この30年間、組織変革はトップダウンで進められる直線的なプロジェクト型プログラムとして提供されてきた。それでも、多くの人は「変革の70%が失敗する」という有名な統計を目にしたことがあるはずだ。働く人々1000人を対象とした新たな調査は、変革に対するトップダウンのアプローチが効果的ではない理由を指摘している。その証拠に、組織が従業員に提供する変革のためのリソースの上位5つと、従業員が必要としていると答えたものの上位5つが、まったく重複していないのだ。そして、それは始まりにすぎない。
皮肉なことに、AIへの対応によって振り子は逆方向に振れ、チェンジマネジメントは「西部開拓時代」のような無法状態に陥っている。もっとも、そこに「マネジメント(管理)」がどれほど存在しているかは議論の余地がある。従業員にはほとんど指示が与えられていない。「ログインしろ。試してみろ。効率化を見つけろ。ああ、そういえば君たちの動きも追跡しているぞ」といった具合だ。シフトはトップダウンから、まるで「アップ(上)」のない「ボトム(下)」だけのような状態へと移行してしまった。
しかし、これまでのところ、この無法状態がもたらした結果も芳しくない。AIのパイロット運用は成果を出せずにいる。企業は計画を縮小するか、完全に中止している。なぜなら、人々が変革するために必要なものは、これら2つの極端なアプローチの中間に位置するからだ。現在の状況が明らかにしているのは、数十年にわたり変革の世界を悩ませてきた「言わずもがなの真実」である。企業は自らが何でできているかを忘れてしまっている。それは人、すなわち生身の人間だ。
つまり、私たちは異なる問いを立てる必要がある。「どうすれば会社を変えられるか」ではなく、「どうすれば会社にいる人々を変えられるか」だ。
ここから3つの教訓が浮かび上がってくる。それぞれが従来のプレーブック(手法)の一部に疑問を投げかけるものであり、いずれも人間が実際にどう適応するかという科学に根ざしている。
「実験」は重要だが、正しい方向を向いている場合に限る
変革を定着させるために最も重要なことは何かと働く人々に尋ねたところ、従業員は「実験」「イテレーション(反復適用)」「繰り返し」と回答した。一見すると、従来の組織チェンジマネジメント(OCM)が提供してきたトップダウンの研修やコミュニケーションに対する、適切な反応のように思える。この実験に基づく戦略は、学習の科学とも一致している。失敗は、脳の神経可塑性を促す最大の要因だ。私たちは挑戦し、失敗し、調整し、再び挑戦することを繰り返すことで、文字通り脳の回路を書き換えている。
しかし、ここで見落とされていることがある。実験は、目標が定まっているときにしか機能しない。AIの「何でもあり」の状態は、方向性のない実験だ。良く言っても「ログインして試す」ことは従業員を混乱させるだけであり、悪く言えば、人員削減を目的として追跡されているというシグナルにほかならない。これでは到底、成長に向けた意欲が湧く環境とは言えない。
従来のリニアなプロジェクト型のアプローチには、これとは逆の問題がある。目標は明確だが、実験の余地がほとんどないのだ。誤った緻密さは、誤った自信を生み出す。リーダーが焦点を当てるべきなのは、その中間だ。従業員に明確な目標を示すこと。そして、挑戦し、失敗し、新たな現実に適応するための、保護された実験の場を提供することだ。さらに言えば、新しい現実を一緒に作り上げてもらうのがベストだ。
目標を「どう定義するか」が重要
2つ目の教訓は、モチベーションに関するものだ。数十年にわたる行動研究により、脳は何かを追い求めているときに最も活性化することがわかっている。「Xになる」「Yを構築する」「Zを達成する」といった「接近目標」はエネルギーを生み出す。一方で、「Xをやめる」「Yを防ぐ」「Zを排除する」といった「回避目標」は、躊躇を生み出す。
これこそが、多くのAI導入が頓挫する原因である。現在、AI導入の主な目標は「コスト回避」になっている。そして、生身の人間である従業員は、コスト回避の真の意味を正確に見抜く。それは労働の回避、人間の回避、そして高確率で発生するレイオフ(一時解雇)である。生産性向上の名のもとに同僚が解雇されるのを見て、彼らは「次は自分の番ではないか」と不安を抱く。
自らの削減につながる目標を追いかける従業員など、世界中のどこにも存在しない。従業員にAIを活用してもらいたいのであれば、削減するもの(コストなど)ではなく、会社が何に生まれ変わろうとしているのかを中心に目標を組み立てるべきだ。何かを追い求めている脳(特に自分にも利害関係がある場合)は、災難を避けようとしている脳よりも優れたパフォーマンスを発揮する。
「背中を見せて率いること」がかつてないほど重要に
断っておくが、私はジェネレーションX(ジェンX)世代だ。つまり、当事者としてこれを書いている。ジェンX世代は、激動の20年間を乗り越えてきた。そしていま、大半が退職を意識し始めるべき時期に、AIが登場し、雇用そのもののあり方を根底から覆そうとしている。これを存在の危機と呼ぶのは誇張かもしれないが、大きな転換点と捉えるのは間違いではない。現在、シニアリーダーシップの役職の大半を占める世代は、古き良きトップダウンの方法でチェンジマネジメントを学んできた。しかし、その世代こそが今後の道筋を設計し、私たちが一丸となって経験しているチェンジマネジメントの「無法状態」の責任を負っている。これこそが、いま求められているリーダーシップの課題であり、教訓なのだ。
背中を見せて率いること(率先垂範)が、かつてないほど重要になっている。行動は、採用される前に模倣される。リーダーが自ら学び、適応し、失敗し、再び挑戦する姿を、特に他人の前で目に見える形で示すとき、組織全体に文化的な合図が送られる。人生の後半における適応はより困難ではあるが、不可能ではない。科学は明白だ。謙虚さを持って、人前で実践すること。さらに証拠が必要であれば、ミレニアル世代やジェネレーションZ(ジェンZ)の従業員によれば、リーダーシップの模範を示すことは、変革に求められるニーズの第3位に位置している。第1位の「実験」、第2位の「定期的なフィードバック」に次ぐ順位だ。
10年後も生き残っているのは、人を変える方法を理解した企業だと私は信じている。
3つの教訓、それは「的を絞った実験」「接近目標」「目に見えるリーダーシップ」だ。どれも新しいものではないが、すべてが急務だ。これらは、私たちが本質的な転換点を迎えるたびに学び続けている教訓のように思える。
そしておそらく、最も大きな教訓は、変革へのアプローチ、変革に期待すること、そして何よりも「誰から変革を『買う』のか」について、これまでとは異なる考え方をする必要があるということだ。



