(2)ストレステストを実施する
シナリオ分析で洗い出した事態に対し、平常時の計画がそのまま通用するとは限らない。
・売上の30%を占める市場が失われたらどうなるか
・主要サプライヤーが停止したらどうなるか
・原材料価格が倍増したらどうなるか
自社の体制がその負荷に何日、あるいはどこまで耐えられるかなどを、定量・定性の両面から検証する必要がある。
(3)BCPをリソース喪失前提で見直す
多くのBCPは、地震や台風など、あらかじめ災害の種類を特定した上で個別に計画を立てるという方法でつくられている。しかし地政学的な危機では、そもそも何が、どのような形で起きるのかを、事前に絞り込むこと自体が難しい。一方で、企業が失いうる経営資源は、下記のようにいくつかの共通したカテゴリーに整理できる。
・人材
・通信(回線・ネット)
・情報
・施設
・調達・供給網
・資金
それぞれが失われた場合に、どう事業を継続するかを考えておく視点が重要になる。
(4)トリガーイベントを定義する
多くの企業は有事が起きてから情報収集を始め、状況分析を行い、対応方針を議論する。しかしその頃には、市場も顧客も競合も動き始めている。重要なのは、何をもって事態がエスカレートしたと判断するのか、つまり何を「転換点」とみなすのかを、平時のうちに決めておくことだ。
例えば中東情勢であれば、下記のような出来事をトリガーに設定する会社が多かった。
・米国の直接参戦
・米軍施設への大規模攻撃
・米国人の死傷者発生
・ホルムズ海峡におけるタンカーへの直接攻撃
・エネルギーインフラへの大規模攻撃
・米国大使館による退避勧告や渡航禁止勧告
・主要船会社による運航停止
・保険会社による戦争保険の大幅引き上げ
(5)緊迫感のある危機対応演習を行う
危機で露呈するのは、計画不足だけではない。例えば
・誰が意思決定をするのか
・誰が顧客説明を行うのか
・誰が社員へ発信するのか
いざというとき、こうした問いに即答できるかどうかは、緊迫感をもった環境下でシミュレーションを行って初めて明らかになる。有事対応の巧拙は、有事が発生してから決まるのではない。平時の準備段階でほぼ決まっているのである。
鍵は、「圧力の方向」を見極めること
本稿の結論はシンプルである。予測を競うな。前提条件の崩れ方を設計せよ。
構造トレンドは長い時間をかけて圧力を蓄積させ、ロングテールリスクはそれが特定のイベントとして顕在化したときに「有事」として企業に打撃を与える。重要なのは、どの方向に圧力が強まり、自社のどこが最も傷つくのかを見極めることである。
そのうえで、構造トレンドに対しては、現状維持が競争優位の喪失につながらないかを問い、転換点に対しては、どこを停止点とし、どこで切り替えるかを準備しておく。それこそが、地政学を経営技術として活用することであり、経営者が地政学的素養を培う真の意義なのではないだろうか。


