2003年初頭の事例も同様だ。前年12月にベネズエラで発生したストライキにより同国の石油生産量は減少したが、減少幅は日量100万バレル程度だった。だが、翌年3月下旬に発生したイラク戦争により、石油供給量が日量200万バレル減少し、事態は悪化した。世界の石油生産量は10月までに回復したが、その時点では原油価格の上昇幅はわずか25%程度にとどまっていた。ところが、生産が回復した後も原油価格は上昇を続け、2006年半ばには2倍に達した。当時の原油価格の倍増は、中国の需要急増とモメンタム取引が相まって生じたものだと考えられるが、仮にそうであったとしても、イラク戦争終結後の市場の逼迫(ひっぱく)が価格を急騰させるのではなく、長期的な上昇軌道に乗せ続けたのだ。
価格が急騰するという認識は、主に短期的で小幅な値動きから生じる。ここで言う「小幅」とは、相対的な意味合いを持つ。最近の6ドルや8ドルの急騰は、確かに日単位で見れば大きな変動だ。だが、真の危険性は供給の逼迫が長期化し、価格が上昇し続けることにある。今後数カ月で原油価格が100ドルを大幅に上回ることはないかもしれないが、それは最終的なピークを予測する手がかりにはならない。
原油取引の性質上、価格には大きな慣性が働く。原油価格が急騰した後は、利益確定売りや政治情勢の展開によって下落に転じることもあり得る。トレーダーが価格の大幅な変動を想定することに消極的になるのも当然だ。不確実な状況下で多額の資金をリスクにさらすことになるからだ。米国とイランの合意は数カ月先になるかもしれないが、もしかしたら明日成立する可能性もある。後者の場合、市場でロングポジションを取っていれば大惨事になりかねず、期間が長いほど被害は大きくなる。したがって、強気相場が続いたとしても、価格は徐々に上昇すると想定すべきだろう。
とはいえ、価格が急騰する可能性がなくなったわけではない。中国の買い手が市場に復帰し、米国をはじめとする各国が戦略備蓄の放出を停止し、中東諸国からの供給が引き続き逼迫している状況では、買い占めが発生して価格が急騰する恐れがある。そうなれば、モメンタム取引が頭をもたげ、原油価格は直ちに3桁台に達するだろう。
したがって、特に供給制約の解消が見通せない状況では、現在の緩やかな価格推移に基づいて石油市場を楽観視すべきではない。地政学的な状況は急速に緩和される可能性がある一方で、市場の基礎的条件、特に在庫不足は解決がはるかに困難だ。こうした状況を踏まえると、原油価格が最高値に達する時期や水準は不透明だが、紛争前の水準に戻る可能性は低いと考えられる。


