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2026.08.31 11:00

「食の感動」を世界へ届ける――トリドールの心的資本経営とグローバルSCM変革

省人化・機械化の波が押し寄せる外食産業において、丸亀製麺をはじめ数多くの飲食事業を展開するトリドールホールディングスは、その流れにあえて逆行する。掲げるスローガンは「食の感動で、この星を満たせ。」世界約30カ国・約20ブランド・2100店舗以上を展開しながら、従業員の幸福を起点に顧客の感動を生む「心的資本経営(ハピカン経営)」を推進している。

人の力に投資する、経営判断の根底には何があるのか。消費財や外食などのサプライチェーン・マネジメント(SCM)を渡り歩いてきた梶野透氏と、心的資本経営の旗振り役 CHHO 田中憲一氏、そして外資・日系・スタートアップを横断してハイクラス人材を支援するエンワールド・ジャパン代表取締役社長・山本裕介氏が、グローバル経営の現場から「インパクト人材」のあり方を語り合った。


出演者

田中 憲一 (トリドールホールディングス 取締役 兼 CHHO)
梶野 透 (トリドールホールディングス グローバルSCM本部 本部長代行)
山本 裕介(エンワールド・ジャパン 代表取締役社長)

「食の感動で、この星を満たせ。」グローバル展開の現在地

山本裕介(以下、山本):グローバル人材のキャリア支援を行う当社としても、トリドールホールディングスがどのようにグローバル展開を進めていらっしゃるのか、非常に関心を持っております。まずは、御社の事業展開の現在地を教えていただけますか。

梶野 透(以下、梶野):トリドールといえば、旗艦ブランドの丸亀製麺の会社、というイメージが強いと思いますが、ほかにも祖業の焼き鳥、そしてカフェやラーメン、焼肉、天ぷら、立ち飲みなど多様なブランドを展開しています。そうしたなか、大きな特徴とも言えるのが、海外でしか運営していないブランドを複数持っていること。

例えば香港発の「TAMJAI(タムジャイ)」は主に中華圏のお客様に向けたブランドとして、香港からマレーシア、シンガポール、中国、オーストラリアへと進出し、日本への逆輸入も進んでいます。現在、世界80億人のお客様をターゲットに約20ブランド・30カ国で2100店舗以上を展開しており、海外売上比率も全体の半数近くを占めるまでになっています。

田中憲一(以下、田中):私たちが掲げているのは「食の感動で、この星を満たせ。」というスローガンです。その想いを体現している、当グループのもう一つの特徴が、お客様の体験価値へのこだわりです。外食産業は省人化、機械化が進んでいますが、だからこそ、お客様の目の前で“手づくり・できたて”の商品を提供する「感動体験」こそ差別化になるという、創業者・粟田貴也のブレない思いが、事業づくりの根幹になっています。

トリドールホールディングス 取締役 兼 CHHO 田中 憲一
トリドールホールディングス 取締役 兼 CHHO 田中 憲一

山本:海外進出の第一号店は、2011年にハワイに開店した丸亀製麺と伺いました。そこからのグローバル展開のスピード、規模感は凄まじいものですが、この急速な海外展開の原動力や出発点となったものは何だったのでしょうか。

田中:世界に事業を拡大して「グローバルフードカンパニー」になる、という粟田の純粋な野心がすべての出発点です。これまで多くの海外ブランドの買収を重ねてきましたが、その際の譲れないポイントとしては、“手づくり・できたて”や“ライブ感”といった私たちの根幹にある“食の感動体験”を提供できているかどうか。

2015年から展開しているタイ風ファストフード「WOK TO WALK(ウォックトゥウォーク)」も、炎を上げながら調理する様子に、丸亀製麺の店内製麺と重なるライブ感がありました。事業規模がどんなに拡大しても、お客様との会話が自然に生まれるような、個人店の風情を残していく――。そうしたこだわりへの共感が、多様なブランド展開を支えています。

世界30カ国を束ねる、“バリューセンター”としてのグローバルサプライチェーン

山本:御社のように多国籍・多ブランドで、それぞれ異なる食材を扱うサプライチェーンは、単一商材を動かす場合に比べて難易度が格段に上がるかと思います。実際、どのように束ねられているのですか。

トリドールホールディングス グローバルSCM本部 本部長代行 梶野 透
トリドールホールディングス グローバルSCM本部 本部長代行 梶野 透

梶野:私が入社した2024年時点で、スペインの事業会社が運営する「WOK TO WALK」では、スペインやフランス、ドイツ、イスラエル、アメリカ、南米まで中華鍋を行き渡らせ、一方香港の「TAMJAI」は約240店舗規模で膨大な量の豚肉が供給されていました。すでに各国のサプライチェーンがそれぞれ動いている中で、グローバルサプライチェーンとして私たちは何ができるのか。着任してまず取り組んだことは、組織の軸を定めることでした。そしてチームで議論し、定めたミッションが「価値創造エージェントになること」でした。

言われたものを言われた場所に届けるだけなら“コストセンター”です。原価率をいかに抑えるかという観点でサプライチェーンマネジメントを捉えてしまえば、取引先パートナーとの勝ち負けになってしまいます。そうではなく、お互いの事業の売り上げを伸ばす食材を提案していく“プロフィットセンター”になっていく。さらにその先として私たちが目指すのは、お店に来てくださるお客様の価値(バリュー)を創造する「バリューセンター」を体現すること。感動を届けるところまで踏み込み、感動体験を最前線で加速させる存在になろうと定義づけました。

山本:単なる物流や調達を超えて「感動体験を届ける」という視点はまさにバリューセンターですね。そうした価値創造のために、梶野さんご自身も現場に足を運ぶことを大切にされていると伺いました。

梶野:現場現物を見るために、今年は半年で23回も飛行機に乗って各地を回りました。直近も香港や台湾、北米を回っていましたが、現場でしか見えてこないこと、考えもしなかったことは山ほどあります。

例えばアメリカの丸亀製麺の運営メンバーを訪れて分かったのは、メキシコ系の方をはじめ小麦よりトウモロコシを主食とする方が多いということ。主食一つとっても、米の文化圏、小麦の文化圏、トウモロコシの文化圏があり、そこを理解しないまま「日本で売れているから」という発想で商品を展開しても、現地の方が求めているものからずれてしまいます。

さらに、現地のスーパーに足を運んで初めて知る食事情もあります。どこまでいっても現地の生活者レベルで理解することは難しいですが、言わば「無知の知」――知らないことがあると知ったうえで、理解する行動を重ねながら、世界のお客様に食の感動を届けていきたいと考えています。

従業員のハピネスを起点に考える、「心的資本経営」という経営判断

エンワールド・ジャパン 代表取締役社長 山本 裕介
エンワールド・ジャパン 代表取締役社長 山本 裕介

山本:省人化の流れに逆行し、あえて「人の力」に投資するという経営判断はどこから来ているのでしょうか。

田中:2023年にグローバルフードカンパニーとしてのミッション・ビジョン・スローガンを整理し、私たちは「感動創造業」であるという考え方を明確に打ち出しました。外食は一番身近なレジャーであり、お店はエンターテインメントの場。マニュアル通りのサービスだけでなく、困っているお客様にそっと手を差し伸べるような、一人ひとりの人間味あふれる対応にこそ感動が宿ると考えています。

離職率が高い業界であることに加え、日本国内では労働力不足が加速するなか、社員が「ここで働きたい」と思える職場をつくれなければ事業成長はありません。「自分の居場所だ」と幸せを感じられるお店づくりをすることが、お客様へ感動を届けることにつながり、店舗売り上げや事業全体の成長として返ってくる。現場のスタッフの心に火がつくと業績が変わるということは、店舗型ビジネスの大原則です。従業員のハピネス→お客様の感動→お店の繁盛という循環を明文化したのが、私たちが「ハピカン(ハピネス+カンドウ)経営」と呼ぶ“心”的資本経営なのです。

梶野:26年5月にはグローバルの幹部も集まる全社会議で、ハピカンモデルの好事例をアワードとして表彰しました。多数の応募のなかから、私も審査員の一人として受賞事例を選びました。

例えばインドネシアでは、ケージフリー(平飼い)卵へ対応していく方向性のなか、現地チームが自主的に養鶏農家に伴走し、改善を支援していました。結果として5店舗への安定供給を実現し、農家の収入も20〜30%向上。取引先と店舗の距離が近づき、持続可能な供給網を自分たちの手で築いた好事例です。

サプライチェーンの現場でも、本質は「人」にあると感じています。あらゆるパートナー企業、取引先パートナーの方も事業運営を支えてくださる仲間であり、私たちはその皆さんからバトンを受け取って最終的に店舗を訪れるお客様にお届けしています。

もちろん原価や納期といった数字も大切ですが、まずは人と人との関係があってこそ。「この人のためにお礼のメールを1本書いて帰ろう」といったささやかな思いや行動が、現場の生産性を5%も10%も上げていくことがある。一緒に価値をつくっていくパートナー企業のハピネスまで考えて動くことが、私たちのビジネスの土台になっています。

“らしさ”充満の組織を目指して――AI時代を生きるインパクト人材の見極め方

山本:組織や事業を動かす「インパクト人材」を、どのような基準で見極めているのでしょうか。これだけ規模が拡大する中で、「感動を届ける」ことへの熱量が分散しない秘訣をぜひお伺いしたいです。

田中:何よりもまず、私たちが目指す姿への共感度が重要です。自分たちではよく「メガベンチャー」と例えて、成長意欲高く柔軟に変化をし続けるユニークな会社でありたいと考えています。そんなポジティブなエネルギーに満ちた組織づくりにおいて、一人ひとりが組織に及ぼす影響力は侮れません。

知識・スキル・経験だけでなく、過去にどう周囲へ影響を与えてきたか、複数人で面接をする中で面接官自身がその人からどんな刺激を受けるか。数値化しづらい部分ですが、人が見てどう感じるかという視点を大事にしています。採用のKPIを「現場から言われた人数を埋めること」で終わらせず、その人が入って半年後に周囲が元気になっているか、数年後には100人にポジティブな影響を与えられる人材になっているか、を見ていきたいと思っています。

目指すべきビジョンをはっきりさせて、それに沿った人を集め、リーダーを選び、彼らが体現者としてどんどん周りに影響を与えていけば、どこをとっても“らしさ”が充満していく。そういう組織を作りたい、という気持ちがあります。

梶野:私は「定数を変数ととらえ、非連続の変化を導き出せる人」がインパクト人材だと捉えています。

例えば、食材を供給してもらう取引先に「店舗の売り上げを上げるには?という問いを一緒に解きませんか」と持ちかけるメンバーがいます。これだけで打ち手が一変します。取引先を「モノを納める相手」ではなく「問いを共に解くパートナー」と捉え直せるか。多くの人が「動かせない定数だ」と思い込むものが、実は「変数」かもしれない――そこに気づけるかどうかが、良質な問いを生み、事業にインパクトを与えるのだと思っています。

田中:当社では、従業員のハピネスをAIで可視化する仕組みを評価制度に取り入れるなど、AI活用は積極的に進めています。

一方で、AIが人に対してどれだけ疑似的な共感を示せるようになっても、人が惹きつけられる理念をゼロからつくり出すことは難しいでしょう。当社には、粟田という一人の人間のストーリーに共感して入ってくる仲間が多くいます。

こだわりに裏打ちされた熱量や、現場で人と人とが想い合うことで生まれるエンゲージメントなど、人にしか生み出せない価値を、これからも大事にしていきたいです。

梶野:AIは過去データの平均値を弾き出すのが得意です。だからこそ、私たちが平均値に収まらない個性や熱量をいかに出していけるかが重要です。「自分は平均値に留まらず、思考の振れ幅を持てているか」「予測不能な発想を生み出せているか」と問い続けることが、AI時代における「人」の役割を再確認するうえで非常に大切だと考えています。 

エンワールド・ジャパン
https://www.enworld.com/


たなか・けんいち◎トリドールホールディングス 取締役 兼 CHHO(Chief Happiness & Human Officer)。1990年富士通入社。その後GE、バーバリーにてリーダー育成・組織開発・アジアパシフィック人事責任者などを歴任。サントリーではグローバル人事、海外M&AのPMI、ガバナンスを担当。2024年よりトリドールホールディングスの組織・人事担当取締役として経営改革・組織強化を推進。

かじの・とおる◎トリドールホールディングス グローバルSCM本部 本部長代行。2007年P&G入社。その後、マクドナルド、Amazon、BRサーティワンにて、製造、調達、物流、生産管理等、SCM全般における経験を有する。早稲田大学理工学術院 非常勤講師も務める。2024年より現職。

やまもと・ゆうすけ◎エンワールド・ジャパン代表取締役社長。広告代理店勤務を経てTwitter(現X)日本進出の責任者を務めた後、グーグル合同会社でブランドマーケティング統括部長などを歴任。2025年8月より現職。


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promoted by エンワールド・ジャパン / text by Rumi Tanaka / photographs by Shuji Goto / edited by Mao Takeda