2025年7月8日、ジュネーブで開催された国際電気通信連合(ITU)の「AI for Good Global Summit」の会場ブースで、人工知能を搭載したハンソン・ロボティクス社のヒューマノイドロボット「ジュールズ」の電子機器を調整する男性。(Photo by VALENTIN FLAURAUD/AFP via Getty Images)
スターバックスは長年、店舗から従業員を減らし続けてきた。自動化とモバイル注文の効率化が利益率を守ると確信していたためだ。だが、その賭けは失敗した。2024年後半、就任したブライアン・ニコル最高経営責任者(CEO)は方針を転換し、バリスタの増員、カップへの手書きメッセージ、陶器製マグカップの復活を打ち出した。ニコル氏はその理由を「これは今もクラフトビジネスだからだ」と述べている。世界で最も標準化された消費者向け企業の1つで起きたこの反転は、AIがこれから構築しようとしている経済構造を先取りするものかもしれない。
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの行動経済学者、アレックス・イマス氏による新たな論考は、AIと雇用をめぐる一般的な不安は、構造的な経済学を逆に捉えていると論じる。自動化は、人間の生産者自身が製品価値の一部となるセクターへと雇用を再配分する。イマス氏はこの力学を「関係性セクター(relational sector)」と呼ぶ。この研究は、AIが知識労働をコモディティ化するなかで、ベンチャーキャピタル(VC)がどこに目を向けるべきかについて直接的な示唆を与えている。
VCの視点
投資家は、認知労働の自動化が持続的価値を生むという前提のもと、AIインフラに資金を注ぎ込んできた。AIスタートアップへの世界のVC投資額は2024年に1315億ドル(約21兆円)に達し、その年のベンチャー投資全体の3分の1を占めた。だが、そうした案件の多くに組み込まれている投資仮説は、経済を静的なものとして扱っている。すなわち、ある作業を自動化し、その利ざやを獲得するという考え方だ。イマス氏の枠組みが示すのは、より重要な問いは、コモディティ生産が安価になった後に支出パターンがどう変わるのか、そしてその支出を吸収するセクターをベンチャーキャピタルがまだ正しく評価していないのではないか、という点である。
歴史的な類例は農業の生産性だ。米国の農業雇用は1900年には労働力のおよそ40%を占めていたが、現在は2%未満にまで低下している。これは人々が食べるのをやめたからではない。農業生産性の上昇により、総支出に占める食費の割合が低下したからだ。労働者と資金は別の場所へ移った。イマス氏は、AIも同じ再配分を引き起こすと論じる。自動化可能なコモディティ生産から、彼が「所得弾力性の高いセクター」と位置づける領域、すなわち人々が豊かになるにつれて所得以上の速さで支出が伸びる場所へと移っていくという。
この議論の実証的な柱となっているのが、ディエゴ・コミン、ダリウシュ・ラシュカリ、マルティ・メスティエリによる2021年の学術誌『Econometrica』掲載研究である。同研究は、各国経済で観察される構造変化の75%超が所得効果によって説明されると推計した。所得が増えても、消費者はあらゆるものを比例的に多く買うわけではない。支出は所得弾力性の高いセクターへと傾く。イマス氏が引き出す皮肉な帰結は、自動化されたセクターの生産性が高まれば高まるほど、そのセクターのGDPに占める割合は拡大するのではなく、縮小するということだ。
模倣的欲望と関係性セクター
イマス氏が特定する行動メカニズムは、ルネ・ジラールの理論に基づく「模倣的欲望(mimetic desire)」である。人間の欲望は本質的に社会的で比較的なものだという考え方だ。人はモノを、その内在的な性質だけで欲しがるわけではない。他者が欲しがるものを欲しがり、他者が手に入れられないときに、さらに強く欲しがる。イマス氏と共著者のクリストフ・マダラース氏はこれを実験で検証した。消費者の一部が無作為にある商品から排除されると、支払意思額はおよそ2倍になった。商品そのものは変わっていないが、知覚される価値は変化したのである。
グレイリン・マンデル氏との別の研究で、イマス氏はAIの関与が希少性プレミアムを消し去ることを明らかにした。人間が制作したアートは、希少性によって価値が44%上昇した。一方、AIが制作したアートの上昇幅は21%にとどまった。人間由来であることは、定義上、希少である。希少性は人間そのものに由来するからだ。
こうした性質を持つセクターには共通点がある。生産者を製品から切り離せないという点だ。個別化医療、オーダーメイド型の専門サービス、職人的な食品やホスピタリティ、ライブパフォーマンス、手厚い教育、複雑なケアはいずれもこの特徴に当てはまる。基礎的なニーズを満たすコストが下がるにつれ、エンゲル曲線の力学が支出をこれらのカテゴリーへと押し上げていく。
創業者と投資家にとっての意味
イマス氏は自身の主張の限界について明確である。彼は、労働分配率全体が上昇しなければならない、あるいは横ばいでなければならないと主張しているわけではない。低下する可能性もある。付属の技術ノートでは、形式モデルとその条件が検討されている。主張の焦点はセクターごとの変化にある。AIがコモディティ生産を安価にした後、支出と雇用がどこへ移るのか、そしてその行き先となるセクターが構造的に人間の関与を必要とするのか、という点だ。
ベンチャーキャピタルにとって、この枠組みはミスプライシングのリスクを示している。自動化可能なセクター全体で人間労働を置き換えるという前提でAI投資仮説を組み立てたファンドは、置き換えそのものについては正しいかもしれない。しかし、その後に価値がどこへ蓄積されるのかについては間違っている可能性がある。将来の所得弾力性が最も高いセクターは、人間由来であることと、拡張可能なインフラを組み合わせる領域だ。人間が生み出した商品やサービスをコモディティ化せずに検証し、見つけやすくし、流通させるプラットフォームである。類例としてふさわしいのは、Airbnbがホテルを置き換えるという話ではないかもしれない。むしろ、ゲストが明確に求める「人間」であることを経済的に成立させる一群のビジネスだろう。
スターバックスは不完全ながらも示唆に富む事例である。同社の時価総額は900億ドル(約14兆3000億円)を超える。同社の経営陣は、顧客体験から人間労働を取り除くことが、価値を生むのではなく損なうと公に結論づけた。たとえ基盤となる製品であるエスプレッソが、容易に自動化できるものであってもだ。
AIが突きつける経済的な問いは、通常語られるような「機械は人間がしていることをできるのか」ではない。ほとんどの生産カテゴリーでは、機械はすでにそれを実現しているか、まもなく実現する。より重大な問いは、その生産が豊富に存在するようになった後、消費者が何にお金を使うことを選ぶのかである。経済史と行動科学の証拠に基づくイマス氏の答えは、自動化が構造的に排除できない希少性を指し示している。すなわち、取引における人間である。投資余力のある投資家にとって、そこが地図を描くべき市場だ。



