マイクロソフトとレッドハットがついに結んだ画期的パートナーシップの全貌

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やっと実現した。先週、マイクロソフトとオープンソースソフトウェア大手レッドハットが長らく足踏みをしていたパートナーシップを結ぶことを発表した。これは、マイクロソフト、レッドハット、そして両社の顧客にとって画期的な一歩である。また、ライバルが相手であっても、オープンに協力する方向にマイクロソフトが舵を切り始めたことを反映している。
 
ソフトウェア業界にとって、この画期的パートナーシップがどのような意味を持つのかを分析してみた。
 
クラウドの黎明期、マイクロソフトは既にAzureをOSに依存しないものにすることの重要性に気付いていた。すべてをウィンドウズのOSにバンドルするという十年来のモデルをAzureに適用できないことは明らかだった。そこで、意識の変革を象徴する形で、まずは”Windows Azure”という名称から”Windows”をとることを決めた。これはPaaSの採用実績がIaaSに遅れをとっていた頃のことである。アマゾンウェブサービス社の稼ぎ頭はウェブサービスのAmazon EC2だったが、マイクロソフトは硬直的で画一的なWindows Azure PaaSを顧客に強く勧めていた。その頃、SVPに任命されたばかりだったスコット・グースリーがクラウド事業の開発を任された。スコットは、当時クラウドのエンタプライズビジネスを担当していた現CEOサトヤ・ナデラと共に、すぐに行動を開始した。リナックスを好んでいたCanonicalやSuSE、オラクルといったソリューション企業に猛烈なアプローチをかけたのだ。その結果、業界のアナリストたちを驚かせ、一部では不審の声さえあがるような契約をオラクルと成立させること等に成功した。それ以来、マイクロソフトは、Linux戦略を進化させ続け、スティーブ・バルマーが癌とさえ呼んだオープンソースのOSについて「すごくよいと思う」と発表するまでになったのだ。
 
レッドハットは、Azureの仲間に入っていないことにより、異彩を放っていた。同社の顧客のほとんどは、エンタープライズワークロードをRed Hat Enterprise Linux(RHEL)上で動かしていたので、Azureへ直接移行する方法がなかった。その時、マイクロソフトが推奨していたのはCentOSとOracle Linuxで、双方共にRHELの代用品としては互換性の高いものではあった。一方RHELは顧客にライセンスの移行を可能にすると同時に従量課金も行い、Amazon EC2では大きな存在感を呈していた。Azure上でRHELを動かすことは技術的に可能ではあったが、レッドハットが作動保証をしないためユーザーは使いたがらなかった。RHELを正式にAzure上で利用できるようにすべくマイクロソフトからレッドハットに接近したこともあったが、ライセンシングやIPの問題で実現しなかった。両社の法務担当がワーキング・モデルで合意することができず、パートナーシップの実現が数年越しで遅れる結果となったのだ。
 
その間、レッドハットは複雑な展開を見せる。まずはパブリッククラウドでのLinuxディストリビューショントップの座を巡ってCanonical Ubuntuと激しく競合。その後、今度はCoreOSやRancherOSといった最小主義でコンテナ最適化されたOSの人気が上がり始める。レッドハットはオープンソースマネジメントプラットフォームのOpenStackと組んで再度成功を手中にしようとする野心的な計画を立ち上げるが、企業での導入が進まない結果に終わる。そしてレットハッドのPaaSであるOpenShiftにコンテナやKubernetesフレームワークへの対応等大幅な改良がおこなわれることになる。仮想化マーケットが縮小する中でVMウェアから相当なプレッシャーを受ける状態にもなっていた。レッドハットは自社でパブリッククラウドを持っていなかったため、RHELを複数のクラウド間でエンタープライズワークロードを処理できるユビキタスなOSにすることでなんとか成功を収めてきたが、これらの事情が相まってレッドハットはマイクロソフトとのパートナーシップを検討せざるを得なくなったのである。
 
一方で、マイクロソフトもコンテナやコンテナ管理ソフトウェアDockerの急成長を認識、その証拠にコンテナもDockerも自社製品に取れ入れていく。この分野でマイクロソフトが主に投資を行ったのはWindows Nano Server、Windows Containers、Hyper-V Containers、Docker Trusted Registry on Azure、Azure Container Service等である。また、昨年マイクロソフトは.NET Coreという.NETのオープンソース版を発表した。Linuxの上でもMacOS Xの上でも利用できるものだ。レッドハットもAtomic HostsやOpenShiftで同様の動きを見せている。これらの両社の各種投資状況を見れば、今2社がパートナーシップを選んだのも当然のことと思える。
 
 
マイクロソフトとレッドハットがパートナーシップを結んだ4つの領域
・レッドハットのソリューションがMicrosoft Azureユーザーにネイティブに利用可能になります。
数週間内に、Microsoft Azureがレッドハットの認証クラウド並びにサービスプロバイダーになることにより、Red Hat Enterprise LinuxのアプリケーションやワークロードをMicrosoft Azure上で利用できるようになります。
・ハイブリッドな環境をまたぎ、企業向け統合サポートが提供されます。
同じ敷地内でコロケーションサポートチームが対応することで、シームレスでスピーディーなサポートをご提供します。
・ハイブリッドクラウドを利用した環境での統合ワークロードマネジメントが可能になります。
レッドハットのCloudformsがMicrosoft AzureとMicrosoft System Center Virtual Machine Managerと相互運用が可能となり、Red Hat CloudFormsユーザーがRed Hat Enterprise LinuxをHyper VとMicrosoft Azureの双方で管理できるようになります。
.NETに関するコラボレーションにより、アプリケーション開発能力が飛躍的に高まります。
4月にマイクロソフトが発表したLinux上での.NETの機能に加え、マイクロソフトとレッドハットの協業により、開発者はRed Hat OpenShiftやRed Hat Enterprise Linuxを含むRed Hat製品群から.NETのテクノロジーへのアクセスが可能となります。
 
Azure上でRHELが利用できるようになるだけでなく、マイクロソフトとレッドハットはそれぞれのクラウド管理ツールであるSystem CenterとCloudFormsの相互運用を可能にするというのだ。また、レッドハットは、Azure上でRHELを利用しているマイクロソフトの顧客へシームレスなサポートを提供するために、サポートチームをマイクロソフトのサポートチームのいる西海岸のワシントン州レドモンドへ移すことも検討している。
 
今回の発表について特筆すべきはプラットフォームのコラボレーションという形をとったことだろう。Red Hat OpenShiftの一番の競合であるPivotal Cloud Foundryがこの発表の前日に.NETをサポートすることを発表したばかりだった。また、今月の初めにはAzure上でPivotal Cloud Foundry PASが基本的に利用可能になっていた。今回のパートナーシップにより、Red Hat OpenShiftも.NETをサポートするようになり、マイクロソフトもAzure上でOpenShift Paasを走らせるようになる。これは、レッドハットとマイクロソフト双方にとってwin-winの体制といえる。
 
ひとつ興味深いのは、両社が特許に関わる詳細な合意内容を明らかにしていないことだ。マイクロソフトは2007年にノベルとは特許については訴訟を起こさないことで相互に合意している。アナリストたちは、このことから今回のパートナーシップが単純なコラボレーションにとどまるものではないとみている。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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