AI

2026.08.24 14:15

天才哲学者マルクス・ガブリエルの未来予測「AI時代、人間は動物に回帰します」

マルクス・ガブリエル|独ボン大学哲学科正教授

森:AIが優れた道具であり楽器だとしても、それに頼りきるのではなく、人間の主体性をどう高めるかがAI時代には問われますね。具体的には、私たちはどんな力を意識して伸ばすべきだと考えていますか?

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ガブリエル:シリコンバレーでも中国でも、AI関係者の間で人文学を見直す声が強まっています。人文学で何が身につくかというと、例えば「スタイル」を理解する力です。スタイルとは、どんな場面で、どんな言葉を選び、どんな調子で話し、どんな価値観を示すかということ。日本語では、文脈や言葉の選び方、話し方のトーンがとても大事にされていますよね。AIもある程度は真似できますが、スタイルが社会のなかでもつ意味を深く理解する力は、人文学からしか会得できないのです。

森:そうした知性や表現における「創造性」についてはどうお考えですか。

ガブリエル:AIの創造性と、人間の創造性の違いを理解することが大事だと思います。AIが得意なのは、すでにあるものを組み替えて新しい組み合わせをつくること。一方、人間はそこにない新しい要素そのものを生み出すことができ、さらにそれを新しいかたちで組み合わせることもできます。人間の創造性というのは、芸術史、外国語、哲学、社会学などを学ぶなかで育っていくものなのです。

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森:絵画の歴史を見てもそうですね。写実主義があり、カメラが登場し、そのあとに印象派やポスト印象派が生まれました。単に正確に描くのではなく、「自分にはこう見える」「心の中ではこう感じる」という表現へ変わっていった。AIは過去のやり方を学ぶのは得意ですが、新しいスタイルを生み出すには、人間にしかない創造性が必要なのだと思います。

森 正弥|博報堂DYホールディングス執行役員CAIO
森 正弥|博報堂DYホールディングス執行役員CAIO

人間に残された最後の感性

森:活版印刷、カメラ、コンピュータ、インターネットといった新しい技術が生まれるたびに、私たちの仕事や表現の仕方も変化してきました。同時に、「人間とは何か」という問いを生んできました。では、AIは私たちにどんな問いを突きつけているのでしょうか。

ガブリエル:長い間、人間は「理性的に話す動物」だと考えられてきました。ほかの動物も声を出しますが、それは危険や痛みを伝えるためのもの。理性を使って言葉を話すのは、人間だけだとされてきたわけです。ところがAIは、合理的に考える力の多くを自動化しています。チェス、囲碁、将棋などさまざまな分野で、人間を超える力を見せ、大きな衝撃を与えていきました。そして次に、大規模言語モデルが登場しました。私たちの「楽器」が話し始めたのです。合理性も、言葉も、AIが担うようになった。では、人間には何が残るのでしょうか。

私は、人間は今、「自分たちが動物であること」を再発見しているのだと思います。身体を動かすこと、地面に触れること、身体の感覚を取り戻すこと。高い理性と言葉をもちながら、同時に動物として生きるとはどういうことか。その問いが、AI時代に浮かび上がっています。

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文=森 旭彦 イラスト=アレクサンダル・サビッチ

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