私たちはこれまでに「AIスロップ(AIが生成した低品質なコンテンツ)」という言葉を耳にしたことがある。簡単な論点整理から詳細な調査レポートにいたるまで、ウェブ上に溢れかえる低品質な人工「知能」に対する懸念が高まっている。なかには、それが「インターネットを破壊している」と言う者もいる。
CEOたちも懸念を抱いている。Surge AIのCEOの言葉を借りれば、「私たちは基本的に、真実ではなくドーパミンを追い求めるようモデルに教えている」のだ。
そして、その指摘には確かに一理ある。しかし、AIがずさんになり得るからといって、過剰に誇張すべきでもない。筆者が最も熟知している市場調査(マーケットリサーチ)の分野を例にとろう。今日の企業がより良い意思決定を行うために、逸話的かつ経験的な情報の果てしない流れに依存するなか、AIがニュアンス(微細な差異)に対する脅威であると見なすのは容易だ。だが、脅威なのはAIそのものではない。企業の意思決定プロセスを実際に脅かしているのは、低品質なデータなのだ。
CEOは自動化について心配するよりも、インプット(入力データ)の整合性、つまり投げかける質問、回答の深さ、そしてそれらすべてを導く手法(メソドロジー)を気にかけるべきだ。大規模言語モデル(LLM)は、与えられたデータが優れたものであれ悪しきものであれ、それを増幅させる。オンライン調査の参加者を適切に審査せず、結果として代表性のない回答者を含んでしまう「ダーティパネル」は、AIを誤った方向へと導く。意図的であるか否かにかかわらず、回答を特定の方向に偏らせる突貫のアンケート調査も同様だ。
今こそCEOは、データの質を最優先に据える必要がある。これは調達の予算項目ではなく、ガバナンスの問題だ。データの質を優先することは、そもそもAIをどう捉えるかという前提を再構築することを意味する。優れたリサーチにおいて、AIは代替手段として活用されているわけではない。厳格な調査設計の上にAIが重ね合わされているのだ。確証バイアスを避けることにせよ、真に代表性のあるサンプルを得るためにランダム化することにせよ、古くからの原則は今も変わらず適用される。
リサーチに関して言えば、戦略の強さはターゲット層をどれだけ理解しているかに直結する。これは、顧客やクライアントをリアルタイムで把握することを意味する。継続的かつ構造化された消費者インテリジェンスをAIシステムに提供すべきであり、リサーチは四半期ごとのプレゼンテーションにおける単なる一時的なスナップショットではなく、消費者のセンチメントをリアルタイムで伝えるシグナル(生きた信号)でなければならない。眼鏡を販売していようが、映画館の観客向けにマーケティングを行っていようが、AIは対象層を深く理解するように学習される必要があり、そのためには質問と回答分析の絶え間ない繰り返しが不可欠となる。
現代のCEOにとって、リサーチにおける新たなトレードオフが存在する。それは「速度か真実か」という選択だ。市場はAIのスピードで動いているかもしれないが、真実を得るためには依然として規律が必要である。取締役会はリアルタイムの回答を求めるため、ChatGPTの要約や自動作成されたスライド、安易な合成データに頼りたくなる誘惑は強い。しかし、そのリスクは速度(ベロシティ)を妥当性(バリディティ)と見誤る点にある。
調査手法から主要な結論にいたるまで、二重三重にチェックを行う必要性は極めて高く、そのためにプロセスは遅くなる。しかし、これは極めて重要だ。優れたAIシステムは、自動化と統計的な厳格さ、構造化された検証を組み合わせている。これには、データ不正を拡散させるAIボットの徹底的な排除も含まれる。リサーチにおけるスロップを排除するためには、「悪しきAI」を根絶し、その影響を緩和する「善きAI」が必要なのだ。
瞬間的な満足感が求められる世界において、長期的な視点を見失ってはならない。CEOとして、私は同僚たちに対し、短期的な圧力のなかでも長期的な視野を持ち続けるよう勧める。市場調査を例にとれば、リサーチを単発のプロジェクトではなく、インフラとして捉えるということだ。CEOは往々にして、キャンペーンごとにリサーチを考えがちだが、これでは戦略的とは言えない。継続的(かつ高品質)なデータのトラッキングは、製品開発、マーケティング、コミュニケーション、さらには投資家向け広報(IR)の糧となるのだ。
2026年に勝ち残る企業は、インサイトを財務部門が会計を扱うように扱うだろう。すなわち、継続的で、監査され、業務に組み込まれたものとして。筆者はこれを、インサイトがパワーポイント内に存在する「スライドデック」時代の終わりだと考えている。しかし、それらは本当の意味で生きているわけではない。静的なスライドは、プレゼンテーションが行われた瞬間に死文化するからだ。リサーチは単発のイベントではなく、インタラクティブ(双方向)なものであるべきだ。
確かにAIスロップは存在し、それはAI企業が解決すべき問題である。しかし、実証済みで信頼できる方法、すなわち、一部のリサーチを優れたものにし、それ以外を劣悪なものにしてきたベストプラクティスを補完するものとして、AIは依然として強力なリサーチツールである。AIと組み合わされた、人間の手による厳格さに代わるものはない。



