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2026.08.31 11:00

AIを事業成果へ―― FLUXが「人と組織」の変革まで支援する理由

「AIを導入したが、思ったほど事業成果につながらない」——。

すでに多くの企業が、この課題に直面し始めている。AIの導入をゴールにするのではなく、確かな事業成果へとつなげるには何が必要なのか。

かねてより「AI時代の価値の出し方」について論じてきた早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄教授をゲストに迎え、「AIイネーブルメントパートナー」を掲げ、累計調達額が約160億円に到達したFLUX代表取締役の永井元治が、AIを企業の事業成果に結びつけるための方法について語り合う。


AI戦略から人材戦略まで。FLUXが担う企業変革とは

FLUXは現在、AI戦略の策定、PoC・開発・運用、業務改革、組織設計、人材採用までを一体で支援する「AIイネーブルメントパートナー」のコンセプトを掲げている。単にAIを開発・導入するのではなく、組織設計や人材活用まで踏み込んでAIを事業成果に結びつける支援を行うのが特徴だ。2026年5月にはシリーズCファーストクローズで総額60億円の資金調達を実施し、累計調達額は約160億円に達した。

──FLUXは、AIの構想から事業成果につなげるまで、どのような支援を行なっているのでしょうか。

永井:私たちは、企業がAIを自社の業務に組み込み、継続的に成果を出せる体制をつくる支援をしています。

従来のコンサルティングは、リサーチ、分析をして、スライド資料を作り、戦略を提案する仕事が多かったと思います。もちろん、そうした整理が必要な場面はあります。しかし、AIが調査や分析、資料作成を担うようになれば、その作業自体の価値は下がっていきます。

私たちが行う支援は大きく3つあります。第一に、AIをどの業務で使うかという戦略を描き、必要な開発や実装を行うこと。第二に、導入したAIを売上の拡大やコスト削減などP/L(損益計算書)への影響につなげるため、業務の進め方や組織、人の役割まで見直すこと。第三に、変革に必要な専門人材の採用を支援することです。AIの構想と開発だけでなく、現場への定着と人材の確保までを一体で担うのが、私たちの仕事です。

FLUX代表取締役の永井元治
FLUX 代表取締役 CEO 永井元治

──それを「AIイネーブルメントパートナー」と表現しているのですね。

永井:はい。AIを使えるようにするだけでなく、企業がAIによって成果を出せる状態までつくる。その意味で「イネーブルメント」という言葉を使っています。

AIツール等を導入するだけでは、売上や利益への影響は限定的です。成果につなげるには、対象となる業務を定め、誰がAIを使い、それに合わせて人の役割や組織をどう見直すのかまで設計する必要があります。そこまで進めて初めて、AI導入が企業変革になると考えています。


──入山先生は、この位置づけをどう見ていますか。

入山:とても重要な方向だと思います。調査や分析、資料作成のかなりの部分はAIでできるようになるため、従来型のコンサルティングは変わらざるを得ません。

一方で、企業の中で人を動かすことは、AIだけではできません。正しい分析結果を示しても、相手が納得し、行動し、組織が変わらなければ成果にはつながらないからです。AIの導入と、人や組織の変革は切り離せません。「AIイネーブルメントパートナー」という言葉は、単なる呼び替えではなく、企業変革で担うべき仕事が変わったことを示しているのだと思います。

早稲田大学 大学院経営管理研究科 入山章栄教授
早稲田大学 大学院経営管理研究科 入山章栄教授

AI時代に価値が高まる「人を動かす力」

──AIが前提となる時代に、人と組織はどう変わっていくのでしょうか。

入山:私は、これから価値が上がるのは「感情労働」だと話しています。AIは、情報を集めて分析し、一定の答えを出すことは得意です。しかし、会社の中で正論をそのままぶつけても、人は動きません。むしろ反発されることもあります。

組織を変えるには、相手の不安を受け止め、励まし、巻き込み、ときには一緒に動くことが必要です。AIが普及するほど、人間同士の関係を築く力が重要になります。

永井:私たちもそこは強く感じています。全社でどの業務にどのAIを配置し、コストをどう抑えるかという設計には高度な知見が必要です。しかし、知識だけでは組織は動きません。

実際に現場へ入り、関係を築きながら変革を進める人も必要です。以前、お客さまに評価していただいた理由を聞いたところ、「技術的な支援も良かったが、一番は休日に一緒に山へ登ってくれたこと」と言われたことがありました。

入山:それは象徴的ですね。全社のAI設計ができて、休日にはお客さまと山にも登れる。理想はその両方を一人で担える人ですが、そんな人はそう多くありません。だからこそ、異なる強みを持つ人がチームを組むことが重要なのでしょうね。

永井:そうですね。私たちも同様に考えており、AIの設計に強い人と、現場でチェンジマネジメントを担う人がチームを組んで支援することもあります。

──FLUXでは、どのような人材を採用しているのでしょうか。

永井:大手コンサルティングファーム出身者や大企業で事業を推進していた人材、AIエンジニアやデータサイエンティストなど多種多様ではありますが、かなり単純化して言えば、「明るく、元気で、素直な人」です。

入山:やっぱりね。明るく、元気で、素直な人ですよね。AI時代は、理屈が正しいだけでは人も組織も動きません。相手に働きかけ、関係を築き、「この人と一緒に変えていきたい」と思ってもらえる力が重要になります。

AIの普及によって、多くの人が似たような答えにアクセスできるようになります。そこで差が出るのは、インターネット上の公開情報ではなく、信頼関係の中で初めて得られる情報です。公にできず、AIにも入力しにくい情報を受け取れるかどうか。その意味でB2Bの営業や顧客接点の価値は、むしろ高まる可能性があります。

──専門知識だけでは、「AIに置き換えられない人材」にはなれないということですね。

入山:もちろん専門知識は必要です。それは、AIが出した答えを見て、「これは違う」「これは使える」「こちらと組み合わせるべきだ」と判断するためのもの。経験に裏打ちされた専門性がものを言うんです。あとは気合いですね。

永井:私たちも、知識だけを持つ人ではなく、お客さまの現場で経験を積み、人と向き合える人を重視しています。AIに関する研修はFLUXでも提供しているので受けて学べますし、分からないことをAIに聞くこともできます。一方で、人を動かす力は、現場で対話し、試行錯誤する中でしか磨けません。技術とチェンジマネジメントの両方を実務で学べることは、FLUXで働く一つの成長機会だと思います。

AI導入と「人と組織」の変革を切り離さない理由

──ここまでのお話から、FLUXがAIによる組織変革と人材支援を一緒に行う理由が見えてきます。

永井:AIを導入すると業務の進め方が変わり、人の役割や必要な能力も変わります。そこで欠かせないのが、現場の理解を得ながら新しい業務を定着させ、必要に応じて組織や人材活用を見直すチェンジマネジメントです。

外部から専門人材を採用する場合もあれば、既存社員の役割を変える場合もあります。私たちがAI戦略や開発だけでなく、人材の採用や配置まで一体で支援するのは、技術と人と組織を同時に変えなければ事業成果につながらないからです。

入山:本当にAIを導入するなら、一番変えなければならないのは人事です。経営学では、過去につくられた制度や慣行が、その後の選択を縛る状態を「経路依存性」と呼びます。会社は業務、組織、人事制度など複数の要素が噛み合って動いているため、AIツールだけを1カ所に入れても、ほかの仕組みが以前のままなら全体は変わりません。

本当に変革するなら、業務、組織、人材を同時に変える必要があります。FLUXがAIと人材支援の双方を扱うことには、そこに理由があるのでしょうね。

──業種によって、AI変革の進めやすさに違いはありますか。

永井:業種による違いはあります。金融のようにデータに基づく意思決定が定着している業種は比較的進めやすい。一方で、製造業や営業現場のように、判断の多くが経験や暗黙知に支えられている領域は実装に時間がかかることもあります。

ただし、そうした現場には長年にわたって蓄積されたデータやノウハウがあります。たとえば、熟練した営業担当者の判断や顧客対応を整理してAIで扱える形にできれば、個人に閉じていた知見を組織で活用できるようになります。製造現場でも、画像や設備のデータに熟練者の判断を組み合わせる余地があります。難しい分、実現したときの影響も大きいと考えています。

『AI×人と組織』で、事業変革へ。

入山:日本企業には、製造やサービスの現場、顧客との長い関係、熟練者の暗黙知など、AI時代に生かせる資産が多くあります。

AIそのものは多くの企業が使えるようになるため、導入しただけでは競争優位になりにくい。重要なのは、その会社に蓄積され、他社が簡単には模倣できない知見です。ただし、それを生かすには、縦割りの組織や人の役割、評価の仕組みも変えなければなりません。

永井:私たちが支援したいのも、まさにそこです。日本企業には、資本や人材、現場に蓄積された知見をより有効に生かすことで成長できる余地があります。

AIは、その成長余地を引き出すきっかけになり得ます。ただし、AIを入れれば自動的に企業が変わるわけではありません。私たちはAIを導入するだけでなく、業務、人材、組織まで変え、事業成果につなげていく。その積み重ねによって「日本経済に流れを」生み出していきたいと考えています。

FLUX


永井元治(ながい・げんじ)◎FLUX 代表取締役 CEO。ベイン・アンド・カンパニーに入社し、大手通信キャリアの戦略立案・投資ファンドのデューデリジェンス・商社のM&A案件などに従事。2020年「Forbes 30 Under 30 Asia」選出。2018年5月に株式会社FLUXを創業、代表取締役就任。慶應義塾大学法学部卒業。

入山章栄(いりやま・あきえ)◎早稲田大学大学院経営管理研究科教授。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て現職。専門は経営戦略、グローバル経営。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表し、著書に『世界標準の経営理論』などがある。

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