グロースIPOの6割が公開価格割れ。「初期の値付け」の妥当性を聞いた。VCとの調整、市場の目。IPO価格算定の最前線が直面する3つの構造的課題。
本誌調査で2023年以降にグロース市場に上場した175社のうち、約6割が公開価格に対し値下がりしている(初値ベースでは約8割)という結果が明らかになった。
以前は証券会社が株価を意図的に低く設定する「アンダープライシング(IPOディスカウント)」が過大であるとの指摘もあった。投資家に配慮するあまり、公開価格を抑えすぎているのではないかという見方で、上場時に初値が公開価格の倍以上になるケースも少なくなかった。この振れ幅の大きさは、日本のIPO市場における値付けの構造的な課題を示唆している。価格算定の現場は今、何を課題とし、どう対処しているのか。三菱UFJモルガン・スタンレー証券で上場企業の価格決定に携わる高橋照典に実態を聞いた。
公開価格算定の構造的な課題は大きく3つある。ひとつ目が、上場規模が小さすぎる「小粒上場」。時価総額が小さいと、上場後の日々売買代金が数千万円程度に留まってしまい、市場での流動性が枯渇する。時価総額100億円を切る銘柄は「売りたいときに売れない」リスクとなるため、有力な機関投資家は最初から参入せず、上場後も株価が低迷し続けてしまう。
100億円未満で上場した企業の多くはその後も低迷し続けるため、本来なら、十分な流動性が期待できるタイミングまで事業を育てて「待つ」のが理想的と言える。証券会社は上場をゴールに支援すべきではない。あわせて、上場時の投資家需要が案件規模と同水準にとどまれば、上場後に売りたい投資家が出ても買い手がいなくなる。そこで超過需要をあらかじめ数倍積み上げ、長期保有の投資家に厚く配分することで、短期的な売り圧力を抑制しつつ、上場後の買い支え層を残しておく。この需要と配分のバランスの欠如が、上場直後の株価急落を招く一因になる。
VCとの綱引き、価格の非対称性
ふたつ目がベンチャーキャピタル(VC)との利害調整で規模の適正化と同時に向き合う必要がある課題だ。一般にVCはいずれ保有株を売却する存在と見られており、その保有株が大量に残っていると新規投資家は参入しにくい。未上場市場の過熱でVCの取得価格が実態以上に高騰していれば、VC側は過去の調達水準を下回る「時価割れ」を回避するインセンティブが生じるが、上場市場の投資家は実態を冷静に現状のビジネスを見極める。
また、未上場企業は開示情報の蓄積が少なく、投資家からはリスクが読みにくいという情報の非対称性もある。このようなリスクを踏まえたうえで、投資家と発行体とのエンゲージメントを高めてIPO価格が決定されていく。「IPOディスカウント」は、そのようなリスクを吸収する一つの手段である。IPO後の株主となる機関投資家の見方を踏まえずに価格決定を実施してしまうと、実態とかけ離れたIPO価格となり公開価格割れに直結する。



