AI

2026.08.24 14:15

天才哲学者マルクス・ガブリエルの未来予測「AI時代、人間は動物に回帰します」

マルクス・ガブリエル|独ボン大学哲学科正教授

マルクス・ガブリエル|独ボン大学哲学科正教授

AIは危機の一部でもあり、解決の手段にもなりうる。この矛盾を、私たちはどう乗り越えるのか? AIリスクの先に、世界にどんな未来を描けるのだろうか? 人の尊厳を守り、可能性を高めるAIのあり方とは? 

29歳のとき史上最年少でボン大学教授に就任し、2013年に発表した著書『なぜ世界は存在しないのか』がベストセラーとなり世界的に注目されたドイツの哲学者マルクス・ガブリエルに話を聞いた。

8月24日発売のForbes JAPAN10月号別冊「HUMAN-CENTERED AI 想像は創造できる!」に掲載中の独占インタビューを、拡大してお届けする。


生成AIが文章を書き、絵を描き、曲をつくるようになった。人間にしかできないと思われてきた「創造」という営みが、今、問い直されている。その延長線上で注目を集めているのが、「人間中心のAI」という考え方だ。Human-Centered AI Institute代表として人間中心のAIのあり方を探ってきた森正弥(博報堂DYグループCAIO)が、ガブリエル教授に問う。 

森 正弥(以下、森):これまで「人間中心のAI(Human-Centered AI)」というと、AIを人間にとって使いやすく設計し、AIが社会に害を与えないようにリスクや倫理を管理するという意味で語られてきました。しかし生成AIの登場で、人間の知的・創造活動そのものが変わりつつあり、その考え方も更新されるべきだと感じています。

マルクス・ガブリエル(以下、ガブリエル):AIと人間の関係を考えるうえでまずとらえ直すべきは、大規模言語モデル(LLM)などのAIは、人間が問いかけなければ動かないということです。これまでAIは、「人間の仕事を代わりにやるもの」と考えられてきました。文章を書いたり、会社の情報を整理したり、仕事を効率化したりするための技術だということです。今でも、そう考えている人は多いでしょう。でも、最新のAIはそれだけではありません。

森:その視点はとても重要ですね。多くのビジネスパーソンは、AIを「仕事を自動化し、効率化してくれる機械」と考えがちです。

ガブリエル:私は、人間と巨大な情報処理システムの「あいだ」にあるものがAIだと考えています。そのシステムには、半導体、サーバー、技術者、投資、政治、データ、学習の仕組みなど、あらゆるものが含まれる。これを「AI複合体」と呼んでいますが、そもそもAIは人間がかかわらなければ動きません。大規模言語モデルも、人間がプロンプトを与えなければ何もしないのです。

森:企業では、AIに戦略を考えさせたり、広告や文章をつくらせたりすることが増えています。本当はそこに人間とのやり取りがあり、人間が考えやひらめきを入力しているのに、出てきた答えが立派に見えるため、「AIはすごい」とだけ思ってしまう。自分が何を入力したのかを忘れてしまう危うさがありますよね。

ガブリエル:AIは、ドライバーのような道具というより、ピアノのような「楽器」として考えるとよいでしょう。人間が弾くから、音楽になる。プロンプトやAIとのやりとりそのものが、その人の知性の表れなのです。

AIは人間が入れた言葉や音声、画像、数字などの中からパターンを見つけ出し、それを速め、広げ、増幅させていく。私はこの働きを、「加速する知性(Accelerated Intelligence)」、「広げる知性(Augmented Intelligence)」、「増幅する知性(Amplified Intelligence)」の頭文字をとって、“3つのA”と呼んでいます。

森:奇遇なことに、私が所属する博報堂DYグループでも「人間中心のAI」には”3つのA”が必要だと考えています。私たちが提唱するのは「自動化(Automation)」、「拡張(Augmentation)」、そして「内なる想い(Aspiration)」。自動化はもちろん欠かせませんが、もはやそれだけでは十分ではない。AIによって人間の力を広げ、社会をよくしたいという想いを引き出すことが重要なのではないでしょうか。

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森 旭彦 = 文 アレクサンダル・サビッチ = イラストレーション

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