シリーズBで15億円超の資金調達を実施したALGO ARTIS (アルゴ・アーティス)。同社が社会インフラ領域で推進する「計画DX」とその技術力が多くの投資家を引きつけた。この「計画DX」は、企業経営にどんなインパクトをもたらすのか。同社CEOとリード投資家に聞いた。
大規模工場の生産計画、エネルギー事業の燃料運用計画、鉄道やバスのダイヤ。「計画は企業の要」として、計画の作成業務のDXに着目するのがALGO ARTISだ。2026年にはシリーズBラウンドで15.38億円の資金調達に成功したスタートアップで、世界トップレベルのアルゴリズムエンジニアによる「計画DX」を提唱する。
独自のソリューション「OPTIUM(オプティウム)」は入力した条件に対して、即座に最適化された計画を打ち返す。生産効率の向上やコストの大幅な削減などの効果が買われ、製造業や電力会社、鉄道・バス会社で導入が相次いでいる。
リード投資家のSalesforce Ventures日本代表・パートナーの浅田賢は、同社のAIソリューションは産業界にとって非常に重要と説明する。そこには、計画業務を巡る“現場の事情”が大きく関係していた。
最適ではない計画が損失をもたらす
——Salesforce Venturesが投資を決めた理由を教えてください。
浅田 賢(以下、浅田):ALGO ARTISの推進するAIを活用した「計画DX」が、社会に大きなインパクトを与えると感じたことに尽きます。永田さんから話を聞いて、最適ではない計画が企業に大きな損失をもたらしている現実に気づき、一刻も早く解決すべきだと思いました。
——なぜ「計画」が企業に損失をもたらすのでしょうか。
永田健太郎(以下、永田):そもそも計画は、あらゆる企業活動の根幹にあります。ところが、計画業務は依然として手作業です。大手企業でも、限られた熟練者が表計算ソフトを使って運用し、属人的な判断に依存しているのです。
DXが進まない理由のひとつは複雑性の高さです。例えば生産計画で、ラインで生産する製品を切り替える際、その種類と順番によってかかる時間やコストが異なるなど、細かな条件が膨大にあります。
もうひとつの理由は、計画には時間軸があるため、そのパターンが膨大にあるということです。非常に複雑とされる囲碁や将棋の指し手の組み合わせは10の100乗から400乗といわれますが、社会インフラの計画は10の700乗を超えるものが珍しくありません。
それでも変化する状況に応じて計画を迅速に立て直し、最適な意思決定をするのが本来の計画業務であるべきです。
しかし従来の手法では膨大なパターンから優れた計画を見つけ出すことは非常に難しかった。ですから熟練者の経験に頼り、人の手で計画をつくるしかありませんでした。
浅田:この問題が根深いのは、企業にとって「隠れた負債」になりかねない点です。複雑で難易度の高い業務であるため属人化しやすく、かつ問題を抱えていることが経営者層から見えにくい。担当者自身も課題を自覚できておらず、経営改善の盲点となっている可能性があります。
逆にいえば、この負債を解消することによる社会的・経済的インパクトはかなり大きいと予測できます。
特に、ALGO ARTISがこれまで支援してきた電力、物流、製造、交通といった社会インフラ領域は、計画が最適化されて燃料費が1%改善するだけでも数億円から数十億円レベルの改善効果が見込めるでしょう。人口減少や熟練者不足、CO2排出量削減、サプライチェーン複雑化といった社会課題の解決も期待できます。
暗黙知を引き出すプロトタイピング
——「計画DX」によって、具体的にどう課題を解決していくのでしょうか。
永田:例えば私たちが得意としている分野のひとつに「配船計画」があります。エネルギー産業や製造業では燃料や原材料を船舶で輸送するにあたり、いつどの貨物をどの船に積み、どの港へいつまでに届けるかという計画が必要です。その計画次第で燃料費や船舶の利用料が大きく変わるほか、輸送先の在庫量や生産計画も考慮しなければなりません。
こうした複雑な条件を正確に把握するためには、担当者の方の協力が重要です。しかし条件の多くは暗黙知となっていて、ヒアリングで把握できるのは3割程度。そこで私たちはその時点でプロトタイプを迅速に作成して見てもらい、「ここは違う」といった具体的なフィードバックをもらうようにしています。
このフィードバックこそが暗黙知を形式知化するプロセスであり、時には現場の本人も気づいていなかったような矛盾が出てくることもあります。プロトタイプを通じたコミュニケーションで、暗黙知を含めた条件をすべて把握していきます。
浅田:計画業務改善のソリューションは失敗例も多く聞きますので、ALGO ARTISが現場に深く入り込んでいると聞いて納得しました。現在、「FDE※」が注目されていますが、早くからそれを実践してきたことに驚かされましたし、投資を決めた理由のひとつでもあります。
※ Forward Deployed Engineer(現場で価値が出るまで責任をもつエンジニア)
私たちが今、投資にあたって最も留意しているのは、「汎用AIに取って代わられないか」という点です。プロトタイプを作成して現場との対話を重ね、暗黙知を引き出していく手法は、汎用AIでは代替できません。世界最高峰の競技プログラミング大会で2位に入賞したエンジニアが在籍するなど、トップクラスの技術者が揃っている強みも存分に生かしています。
しかも、顧客固有のワークフローに深く入り込んでいるため汎用AIがアクセスできないデータを取り扱っています。これらの要素をすべて満たしているスタートアップは、市場を見渡してもなかなかありません。
さらに、特定の業界に特化せず、計画というあらゆる業界に横展開可能な領域に取り組んでいるのも魅力的です。高い競争優位性と将来性があり、今後飛躍的に成長する可能性が大きいと見ています。
計画DXを世界に打って出る
——計画DXの可能性をどう見ますか?
永田:計画の最適化は、日本だけでなく世界共通の未解決課題だと考えています。
複雑な条件下にある無数のパターンから最適解を探し出す「ヒューリスティック最適化」を核としたAI・アルゴリズムを活用して、最適な意思決定を支援する私たちの計画DXは、日本の高度なオペレーショナル・エクセレンスで鍛え抜かれることで、グローバルスタンダードにもなりうる。
そのためにもシリーズBで得た資金で、まずは2年後までに倍増の200人体制とするため、人材採用を強化していきます。
浅田:日本の社会インフラ企業の「現場力」は世界トップクラスです。そこに深く入り込んで暗黙知の知見を吸収し、計画を最適化する技術を組み合わせれば、日本発のグローバルスタンダードを狙えるポテンシャルを十分に秘めていると思います。
ALGO ARTIS
https://www.algo-artis.com/
ながた・けんたろう◎ALGO ARTIS代表取締役社長兼CEO。宇宙物理学で博士号取得後、業務コンサルティング会社を経て2009年にDeNAへ入社。2018年にAI活用の最適化プロジェクトを開始。事業化の後、2021年にスピンオフしALGO ARTISを起業。
あさだ・けん◎Salesforce Ventures日本代表、セールスフォース・ジャパン常務執行役員。インテルキャピタル、NTTドコモ・ベンチャーズを経て2020年より現職。日本・韓国・台湾市場での投資をリードしている。ロンドン・ビジネス・スクールMBA。



