これはまた、他人の自制心を判断することがなぜこれほどまでに誤解を招きやすいのかという理由も説明している。ある行動が十分に習慣化されると、もはや「選択」しているという感覚ではなくなる。2024年に発表された別の心理学の論文では、習慣は行動を自動化することで長期的な目標の達成に役立ち、自制心の表れというよりは、むしろ自制心への負担を軽減するものだとされている。
つまり、その週の予定にワークアウトをすでに組み込み、食料品の買い出しも済ませている人は自制心があるように見える。一方で、午後6時に同じ問題について考え込み、疲れ果てて決断できない人は、何かで失敗しているように見える。2人とも同じくらい意志が強いかもしれない。ただ、意志力を消費しているのはそのうちの1人だけだ。
あらかじめ決めておく習慣で注意すべき点
この話を、「生産性こそすべて」というものにしてしまわないために、2つの点を押さえておく必要がある。
第一に、その瞬間に発揮する意志力が役に立たないわけではない。自制心は1日を通して徐々に空になっていく燃料タンクのようなものだという従来の考え方は検証によって十分に裏付けられていない。学術誌『Psychological Science』に2021年に掲載された研究では36の研究施設で同時に実験を行ったが、あらかじめ手法を確定させた厳密な分析でその効果を示す証拠は得られなかった。努力は依然として有効だ。ただ、それには大きな負荷がかかり、一貫性にも欠けるため、人生の基盤とするには不向きなのだ。
第二に、誰もが自由に生活リズムを調整できる環境にあるわけではない。夜勤をする人や、予告なく介護のニーズが変わる親の世話をしている人などはあらかじめ物事を決めておける余地がはるかに少ない。個人の自制心の表れだと解釈されているもののかなりの部分は、実際にはその人が置かれた状況の表れにすぎない。そして、あらかじめ決めておく習慣が度を越してしまうと、予定通りにいかない日がまるで失敗であるかのように感じられてしまうようになる。
実際に役立つ方法はそれほど大げさなものではない。自分が何度も判断を誤っていることを1つ選び、その決断をまだ問題が現実のものになっていない早い段階に行うようにするのだ。そのきっかけとなるシグナルを何にするか、そしてそのシグナルが来たときにどう行動するかを決めておく。そして、自分の周囲の環境を1つだけ変え、これまでの行動を取る方が新しい行動を取るよりもわずかに労力がかかるようにする。
これこそが自制心のある人とそうでない人を分ける違いであり、それは意志の強さというより「いつ考えることを選ぶか」の違いなのだ。


