3つ目の難題が、バリュエーションの「物差しの不在」だ。独自性のあるスタートアップほど、一致する類似企業がない。比較対象を誤って選べば本来より低い倍率で値付けされかねず、かといって恣意的に類似企業を選べば、機関投資家の信認を得られず、案件自体が崩れる可能性がある。
例えば定置用蓄電池を国内展開するパワーエックスの上場では、伝統的な国内の蓄電池メーカーとは成長率が異なり、一方で世界最大手の蓄電池メーカーはEV向け中心のグローバル企業である点などで事業モデルが違っており、単純比較は困難であった。こうしたケースでは、成長率や粗利率といった財務数値の積み上げ、将来の売り上げを想起させる受注残、市場のマクロモメンタム、ユニークなポジショニングなどを訴求し「この会社をどの評価軸で捉えるべきか」を投資家とすり合わせる「エクイティストーリー」が不可欠になる。
近年の市場の乱高下を背景に、IPOの価格決定プロセスそのものの機能不全を指摘する声もある。だが崩れて見える局面があるとすれば、それは仕組みの欠陥というよりは、関係者の運用のエラーに起因する。
機関投資家からいかに納得と十分な需要を引き出せるか。今現場に問われているのは、その調整の質そのものだ。
パワーエックス|2025年12月19日、グロース市場に上場。公開価格1220円でスタートし、初値は1130円と一時公開価格を下回ったが、その後は2日連続のストップ高を記録した。26年2月期の業績予想達成や増収・黒字転換方針への期待から株価は上昇を続けている。6月末の株価は1880円に達している。
タイミー|2024年7月26日、グロース市場に上場。公開価格1450円でスタートし、初値は1850円と28%上回った。上場規模はソフトウェア企業として過去最大級で、増収増益を続け堅調な評価を維持している。大型IPOは未上場時の評価額を上回りやすく、タイミーもその一例だ。6月末の株価は1522円。
たかはし・てるのり◎2000年日興ソロモン・スミス・バーニー、07年モルガン・スタンレー入社。投資銀行本部金融法人グループにて金融機関のM&Aやファイナンス案件に従事。19年、スタートアップ・アクセラレーション・チームを創設し、現職。


