AIの導入は加速しているが、信頼とガバナンスはそのペースに追いついていない。マッキンゼーの調査によれば、ラグジュアリー消費者の85%以上が、ChatGPT、Perplexity、Geminiなどの汎用AIツールを少なくとも時折利用している。この水準の普及は企業に新たな機会をもたらす一方、消費者が自らの判断や個人情報をこれらのツールにどこまで委ねる用意があるのかという問いも生んでいる。
その答えは一様ではない。英国、米国、欧州の『Vogue』『Vogue Business』『GQ』の読者250人を対象としたVogueの調査によれば、消費者の55%はAIのレコメンデーションを信頼していない。金銭や機微な情報が関わる場合、この躊躇はいっそう顕著になる。同調査では、72%がAIツールにカード情報を共有することを拒否すると回答した。
この課題はファッション業界にとどまらない。AI投資、テクノロジーパートナー、消費者向けツールを評価するあらゆる取締役会が直面するガバナンス上の問題である。年間売上高が5億ドル(約793億円)を超える組織のうち、AIガバナンスを取締役会が監督していると回答したのはわずか17%にすぎない。
とりわけラグジュアリー業界は「新技術の導入に慎重な歴史がある。例えば同セクターはeコマースへの対応が遅れた。インターネットが排他性と神秘性という評判を薄めることを恐れたためだ」と、クリストファー・アーロン・ブラックモンはFinancial Timesに書いている。彼の指摘は正しい。
ファッションにおけるAIリスク保護とガバナンス導入の遅れ
私は先日、世界で最も著名なラグジュアリーメゾンの財務ディレクターである同僚のルイス・グラッシと話をした。ラグジュアリーメゾンが、テクノロジー、リスク、AIの変化を緩和するためにどの程度財務計画を立てているのかを議論したところ、規制の方向性やエンタープライズリスクへの関心は欧州、例えばイタリアのメゾンの本社レベルではより強く意識されているものの、米国子会社ではまだ優先課題になっていないことが共有された。それでもなお、EUでは一定の認識がある一方で、ガバナンスに近い議論は、私たちが以前金融セクターで見てきたものに比べると、より初期段階にあると同僚は認めた。
金融テクノロジーの先例から学ぶ
フィンテックが安全性を確立したのは、本人確認、責任に対する保護、執行の仕組みが業界の基盤に組み込まれたからである。それは消費者の信頼を得るためのマーケティング施策ではなく、業界の動きと技術開発を根本から規制するためのものだった。
私はそれを実感として知っている。防衛と高信頼性テクノロジーのバックグラウンドを持つ私にとって、金融のセキュリティに貢献することはキャリア上の重要な焦点だったからだ。私は以前、防衛ISR(情報・監視・偵察)分野の企業ForceXを構築した。同分野は、最も容赦がなく、男性が圧倒的に多い技術セクターのひとつである。その知見をもとに、私はファッションテックの投資家になった。初期の確信は、ファッションテクノロジーがどこへ向かい、そこに到達するために何を必要とするのかを、分野横断的に読み解いた結果だった。
テクノロジーに関する専門性と、消費者としても顧問としても長く関わってきたファッション業界における文化的な理解により、私はファッションが加速する産業になると確信していた。同時に、ガバナンスが不十分な産業であることも知っていた。ファッション、そして後にファッションテックとなる領域は、この10年で最も重要なセクターのひとつになる可能性を秘めていると確信していたが、持続可能な成長に向けて正しい方向へ導くには、私のような経歴を持つ人材が必要だった。無謀で規制のない導入が、商業上および評判上の責任問題となる産業である。当時、圧倒的に男性が多かった大半の投資家にはなかった、私ならではの見立てだった。
ファッションの未来はどう見えるのか
7月初旬の同じFinancial Timesの記事で、クリストファー・アーロン・ブラックモンは「老舗メゾンによるAI導入に対する反応はどうなるのか」と問いかけている。私の答えはこうだ。ガバナンスの導入であってほしい。多くの人は、AI導入とはクラフツマンシップ、デザイン統合、創造的探求におけるAIのような消費者向けの側面を意味すると考える。しかし真に緊急なのは内部、すなわち企業の保護とガバナンスである。高信頼性産業での私の経験を踏まえ、AI投資、提携、ベンダーを評価する際に、ファッション業界のリーダーシップと取締役会、さらにはより広範な取締役会が優先すべきことを以下に示す。
リスクを軽減するための行動
いかなる提携契約を結ぶ前にも、ベンダーがデータをどのように扱うのか、モデルが何を用いて訓練されたのか、システムが失敗したり損害を引き起こしたりした場合に責任がどのように配分されるのかを含め、AIベンダーに対するデューデリジェンスを義務付けるべきである。
- AIガバナンスの明確な責任者を定める。例えば取締役会委員会、指定された執行役員、既存のリスク管理機能などである。自社のベンダーがサービス内でAIをどのように利用しているかについて、完全に監督していると回答した企業はわずか6%にすぎず、この責任の空白こそ、通常最初に是正すべき点である。
- 消費者の信頼を、マーケティングだけでなく製品設計に組み込む。AIがいつ、どのように使われるのかの開示、オプトアウト、データポリシーは、苦情が出た後に付け加えるのではなく、ローンチ前に決定すべきである。
- すべてのAI提携を責任問題として扱う。技術が失敗した場合に何が起きるのか、誰がコストを負担するのか、企業がどれほど迅速に対応できるのかを問うべきである。
私がファッション、そして私が関わる産業に対して果たしたい責務は、業界がまだ名付けてすらいないセキュリティ上の空白に対処することだ。実務上、それは防衛レベルの説明責任フレームワークを、この新興テクノロジーセクターに適用することを意味する。AIリスクを指摘し、その緊急性を浮き彫りにし、こう言うことだ。ファッションよ、手遅れになる前に目を覚まし、行動せよ。
待つことの代償
行動を遅らせることには現実のリスクが伴う。外部投資に対する監督の弱体化、ベンダーおよびデータリスクへのさらなるエクスポージャー、規制上の問題、評判の毀損、消費者の信頼喪失を意味する。取締役会には、AI関連の投資や提携を責任ある形で評価するための十分なテクノロジーリテラシーが必要である。



