賃上げできず、中核人材が流出
近年の「従業員退職型」倒産では、2025年以降、コスト上昇分をサービスや商品の価格に転嫁できず、「賃上げ原資」を確保できないことで、事業の中核を担う人材の流出を止められないケースがみられる。
貨物運送を手掛けていた『東海サービス』は、受注環境の激化や燃料費の高騰によって収益性が圧迫されるなか、ドライバーの賃上げを進めることができず退職が相次いだ。同社は2026年5月に破産した。
内装工事を中心に展開していた『五十嵐建設』では、中核メンバーの独立や退職が相次ぎ、人手不足が深刻化。損益面でも赤字になるなど厳しい業況に陥り、最終的に事業継続を断念した。同社は2025年12月に破産している。
帝国データバンクは、労働市場の流動性が高まっていることも背景に、前年にもみられた「待遇改善をしないことによる人材流出リスク」が顕在化していると分析している。また、少数の熟練技術者や中心メンバーに事業の根幹を依存している企業では、従業員のケガや長期離脱によってオペレーション能力が低下し、倒産につながったケースもみられた。
「採用難」だけではない人手不足リスク
帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日発表)では、正社員について2社に1社の割合で人手不足を実感していることが分かった。人手不足が深刻化するなか、新たな人材を確保できない「採用難」と同様に、既存の従業員の「退職」も大きな経営リスクとなっている。
一方、業績悪化などを理由に賃上げしたくてもできない企業も少なくない。帝国データバンクでは、十分な報酬を支払う余力のない中小・零細企業を中心に「従業員退職型」倒産は今後も高水準で推移する可能性があるとしている。
人手不足への対応というと、新たな人材をどう確保するかに目が向きがちだ。しかし、採用することだけでなく「今いる人材」が働き続けられる環境をどうつくるか。それもまた企業の存続を左右する経営課題になっているのではないだろうか。


