経営・戦略

2026.08.25 11:15

役員会で空転する「台湾有事の確率」巡る議論、経営判断に昇華させるための危機管理術とは?

Sunshine Seeds/ Shutterstock.com

本当に「ブラックスワン」だったのか

近年、「誰も予測できなかった」という言葉が頻繁に使われる。9.11同時多発テロ、新型コロナウイルス、生成AIの急速な普及などが代表例だ。こうした事象はしばしば「ブラックスワン」と呼ばれる。それは極めて予測が難しく、発生すると社会や経済に巨大な影響を与える出来事を意味する。

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しかし、経営という視点から見たとき、本当に完全な想定外だったのだろうか。いつかどこかで大規模なテロが起きること自体は、以前から広く認識されていた。感染症の専門家は、長年にわたり次のパンデミックを警告していた。AIが社会や産業のあり方を根本から変えうることも、何十年も前から研究者たちの間で議論されてきた。

つまり多くの場合、人々が予測できなかったのはリスクの存在ではない。その具体的な現れ方だったのである。中国で発生した感染症が、わずか数年で世界各国に国境を閉鎖させ、数十億人の移動を止め、世界経済にかつてない打撃を与えるとは予想できなかった。だからブラックスワンに見えたのである。同じことは地政学リスクにも当てはまる。

企業が向き合うリスクは、実務上、次の3つに整理できる。

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1.構造トレンド

中長期にわたって進行している方向性そのもの。米中対立、経済安全保障、世界の分断、脱炭素、人口動態の変化など。

2.ロングテールリスク

統計的に発生確率は非常に低いが、起こりうると認識されている出来事。テロ、大規模サイバー攻撃、海上封鎖など。

3.ブラックスワン

事前には十分な想定や定義がされておらず、発生後に初めてその重大性が理解される、本当に予想していなかった「想定外」の出来事。

重要なのは、この3つを雑に一括りにしないことである。実務上は、本来ロングテールリスクや構造トレンドとして扱うべきものまで、後から「ブラックスワンだった」と呼んでしまうことが少なくない。だが、経営判断の質を高めるには、何がすでに見えていた流れで、何が低頻度だが想定可能な事象で、何が本当に想定外だったのか、切り分けて考える必要がある。この整理は、地政学を経営に取り込む上で重要な出発点となる。

「壊れ方」を設計する

企業のリスク管理は長い間、「発生可能性 × 影響度」という枠組みを使って行われてきた。
この手法は、例えば工場の事故や不正、情報漏洩といった内部起因のリスクには、極めて有効である。長年にわたり企業実務で使いこなされてきた、優れた考え方だと言ってよい。

しかし、地政学リスクはそれらとは少し性質が異なる。発生可能性が低く見積もられやすいため、この枠組みでは優先順位が上がりにくいからだ。その結果、重大でありながら見過ごされやすい地政学リスクが生じる。

近年、企業はこうした問題意識から、発生確率の低さゆえに見過ごされてきたリスクを可視化する「High Impact Low Probability(低頻度巨大影響リスク)」という概念に注目するようになった。また、地政学リスクの深刻さは発生確率ではなく、自社の戦略の前提がどれだけ揺らぐかで測るべきものだ。そのため企業は、「今の戦略のままで勝ち続けられるか」を問う「Strategic Risk(戦略リスク)」という視点も重視するようになった。

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文=岡部貴士

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Leader’s Compass:リーダーのための地政学の使い方

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