ウクライナでは、軍事車両や兵器による汚染物質が大気や水、土壌に流出している。同国の国土の3割に地雷や不発弾が埋まっており、これらの土地は農業に利用できない状態となっている。森林伐採や山火事も耕作地の喪失の一因となっている。温室効果ガスの排出量も増加しており、大気汚染が進んでいる。
ロシア軍による工場への砲撃で下水管が損傷し、工業廃水が給水システムに漏れ出した。全国各地で下水処理施設が破壊されている。また、洪水に見舞われた地域もある。2023年6月、クリミア半島を含むウクライナ南部への給水源となっている広大な貯水池を有するノバカホウカダムが破壊された。この攻撃で洪水が発生し、数万ヘクタールの農地が水没し、耕作不可能になった。ダムの破壊に伴い、石油や化学物質が流出したほか、洪水で数百頭の動物の命が奪われた。
ウクライナの原子力発電所に対する攻撃も発生している。米NBCニュースは6月7日、ロシア軍の無人機(ドローン)がウクライナ北部のチョルノビリ(チェルノブイリ)原子力発電所近くの使用済み核燃料貯蔵施設を攻撃したと報じた。ロシア軍の無人機は2025年2月にも、同発電所の格納容器に損傷を与えていた。一方、ウクライナ南部のザポリッジャ原子力発電所付近でも攻撃が続いている。これらの発電所への攻撃が激化した場合、ウクライナの原子力安全が脅かされ、住民や野生動物、地盤が危険にさらされることになる。こうした懸念から、国際原子力機関(IAEA)は定期的に現地を視察している。
ウクライナ政府は現在、こうしたロシア軍の破壊行為に対する責任追及に乗り出している。ウクライナの国会に当たる最高会議は4月30日、ウクライナ国際賠償委員会の設立に関する条約を批准した。同条約は5月20日までに38カ国と欧州連合(EU)によって署名され、うち6カ国が批准した。
同条約は、欧州評議会の枠組みの中で国際的な賠償体制として機能し、「ロシアがウクライナに対して行った不法行為によって生じた損害、損失、または傷害に対する賠償請求を審査、評価し、決定する」ことになる。ウクライナは、戦争に伴う温室効果ガス排出と環境破壊を巡り、ロシアに対して570億ドル(約9兆円)を超える賠償請求の準備を進めている。
現在、戦争で生じた農業や環境への被害について、ウクライナがロシアに賠償を求める仕組みが構築されつつある。この新たな枠組みについて議論が交わされる中でも、ロシアによるウクライナへの侵攻は続いている。ウクライナ侵攻は、同国の農業や環境に甚大な影響を及ぼしており、世界全体に波及している。同条約からどのような展開が生まれるのか、そしてその目標が達成されるのかに注目が集まっている。


