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2026.08.24 11:00

「AIは、人と人をつなぐ」 博報堂DYグループが見出したAIのもうひとつの価値

2026年、博報堂DYグループは社員が経営層にAIを教える「AIメンタリング」で「People Innovation Awards」グランプリを受賞した。テストでは経営層の月間AI利用が約3倍に増加。制度は想定を超える効果も生み出している。


AIが経営判断や事業戦略にまで影響を及ぼす時代だからこそ、最初に変わるべきは現場ではなく経営層である─。博報堂DYグループは、そうした考え方からAI活用を進めた。背景にあったのは、経営層とAIとの距離だった。

2024年12月に同グループが参照した調査では、50代以上の生成AI活用率は約10%。さらに社内を見渡すと、グループのコーポレート機能の中核会社である博報堂DYコーポレートイニシアティブ(以下、博報堂DYCI)のAIツールの利用率は5%を下回っていたという。

しかし、AIが競争力を生み出すかどうかは、企業固有の経験や暗黙知をどう組み合わせるかにかかっている。その知見を最も多くもつのは経営層やベテラン社員だ。つまり、経験豊富な人ほどAIから遠いという構造こそが、組織変革のボトルネックになっていた。

「まずは経営層がAIを使うこと。その状態をつくらなければ会社全体は変わらないと考えました」

そう話すのは、企画を設計した博報堂DYCI DX推進室の荻野綱重(以下、荻野)だ。そこで選んだ方法が、現場社員が経営層に伴走する「AIメンタリング」である。

「AIの使い方を教えることが目的ではなく、慣れること。そのため、役員が困っていること、例えば、経営会議の資料をまとめたり、他社の統合報告書を比較したり、営業数字を分析したり。その場でAIを使ってメンターと一緒に解決することにしました。講義ではなく、ご本人に実際に手を動かしてもらうことを徹底しました」(荻野)

荻野綱重 博報堂DYコーポレートイニシアティ ブ DX推進室 企画推進部長
荻野綱重 博報堂DYコーポレートイニシアティ ブ DX推進室 企画推進部長

実際に、博報堂DYホールディングス(以下、博報堂DYHD) 社長 西山泰央のメンターを務めた博報堂DYCI DX推進室 松井一哲(以下、松井)はこう語る。

「重要なのは社長ご自身がAIとの対話の質を高めることでした。最初は一問一答で終わっていたやり取りが20回、30回とラリーが続くようになる。AIを検索エンジンではなく、思考を深めるパートナーとして使い始めたとき、経営層の見方が大きく変わったと感じました」(松井)

松 井一哲 博報堂DYコーポレートイニシアティ ブ DX推進室 ディレクター
松 井一哲 博報堂DYコーポレートイニシアティ ブ DX推進室 ディレクター

この設計にはもうひとつ特徴がある。メンターに求めたのはAIの専門知識ではなかった。荻野は、「関係構築力やホスピタリティ、コミュニケーション力を重視した」と話す。

経営層が安心して相談できること。相手の業務を理解し、課題に寄り添えること。専門用語ではなく、仕事の文脈でAIを語れること。その力を備えた人材が、AIとの距離を縮める役割を果たせると考えたのだ。加えて、役職をもつ中間層ではなく、現場社員を起用した理由も同じだ。普段接点の少ない相手だからこそ、既存の上下関係から離れた「教える・学ぶ」の関係が生まれる。

さらに、担当業務の近い社員を組み合わせることで、「今困っている仕事」をその場でAIを使って解決できる環境をつくった。こうして始まったAIメンタリングは、経営層のAI活用を促すだけでなく、組織にも思いがけない変化をもたらしていく。

狙いを超えた「化学反応」

AIメンタリングの運用を続けるなかで、最初に起きたのは組織への自然な波及だった。制度は社内へ大々的に告知されたわけではなく、博報堂DYHDの役員を対象に限られたメンバーからスタートした。

メンタリングでは、役員が日々抱える業務をAIで一緒に解決していく。実際にAIで作成した企画書やインフォグラフィックを役員自らが会議や日常業務で使い始めると、その変化は周囲の目にも留まるようになった。「どうやってつくったのか」「自分にも教えてほしい」、そうした声が部門長や周囲の社員から自然と上がり始め、制度を知らなかった社員にも関心が広がっていったという。

組織変革は制度だけでは起きない。誰が最初に行動を変えるのか、その順番が重要になる。同プロジェクトでは、経営層から始めたことが、結果として組織全体へ変化を伝播させる起点になった。松井は、西山社長との3カ月にわたる対話について次のように振り返る。

「毎週1時間、AIを介して社長が何に悩み、どのような視点で意思決定しているのかに触れられたことは、自分にとって10年分の経験を一気に得たような感覚でした。社長のメンターを務めて終わりではなく、会社全体のAI活用を自分が進めなければいけないという当事者意識が生まれました」(松井)

陣頭指揮をとった荻野やAIメンターを務めた松井たちのコミュニティも生まれた。

「新しい機能を見つけて夢中になって発信しても、振り返ると誰もついてきていない。そんな状態が続いていました。生成AIに積極的に取り組む社員はほかにもいましたが、部門やグループ会社を超えて交流する機会はほとんどありませんでした。今回の取り組みを機に、メンター同士がコミュニケーションをすることができる場ができたことは、大きなメリットだったと感じています」(荻野)

こうしたつながりは、AI活用を一部の社員の取り組みに終わらせない土台にもなった。博報堂DYCIでは荻野と松井を中心にAIアンバサダー制度を立ち上げ、各部門のアンバサダーが全社勉強会で得た知見をもち帰り、自部署で実践した事例を再び全社へ共有する循環を構築。

これにより「AIを使うのが当たり前」という空気を組織全体へと広げていった。

一連の取り組みは、人材育成・組織変革・DX推進の優れた取り組みを表彰する「People Innovation Awards」でグランプリと優秀賞をダブル受賞し、生成AI時代の人的資本戦略を表彰する「GenAI HR Awards」でも準グランプリを獲得した。同グループが実施したAIメンタリングでは、経営層はAIを学ぶ代わりに自らの経験や判断を現場社員へ伝え、現場社員はAIを教える代わりに経営者の視座を学ぶ。

知識が一方向に流れるのではなく、互いが異なる価値を交換する相互補完型の学びが生まれていた。効率化の先で、AIは人と組織の関係そのものを変えていく。AIメンタリングという小さな試みは、その可能性を示している。

博報堂DYホールディングス
https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/


おぎの・つなしげ◎博報堂DYコーポレートイニシアティブ DX推進室 企画推進部長。2003年博報堂入社。営業職を経て、12年より人事部門を担当。新人事制度の設計やタレントマネジメントシステムの導入を推進。22年よりBPR・AI推進業務も担当。

まつい・かずあき◎博報堂DYコーポレートイニシアティブ DX推進室 ディレクター。2025年から、博報堂DYホールディングス 西山泰央社長のAIメンターに就任。博報堂DYコーポレートイニシアティブ社内におけるAIアンバサダーも務める。


発売中のForbes JAPAN 10月号別冊『HUMAN-CENTERED AI 想像は創造できる!』にも掲載中

promoted by 博報堂DYホールディングス / text by Motoki Honma / photographs by Jin Saito / edited by Aya Ohtou(CRAING)

連載

博報堂DYホールディングスが探る「人間中心のAI」