AI

2026.08.24 14:15

天才哲学者マルクス・ガブリエルの未来予測「AI時代、人間は動物に回帰します」

マルクス・ガブリエル|独ボン大学哲学科正教授

森:ガブリエル教授は「ネステッド・クライシス(複合的な危機)」という言葉で、気候変動、民主主義の危機、地政学的緊張、AIやバイオ技術の影響など、複数の危機が重なり合い、互いを悪化させている状況を指摘しています。AI自体が危機の一部でもある一方で、AIは危機を解く手段にもなりうる──この入れ子構造を、どう読み解けばよいのでしょう?

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ガブリエル:フロンティアAIと呼ばれる最先端の技術は膨大な電力を消費するので、おっしゃる通り、ネステッド・クライシスの一部になってしまっています。半導体チップやレアアースを巡る競争も激化しており、明らかに危機を増幅している面があります。現状ではとても危機を解く手段になっているとは言い難い。

しかしAIは、複雑な社会のなかにある法則や相関関係を見つけるのが得意ですから、正しく使えば解決策の一部になるはずです。例えば、メディア、政治、エネルギー消費、地政学の関係をつなぎ、入れ子構造にある問題を理解する助けになるでしょう。

森:企業は生産性や利益を求めるビジネスの要請と、倫理的課題の狭間で悩まされることもあります。企業はAIとどう向き合うべきなのでしょうか。ビジネスと倫理がぶつかり合うような問題に向き合うとき、哲学はどんな存在になりますか。

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ガブリエル:哲学者は、物事を別の角度から見るのが得意です。哲学とは、意図的に視点をずらし、新しい思考の枠組みをつくることだから。たばこ会社に「何をすべきか」と聞かれたら、私なら「チョコレートをつくればいい」と答えるでしょうね(笑)。今の事業の延長線上で考えるのではなく、まったく別の物語を描いてみせる。それが哲学者の仕事です。

AIについて企業に助言するなら、まず研究開発部門に行き、「もっと環境にやさしいチップをつくれないか」と聞くでしょう。たとえば光チップは、より持続可能な選択肢になりえます。哲学は、問題を別の角度から見直す力を与えてくれるのです。

森: 哲学は思考のジャンプを生むのですね。AIはこれまで、人間の知性を切り離し、機能や効率として扱うものだと思われがちでした。哲学とは相反するもののように見えていたかもしれません。

しかし、そうではない。AIとのやりとりを通じて、人間が自分の創造性、倫理性、主体性を取り戻し、更新していくこと。そのための新しい楽器として、AIをどう演奏するか。それが、これからの企業と社会に問われているのだと思います。


マルクス・ガブリエル◎1980年生まれ。ドイツ出身の哲学者。2009年、ドイツ史上最年少の29歳でボン大学哲学科正教授に就任。倫理資本主義を提唱。著書に『なぜ世界は存在しないのか』など、世界的なベストセラー多数。 

もり・まさや◎1975年生まれ。楽天、デロイト トーマツなどを経て、博報堂DYグループCAIOに就任。Human-Centered AI Institute代表。内閣府AI戦略専門調査会委員、一般社団法人 人間中心のAIコンソーシアム 共同代表などを務める。

文=森 旭彦 イラスト=アレクサンダル・サビッチ

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