不正が発生した際、一部の組織はその問題を単発の出来事として処理しようとする。あるいは、沈黙を守り、世間の関心がすぐに薄れることを期待する。しかし、「腐ったリンゴ(問題のある個人)」のストーリーが、1人の人間だけに起因することはめったにない。それは、怠慢を容認し、無視し、あるいは助長するシステムから生じるものだ。リーダーが行動を怠るとき、その不作為自体が「容認」を意味することになる。組織が不正に目をつぶったときに何が起こるのか、以下に解説する。
なぜ一部の企業は「腐ったリンゴ」論を好むのか
一部の組織が「腐ったリンゴ」のストーリーを受け入れるのは、それが組織としてのアイデンティティを守るからだ。企業は、モラルの高さを装うために、不祥事を自社から切り離そうとする。このシナリオでは、誰も非難されることはない。組織のリーダーは自己イメージを維持でき、従業員は自らの共謀関係に向き合わずに済む。システム全体の機能不全を個人の問題へとすり替えることで、ストーリーの主導権を握ることができるのだ。
法的リスクやレピュテーションリスクを限定的に抑えることは、経営陣にとって勝利のように思えるかもしれない。しかし、責任を転嫁し、腐ったリンゴを受け入れることが、長期的なビジネスにどのような影響を与えるかを理解すべきだ。ワシントン大学ビジネススクールの研究チームが2006年に実施した、腐ったリンゴが個人やチームの力学に与える影響に関する実験では、グループのパフォーマンス低下、社会的構造の弱体化、そしてチームの不満の増大といった結果が明らかになった。その場の体面を保つために責任追及を避けた組織は、後に、より厳しく長期にわたる影響に対処せざるを得なくなる。
「見て見ぬふり」が「暗黙の了解」と不信感の文化を生む
組織内で不正が起こり得ることを受け入れるだけでなく、真の問題から目をそらすことは、文化的な「許容構造」を作り出す。不適切な行動が容認され、影響力のあるステークホルダーが保護されるという風潮が定着してしまうのだ。リーダーが行動を起こさないことの代償は極めて大きい。2025年の学術研究によると、管理職の不作為を察知した部下は、その管理職に対する信頼を失い、関係性が変化し、管理職としての有効性が損なわれることが分かっている。
沈黙は「承認」を伝える。不正への対処の遅れや不作為が、「私たちは不正を容認し、心理的安全性に欠ける職場文化を受け入れている」という明確なメッセージを送ることになる。リーダーや組織はこの事実に気づくべきだ。一度ネガティブな環境が定着してしまうと、その文化を変えることは極めて困難になる。
不作為がどのように「容認」となるのか
不祥事が発生した際、立ちすくんでしまう組織がある。これは、不確実性や責任転嫁の思惑、あるいは「作為よりも不作為のほうが道徳的な罪が軽い」と信じ込む「省略バイアス(omission bias)」によるものかもしれない。こうした「傍観者型リーダーシップ」は、経営陣が責任を部下に丸投げしたり、人事部などの他部署が穏便かつ目立たないように処理してくれることを期待したりするときに発生する。なぜ不正が発生したのかの分析を怠ることは、従業員やステークホルダーに対する重大な背信行為である。出版社Wiley Workplace Intelligenceの調査によると、従業員の49%が職場で問題を過小評価したり、議論を避けたりするよう圧力を感じており、「波風を立てない」ようにするプレッシャーを受けている。
自身の行動や問題への対処法において、適切な模範を示すことこそがリーダーの役割である。人々は「道徳的リーダーシップ」を求めている。非営利団体「HOW Institute for Society」の「ビジネスにおける道徳的リーダーシップに関する調査報告書(2026年版)」によると、従業員の94%が道徳的リーダーシップの必要性はかつてないほど高まっていると感じている一方で、最高水準の道徳的リーダーシップを実践できているCEOはわずか6%にとどまる。処分を明確にせずに苦情を聞き流したり、さらなるデータを待ち続けたり、責任ある立場の人々を庇ったりするリーダーは、単なるリスク回避の戦術をとっているにすぎない。行動しないという決断もまた、一つの決断なのだ。
問題を過小評価し、目をそらすことの「組織的コスト」
不正の影響を過小評価することによる組織的な代償は、広範囲かつ長期にわたる。問題行動に対して何のペナルティも課されなければ、人々は懸念や意見を口にすることを危険だと感じるようになる。波風を立てずに沈黙を守ることが生存戦略となり、高いパフォーマンスを目指すのではなく、「ことなかれ主義」が新たな目標になってしまうのだ。リーダーシップの不在に不安を覚えるステークホルダーや従業員は、他所に指針を求めるか、あるいは「静かな退職(quiet quitting)」しか選択肢がないと判断するかもしれない。
ただでさえ、従業員にとって声を上げることは困難だ。教育プラットフォーム「TalentLMS」による職場での不正行為に関する報告書によると、56%の従業員が「報告しても何も変わらない」と考えたため、不祥事を報告しなかった。不正を報告する明確なルートが存在しなければ、経営陣が設定した「すべて順調」というポーズを維持するために心理的な負担を強いられ、優秀な人材が流出することになる。
評判の失墜は避けられない。適切に対処されなかった問題が表面化すれば、組織の内外を問わず、レピュテーションは傷つく。内部告発が唯一の解決策となってしまうのだ。その段階に達したとき、世間は「なぜもっと早くこれらの問題が修正されなかったのか」と疑問を抱くことになる。
責任あるリーダーシップのあり方
責任あるリーダーは、組織の文化や倫理状況の点検を主体的に行い、問題がエスカレートする前に対処する。インセンティブ構造、通報窓口、リーダーの業績評価指標などのシステム監査を実施することで、組織内の信頼度や倫理観のレベルが浮き彫りになる。効果的な倫理的リーダーシップは、継続的な取り組みである。組織は、トレーニングプログラム、ミッションとの整合性、方針や手続きの遵守状況を絶えず評価する必要がある。強力な執行手段と、違反を報告するための明確なルートが不可欠だ。ルール違反者は責任を問われなければならず、抜け道や例外を認めてはならない。基準やポリシーはすべての部門に適用され、明確に周知される必要がある。透明性と有言実行は、信頼を築く上で大きな役割を果たす。
多くの従業員は、声を上げることで報復を受けることを恐れている。企業は、真実を語る人々を保護するために、オープンで心理的に安全な文化を構築しなければならない。問題があるときに警告を発した者が、公式・非公式を問わず、不利益な扱いを受けることがあってはならない。公式および非公式な保護が重要であり、声を上げた従業員に対するいかなる報復に対しても、明確な処分が定められている必要がある。
リーダーは自問する必要がある。「有能な人材だからという理由で、どのような行動を容認しているか」「どのような苦情が、常に過小評価されているか」。企業は、言行を一致させなければならない。公に基準を強化し、適切に行動を示すのだ。役職や部署を問わず、リーダーが一貫した姿勢を示すことで、強固で道徳的な職場文化が育まれる。
組織における「腐ったリンゴ」は、突如として現れるわけではない。それは、職場が沈黙を推奨し、責任追及が限定的で、先回りの対策ではなく事後対応のみのリーダーシップしか存在しないときに発生する。組織の本質は、不正が明らかになったときに、どのような行動をとったか、あるいはとらなかったかによって定義される。強固で信頼される組織は、問題を真摯に受け止め、行動を起こし、事態が悪化したときに責任を果たすのである。



