多様化の前にマーラータンが出現
出入国在留管理庁の統計によると、2025年12月現在の都道府県別の在留中国籍人口の、愛知県は全国で6位の4万8650人だ。
これは東京(1位)を中心に埼玉(3位)や神奈川(4位)、千葉(5位)など上位を占める首都圏約55万人、大阪(2位)や兵庫(8位)、京都(9位)の関西圏約14万6000人に比べると、首都圏の10分の1以下、関西圏の3分の1ほどである。
数の上からみて、首都圏や関西圏より店舗数が少ないのは当然のことだが、今回名古屋を歩いて、いくつか気がついたことがあったので、以下に述べてみたい。
Sさんも話すように、名古屋には中国東北料理や延辺朝鮮料理が多いが、実は首都圏や関西圏でも同様で、それは日本のガチ中華の地方料理の出店状況の1つの特徴と言っていい。
地理的、政治経済的、歴史的背景から、韓国でも同じ傾向はあるのだが、異なる点もあることは、以前このコラムの「ソウルのガチ中華タウン『大林(デリム)』を訪ねて知った日本との違い」で書いたとおりだ。
それでも、名古屋には新疆ウイグル料理や西安料理、モンゴル料理など、シルクロード系の店もある。さらに東京に多くある鴨肉系麻辣グルメや焼烤(中華BBQ)、大阪の島之内にもあった安徽省のご当地麺「牛肉板麺」の店などもあり、少しずつ地方料理が現れていることがわかる。
全体の出店数が東京や大阪に比べ少ないせいか、マーラータンの出店も目についた。栄地区を歩いた翌日、名古屋を代表する繁華街の1つ大須商店街(名古屋市中区)を歩いたところ、栄も含めて、22軒のマーラータン店を見つけたのには驚いた(Google Mapをみると、市内の他の場所にもまだあるようだ)。
今回イベントを開催した延辺館のような名古屋の老舗のガチ中華は、いまから20年くらい前、つまり東京や大阪とほぼ同じ時期に開店している。
その後、東京や大阪では、特に2010年代半ばくらいから、ガチな地方料理が続々出現したが、名古屋ではそうした多様化の時期に至る前に、一気にマーラータンブームに乗った出店が増えたようだ。あるいはブームに乗って業態変更するオーナーが現れたというのが、いまの名古屋の特徴なのではないかとも考えられる。
実は、こうした「多様化に至る前にマーラータンが出現する」という現象は名古屋以外の地方都市でもあり、むしろ全国的に見ると、多くの日本人が最初に知るガチ中華は「マーラータン」というのが標準的なケースなのかもしれないと思ったのである。
またこれも全体の出店数や出店場所のせいでもあるが、名古屋の繁華街を歩いていると、台湾グルメが広く浸透しているイメージがあった。東京や大阪でも台湾グルメの店はたくさんあるが、名古屋ではガチ中華系より台湾グルメ、特にファストフードやスイーツの店が目につき、地元の若い人たちでにぎわっていたのが印象的だった。
筆者にとって残念に思えたのは、名古屋でアジア各国のエスニック料理店が集中する大須商店街の東仁王門通のような場所に(マーラータンを除くと)ガチ中華の出店はほぼ見られないことだ。
思うに、これは東京でもそうだが、中国系の飲食店オーナーたちは、多国籍の人たちと交わるより、自国民だけで固まってしまう。数が多いからそうなりがちなのはわかるけれど、これは韓国でもそうだったように、海外における中国人コミュニティ形成の特徴なのかもしれない。
こうした出店エリアから中国系飲食店オーナーの多くが、地元の日本人ともそうだが、他の国籍の人たちと交わることなく、孤立しているように見えることは、日本の多文化社会の現状を理解するうえで重要なポイントの1つであると、名古屋に来ても思ったものである。


