──売上高の伸び率は25年12月期に前年比約8%増とやや鈍化した。
神谷:サブスク拡大と広告単価の下落が交差するタイミングで、一時的に成長が鈍化したとみている。アクティブユーザー数は減っていないが、景気の波や広告配信サービス側のルール変更によって、広告が1回表示されたときの単価が落ち込んだ。広告収入はプラットフォーム側の都合に左右されやすく、自分たちでコントロールできないリスクがあるため、株主への説明も大変だった。一方で、サブスクのウェイトが高まるほど収益が安定し、成長予測もしやすくなる。鈍化はビジネスモデルの転換点として想定内と言える。
「ライン取り」で有料化を加速
──有料会員を増やすための次の一手は。
神谷:現在、4000万人のユーザーに対してサブスク会員は約40万人と、有料プランへの転換率はまだ1%程度にとどまっている。今後はその移行はより強力に進め、3年後をめどに85万人に倍増させ、サブスク売り上げで27億円を目指している。最も有効なのは、サブスクユーザーのみが利用できる機能の追加で、新機能を投入するたびにサブスク会員数は着実に伸びている。ただ、無料ユーザー向けのきめ細やかな利便性向上も必要なため、新たに追加する機能は無料版に入れるか、有料版に入れるかはチームで毎回ディスカッションして決めている。
もうひとつ重要な視点は、無料ユーザーに「ここから先は有料機能です」という境界線を提示するタイミングの最適化だ。社内では「ライン取り」と呼んでいるが、数十人の特殊チームが利用データを徹底的に分析し、どのタイミングで、どのように有料プランへ誘導するのが最も効果的かを日々検証している。
サブスク獲得以外の新たなマネタイズ施策として、AI機能を使った分だけ料金がかかる「スマートクレジット(従量課金制)」を、今年中に導入する予定だ。高度なAI機能はサーバー側のGPUで処理するため大きなコストがかかる。そこでAI機能を使った分だけ追加課金する仕組みにしていく。我々はお絵描き用途に特化している分、高性能なAIをよりリーズナブルに提供できるのが強みだ。月300円のサブスクユーザーが、従量課金を積み重ねることで、全体の課金売り上げが厚みを増していくイメージだ。
──25年1月に買収したAI音声合成ベンチャー「テクノスピーチ」をどう育てていくか。
神谷:テクノスピーチの主力製品「VoiSona」が根底にもつボカロ文化には、とてつもない可能性を感じている。絵を描く人、作詞・作曲する人、動画をつくる人、そして歌い手がネット上で自発的にチームを組み、お互いの才能をかけ合わせてひとつの作品を生み出していく。このクリエイティブな世界が面白いと直感が働いた。ibisPaintのユーザー層と非常に近しいこの文化を、グローバルへと広げていきたい。
最終的には、ibisPaintで絵を描き、VoiSonaで音楽をつけ、動画に仕上げてミュージックビデオまでつくれる、世界規模の次世代クリエイティブプラットフォームを目指している。まだモバイル版は課金機能がなく、パソコンがメインだが、私が週1でテクノスピーチの会議に出席し、スマホのUI設計やアイビスで培ってきた海外展開のノウハウを注入している。


