ティファニー 銀座の4階、「Blue Box Café by Natsuko Shoji」。そのアフタヌーンティーに欠かせないサンドイッチは、四角い食パンを丸くくり抜いてつくられている。では、残った切れ端はどこへ行くのか。オープンから1年、それはクラフトジンに形を変えた。
カフェを監修するのは、庄司夏子。1日1組、完全紹介制のレストラン「été(エテ)」を率い、「Asia's 50 Best Restaurants」でベストペストリーシェフと最優秀女性シェフの二冠に輝いた料理人だ。
オープン直後の2025年8月、カフェを旧知の人物が訪れた。茨城の酒造メーカー・木内酒造の9代目、木内敏之。庄司とは4年来の付き合いになる。木内は、丸くくり抜かれたパンに目を留め、「切れ端はどうしているのか」と尋ねた。
答えは「まかない」だった。しかし、揚げたりフレンチトーストにしたりするも、すぐに飽きてしまったという。パン粉にしたところで使い切れる量ではない。肥料として引き取ってくれる動物園がないか探したが、断られた。成分を把握できないものは動物に与えられないということだった。
行き詰まった庄司は、のちに木内に電話をかけた。酒づくりのプロフェッショナルである木内が答えを出すのは早かった。
「パンはお酒にできますよ、と伝えしました。アルコールはもともと、穀物の余りものからつくられてきた歴史があるんです。パンを水に浸して発酵させたのが、ビールの起源。ただビールだと、穀物の形や色が残るから、廃棄物だったことを思い出させるかもしれない。でも、そのビールを蒸留してジンにすれば、無色透明になる。それならラグジュアリーのイメージにもフィットするのではないかと思い、ジンを提案しました」
こうして、廃棄されるはずだったパンの切れ端をジンへとアップサイクルする試みが始まった。
パンからジンができるまで
つくり方はこうだ。冷凍した切れ端を茨城の酒蔵に運び、おかゆ状に戻して麦芽を加える。パンのでんぷんはそのままでは発酵しないので、麦芽の酵素でいったん糖に変えて、発酵させる。ここまでで、ビールができる。それを蒸留する。
ボタニカルには、茨城県産の柑橘「福来(ふくれ)みかん」を選んだ。種が多く、実はぼそぼそとして食用には向かない。果樹園ではなく家の庭先に生え、いまはほとんど放置されている日本の原種である。かつては皮を乾かし、薬にも使われたという。その来歴も庄司は気に入った。
ジンがうっすらとにごって見えるのは、皮の油分によるもの。冷凍して固めて取り除くこともできるが、香りが減ってしまうため、あえてそのまま残している。
1回の蒸留に使うパンは100kg。年間1〜2トンの切れ端がジンになる計算だ。ただし、通常の製法なら1万本つくれる工程で、できるのは500本だという。



