの無償解放
インフラという壁を取り払い、開発者の挑戦を加速させたい―。その思いから、AI研究・開発者に向けGPU/HPCサーバーのレンタルを開始。24年3月からは国内最大級のLLM開発コミュニティ「ローカルLLMに向き合う会」に無償解放している。
きっかけは、ある大学生からの問い合わせだった。
「大学でサーバーを用意してもらえず、奨学金を投じて購入したいという切実な声でした。このままでは、優秀な学生ほど日本を出て行ってしまう。その危機感から、無償解放を即決しました」
さらにその思いを、具体的なアクションへと落とし込む。
「今年8月、宇宙空間のデジタルツイン技術で世界をリードする『スペースデータ社』との共創ハッカソンを開催します。開発者たちが計算資源の不足を言い訳にせず、極限までアイデアを追求できるよう、弊社から高性能なGPUサーバーを無償提供します。日本の開発者が本来持つ『狂気的なまでの探究心』を解放したい。こうした技術者との直接的な共創こそが、日本のAI産業を世界トップレベルへ押し上げる最短ルートだと確信しています」
海外製よりも安く、立ち上げも早い環境を国内に整え、使いこなす担い手を育てていく。その一気通貫のシナリオが、本間の見据える5年後、10年後の姿だ。
「開発者たちの成長のリミットを外す環境整備こそ、僕らの使命。インフラ開発の発展を担うことで、“メイドインジャパン”を取り戻したいと考えています」
メタデータラボ
https://www.metadatalab.net/
ほんま・ゆうじ◎メタデータラボ代表取締役。日本大学卒業後、大手電機メーカー系専門商社にて半導体のセールス・マーケティングを担当。2018年にマイニングデータラボを設立し、23年にメタデータラボへ社名変更。半導体調達からクラウドまでを一気通貫で手掛ける。



