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2026.08.25 11:00

進化し続ける金融、その先へ クレディセゾンが挑む次の成長戦略〈前編〉

創業75年を迎え、月賦百貨店からカード会社、そして総合金融へと時代に合わせて自らのあり方をピボットさせてきた歴史をもつクレディセゾン。 多角化・グローバル化・DXが進む同社の現状と未来について、同社取締役兼常務執行役員の足利駿二に話を聞いた。

前後編にわたってお届けする本企画。
前編では、同社が掲げるビジョン「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY」の真意をはじめ、国内でのプレミアム戦略、全社AI活用の実態、そして若手の情熱で駆動するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の挑戦について深掘りする。


 ――貴社では現在、2030年に目指す姿として「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY〜金融をコアとしたグローバルな総合生活サービスグループ〜」を掲げています。このビジョンについて、お教えください。

足利駿二(以下、足利):現在、私はブランディング領域を統括する立場で、この「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY」というビジョンを社内外に実装するプロジェクトを率いています。この言葉は人によって少しずつとらえ方が違っていて、非常に面白いんです。当社会長CEOの林野からは「『ニュー』ではなく、あえて『ネオ』という言葉に情熱が込められている」という話が挙がりました。単に新しいものを追うのではなく、変化や進化、前へ進むための勇気や挑戦を示す言葉なのだと思います。

また、「グローバル」という言葉にしても、世界には「グローバル」という単一の市場があるわけではありません。そこにあるのは当社が事業を展開するインド、メキシコ、ブラジル、そして日本というそれぞれのローカルであり、その集合体こそがグローバルだと考えています。現在、当社は日本国内のビジネスポートフォリオが圧倒的なシェアを占めていますが、先々を見据えて、ポートフォリオをさらに多様な海外ローカルへと適切に分散していく。この進化へのチャレンジもまた「ネオ」だと考えています。

そのうえで私たちが今取り組んでいるのは、単なる業務効率化ではなく、本質的な「業態の変革」そのものです。当社の歴史をひもとけば、もともと月賦百貨店からスタートし、クレジットカード会社へピボットし、現在の総合金融・多様な海外事業へと進化を重ねてきました。かつてのセゾングループの歩みを振り返っても、吉野家やファミリーマート、J-WAVEやイープラスといった異業種への事業展開を手がけてきたように、当社には変化を好む強烈な気質が根付いています。「金融」という枠にとらわれず、絶えず進化や挑戦を続けていくのが当社の社風です。

プレミアム戦略が提供する「圧倒的な体験価値」

――変化を続けるなかで、貴社のコアであるペイメント(決済サービス)事業はどのように位置づけられていますか?

足利:構造改革で生み出した原資を顧客体験に再投資する「プレミアム戦略」を推進しており、会員様に人生を豊かに過ごしていただくための「圧倒的な体験価値」の提供へとかじを切っています。当社ならではの「中長期で本物の文化や食を応援し、その価値を会員様に還流する」という独自のコンセプトを設計しました。

例えば、永久不滅ポイントを活用して提供できる価値を高める取り組みとして、軽井沢のウイスキー蒸留所の訪問・見学、将来的にはそのウイスキーを購入できる体験、熊本のブランド牛や鹿児島の希少な蜂蜜、伝統的な宇治抹茶など、本物の価値を会員様にお届けすることを検討しています。

この取り組みは中長期的に日本の素晴らしい生産者を支えることにつながると考えています。25年より開始した映画優待サービス「セゾンの木曜日」は、すでに利用者数60万人を突破する大ヒットとなっています。ほかにも星野リゾートとのポイント連携なども展開しており、「プラスの感動を最大化するアプローチ」をプレミアム戦略の大きな柱としています。

カード会員の永久不滅ポイントを活用して体験できる取 り組みの一つとして、軽井沢のウイスキー蒸留所の訪問・ 見学をはじめとした特別な体験の提供を検討している。
カード会員が永久不滅ポイントを活用して楽しめる特別な体験を次々に提供していく。軽井沢のウイスキー蒸留所の訪問・見学はそのひとつ。

また、私たちは「プラスの感動」だけでなく、会員様にとっての「セーフティネットとしてのアプローチ」も非常に重視しています。特に、ご高齢の会員様も多いため、例えばスマートフォンのアプリ操作に迷われたり、不慣れな決済に不安を感じられたりといった場面も多々あります。こうした瞬間に、最先端のAIやDXのテクノロジーを機能させ、迅速に回答を提示できるサポート体制の強化を進めています。

具体的には、AIが会員様の利用状況を予測して引き落としトラブルを未然に防ぐ仕組みづくりや、親御さんの急逝に伴う口座凍結や相続といった深刻な生活の困りごとに対して、スルガ銀行との連携も含め検討を日夜重ねています。

AI利用率は全社員の9割以上

――顧客体験向上のために、AIなどの技術活用も積極的に行っているわけですね。

足利:当社のDXとAI活用におけるスタンスは「やるなら徹底的に振り切る」です。AIを人員削減のためではなく、人がより創造的な仕事に挑戦するための強力な相棒と考え、「ChatGPT Enterprise」を配布した結果、現在、全社員の9割以上が日常的に使いこなしています。

当社では、AIを単なる業務効率化ツールではなく、アイデア創出や壁打ちのパートナーとして活用しています。ある月は、その利用が想定を大きく上回り、一部機能で一時的に利用制限がかかったほどです。他社からも「エンタープライズの規模でこうしたことが起こった事例は知らない」と驚かれていました(笑)。

また、熟練の暗黙知の形式知化や終礼の議事録作成の自動化など、AIを活用した業務改善が次々と生まれています。さらに、現場職を対象にした「ChatGPTカスタマイズ提案コンテスト」も開催し、現場発のアイデア創出を後押ししています。この最前線の進化を目の当たりにすることで、管理職も強い焦りを感じてさらに高次元の仕事を模索するという知的連鎖が組織内に起きています。

結果として、当社は4年連続で経済産業省などの「DX銘柄」に選定されており、現在は5年連続の獲得を目指しています。AIによる業務時間削減も19年対比ですでに200万時間以上を達成しておりますので、今は2027年度末までに累計300万時間削減が目標です。

――AIの活用によって、マネジメントのあり方はどのように変化しましたか?

足利:意思決定のスピードを高める手段として、定型的な管理業務をAIに代替させ、一部の権限に応じた責任と適切な内部統制を前提とした現場への権限委譲も進めています。これにより、これまで役員や部長レイヤーが費やしていた定型的な管理・承認の時間を削減し、空いた分のリソースをM&Aや上流の戦略業務へとシフトさせています。

また、デジタルに限らず、人事制度でも「面白いからやってみよう」という取り組みは数多くあります。その象徴が「チャレンジ型登用制度」です。アルバイトであっても「部長や課長になりたい」という強い意志とプレゼンさえ通れば、上長を飛び越えて直接管理職に抜てきされるユニークな仕組みを本気で運営しています。

さらに挑戦を称賛し、業績の成果を社員に還元する取り組みとして、今年は通常の賞与とは別枠で、年収にかかわらず電話オペレーターや事務を支えるスタッフ、約4,000人の全社員に対して一律120万円の特別決算賞与を支給しました。そんな「びっくりするような驚きや面白さがあるからこそ、また次の挑戦を楽しめる」という空気感そのものが、セゾンらしさであり私の大好きなカルチャーです。

若手の熱で駆動するCVC

――「挑戦を称賛する文化」は、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である「セゾン・ベンチャーズ」を通じた外部のスタートアップ投資・支援の姿勢にも表れているように思えます。

足利:21年から私が社長を兼務させていただき、これまで約90社以上の有望なベンチャー企業へマイノリティ出資を行ってきました。私たちの投資方針は極めてシンプルで、従来のCVCにありがちな「自社事業との確実なシナジー」や「手堅い回収プラン」といった形式的なロジックをガチガチに問い詰めることはしません。

最大の目的は、命懸けで勝負する起業家に伴走し、共に修羅場をくぐることで、担当する当社の若手社員のケイパビリティを爆発的に伸ばすことにあります。1社あたりの出資額は数千万円から1億円程度。万が一うまくいかなくても会社が揺らぐサイズではありません。少額からのチャレンジだからこそ、若手が「この社長を本気で応援したい」と熱意をもてば、その直感を信じて投資と裁量を任せることができるのです。

この投資方針を実践できるのは、私たちが初期に投資した案件から生まれた一本のメガヒットによって、ファンド全体の累計投資原資をほぼ全額回収しているからです。そのうえで、毎月安定した事業利益を今なお組織にもたらし続けている。「投資原資をほぼ回収しきっている」という強固な財務的余力があるからこそ、私たちは細かい数字におびえることなく、次なる挑戦者の純粋な志に思い切って投資できるのです。

例えば現在、私個人が最も強い興味をもっているのが「空の領域」です。ヘリコプターや空飛ぶ車のモビリティベンチャーとの事業連携を検討しており、「もし数年後にクレディセゾンが空飛ぶ車を運営する主役になったら、どんなワクワクする顧客体験を提供できるか」を本気で考えています。そうした壮大な遊び心をもってフロンティアを開拓する背中を経営陣が見せることこそが、組織全体の熱量を引き上げる好循環を生むのだと確信しています。

後編はこちら

クレディセゾン
https://www.saisoncard.co.jp/


あしかが・しゅんじ◎クレディセゾン取締役兼常務執行役員、セゾン全社法人営業戦略、ブランディング戦略部 管掌、セゾンAMEX事業部長、セゾン・ベンチャーズ 代表取締役社長、Fintertech 取締役を兼務。1994年、ユーシーカード入社後、2011年にAMEX戦略グループ部長、18年に取締役などをへて現職。他社への多様な出向経験や数々の国内事業の構造改革、多角化戦略の最前線を歴任。

promoted by クレディセゾン / text by Michi Sugawara / photographs by Masahiro Miki / edited by Akio Takashiro