リーダーシップとは、自身の価値観や優先事項、他者への配慮といった「親しみやすさ(人間的魅力)」を通じて、たとえ何階層も上にいる相手であっても、周囲にポジティブな影響を与えることだ。
リーダーシップは肩書や組織図とは関係ない。重要なのは、周囲にポジティブな影響を与えること、ただそれだけだ。新入社員であれ最高経営責任者(CEO)であれ、あらゆるレベルにおいて誰もがリーダーになり得る。
言い換えれば、リーダーになるために「上司」である必要はない。しかし、このメッセージは、実践的というよりも理想論のように聞こえるかもしれない。先週、ある業界フォーラムで「価値観に基づくリーダーシップ」について講演した際、参加者からこのような質問を受けた。「価値観や原則に基づいてリードすることの重要性は理解していますし、部下に対しては実践しています。しかし、自分より上の立場の人たちをリードすることなど本当にできるのでしょうか? 私は彼らに報告する立場(部下)なのですが」
その答えは、「他者に影響を与える」とはどういうことか、という点にある。それは、方向性を示し、アドバイスを提供し、意思決定をサポートすることだ。影響力を発揮する唯一の方法は、親しみを持たれること、つまり、自分がどのような人物で、何を重視し、何を行動の原動力にしているかを周囲に理解してもらうことだ。これを実践に移すには、リーダーシップを「チーム」「同僚」「上司(上位のリーダー)」という3つの次元で捉える必要がある。
リーダーシップの3つの次元
1. チームを率いる:第1の次元は、最も分かりやすい「部下(自分に報告する人々)」である。チームのメンバーを率いるとは、単に指示を出すこと以上の意味を持つ。指示を出すだけでは、良くても「業務命令」であり、最悪の場合は独裁的な「マイクロマネジメント」になってしまう。あらゆるレベルにおいて、リーダーシップの基盤となるのは、自身の価値観と最も重要だと思う信念だ。価値観に基づくリーダーシップは、内省から始まる。メンバーが学び、成長し、潜在能力を最大限に発揮できるようにするために、何ができるだろうか。チームをどのようにサポートできるだろうか。内省を深めるほど、他者からの意見、特に自分とは異なる意見や見解を受け入れやすくなり、バランスの取れた視点を養うことができる。他者に心から関心を持ち、誠実に関わることで、周囲は自ずとついて行きたくなるものだ。セオドア・ルーズベルトの言葉とされる有名な一節に、こうある。「あなたがどれだけ知っているかなど、どうでもいい。あなたがどれだけ気にかけてくれているかを彼らが知るまでは」
2. 同僚とパートナーシップを築く:第2の次元は「同僚」だ。彼らは自分の部下ではなく、自分も彼らの部下ではない。そのため、例えば自分が財務部門で相手がマーケティング部門であれば、「自分の本分だけに専念しよう」という誘惑に駆られるかもしれない。しかし、この第2の次元が促すのは、互いにそれぞれの専門分野(財務とマーケティング)を持つ「組織の共同リーダー」であるという視点を持つことだ。この視点に立つことで、チームや部門の垣根を越えたパートナーシップを構築し、組織の目標達成に向けて全力を尽くすことができる。そこには競争も、上層部の関心を引こうとする小競り合いも存在しない。あるのは、自分とチームが他者を助ける方法を模索し、同時に彼らからのサポートを歓迎する姿勢だけだ。
これら2つの次元に慣れるにつれ、第3の次元である「自分より上の立場の人々に影響を与えること」を進展させられるようになる。経験を積むことで、組織の透明性や説明責任(アカウンタビリティ)を高めるために「権力に対して真実を語る」勇気を持てるようになる。会社が誤った意思決定を下そうとしている、あるいは、より良い決断ができるはずだと考えたときは、まず自身の動機と情報を再確認し、その分野の専門家に相談して自分の考えを検証してみるのだ。
3. 上に影響を与える
いよいよ第3の次元だ。例えば、自社が欧州で新製品をローンチすることになり、経営陣は英国から参入すべきだと思っている。しかし、あなたの分析によれば、フランス市場への先行参入という異なる戦術のほうが有効であると示唆されている。どうすべきだろうか。簡単な解決策は、単に計画に従うことだ。そもそも、あなたにはローンチ戦略の最終決定権はない。計画を推進しているリーダーはあなたの直属の上司であり、社歴5年のあなたに対して、上司は25年の経験を持つ。しかし、分析と計画に携わってきたあなたには、市場の選択肢による成功確率の違いに、根拠ある懸念を抱いている。私心(エゴ)を排し、あなたは「上に働きかける(リード・アップ)」ことで、自分より上位の人々に影響を与える決意をする。その具体的なアプローチは以下の通りだ。
ネットワークを活用する:第2の次元で築いた強力な社内ネットワークを駆使する。さらに、他社や他業界にいる信頼できる専門家の人脈も活用できる。機密情報を共有しない範囲で、欧州での製品ローンチに関する意見を求めてみるのだ。得られた市場情報が上司の計画を裏付けるものになるかもしれないし、逆に、得た知見を上司に伝えるべきだという確信につながるかもしれない。
直接的なアプローチを取る:上司が非常に話しやすく、他者のアイデアや意見に耳を傾ける人物である場合を想定しよう。自分の動機が「自分が正しいと証明すること」ではなく「正しいことを行うこと」であると確信したうえで、上司と面談し、分析結果と事実を提示する。その後、相手の反応を待つ。
間接的なアプローチを取る:もし上司が極めて権威主義的(トップダウン型)な人物だったらどうだろうか。社歴の浅い自分の意見など耳を傾けてもらえないと分かっている場合、間接的なアプローチが有効になる。あなたには、上司と同等の役職にあり、良好な関係を築いている別の経営陣(リーダー)がいるとする。その人物に自身の調査結果と結論を説明するのだ。もしそのリーダーがあなたの意見に同意してくれれば、あなたに代わって上司に話をしてくれるかもしれない。
「正しいこと」を行う
上位のリーダーに影響を与えるのは容易ではなく、プロセスの中で不安やストレスを感じることもある。だからこそ、「正しいことを行う」という信念を持つことが重要になる。あなたが声を上げたのは、注目を浴びたいからでも昇進したいからでもなく、組織の利益を思ってのことだ。どんなに善意からの行動であっても、意見したことで解雇されるのではないかという不安がよぎるかもしれない(その可能性はゼロではない)。しかし、もしそうなったとしても、従業員に権限を与えず、フィードバックを推奨しないような組織には、どのみち長く留まるべきではない。そして多くの場合、誰かがあなたの声に耳を傾けてくれるはずだ。
ビジネス社会で40年間過ごしてきた経験から言えるのは、大半の経営陣は愚かな決断を下したいわけではないということだ。誤った意思決定がなされるのは、通常、何が最も理にかなっているのか、そしてその理由は何かを、誰も上司に伝えていないことが原因である。
最終的に、上司がローンチ計画を変更するか、それとも現状維持とするかは分からない。いずれにせよ、あなたはローンチを成功させるために全力を尽くすだろう。たとえ何も変わらなかったとしても、2つの重要な事実が残る。あなたは「正しいことを行った」のであり、「最善を尽くした」のだ。会社を助けること以外に私的な野心(個人的なアジェンダ)がないことを示せば、周囲はあなたの言葉に耳を傾け、やがてあなたの意見を求めるようになる。



