家庭のエネルギー消費のうち、給湯が占める割合は約27%に上る(資源エネルギー庁「エネルギー白書2024」)。毎日当たり前のように使うお湯だが、その給湯設備の選択は、暮らしの快適性だけでなく、脱炭素社会の実現にも大きく関わる重要なテーマとなっている。
この領域で長年挑戦を続けてきたのが、給湯機器・住宅設備メーカーのノーリツだ。1951年の創業以来、人々の暮らしを支える「いい湯」を追求してきた同社は、近年、その価値を環境性能やエネルギー効率の観点からも進化させている。
快適さと環境配慮を両立する「次のいい湯」とは何か。そして、家庭から始める脱炭素をどのように実現しようとしているのか。ノーリツ 国内事業統括本部 マーケティング部長の清水大輔(以下、清水)に、その戦略と展望を聞いた。
給湯の省エネ化が脱炭素の鍵を握る
「蛇口をひねれば当たり前のようにお湯が出るため、普段は意識されることの少ない給湯ですが、その裏側では給湯機器がエネルギーを使ってお湯をわかしています。家庭のエネルギー消費のなかでも、給湯は動力・照明に次ぐ大きな割合を占めているのです」
清水は、CO₂排出量の削減はメーカーにとって社会的責任であると同時に、自社の存在意義そのものだと語る。給湯は家庭のエネルギー消費に占める割合が大きいからこそ、省エネ性能の向上と低炭素化を進めることが、カーボンニュートラル社会への貢献に直結するという考えだ。
「これまでは『お湯が出ること』そのものが給湯機器の基本的な価値でした。しかし今では、環境性能や光熱費の削減に加え、災害時のレジリエンスも新たな価値となっています。
さらに、再生可能エネルギーの普及やエネルギー価格の高騰を背景に、消費者の関心も『いかに効率よくエネルギーを使う設備を選ぶか』へと変化しています。給湯機器は、単なる住宅設備ではなく、脱炭素社会を支える社会インフラへと進化していると考えています」
こうした流れを後押ししているのが、国による省エネ基準の強化だ。1998年の省エネ法改正で導入されたトップランナー制度では、給湯機器メーカーに対し、販売する製品全体のエネルギー効率を段階的に引き上げることが求められている(資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」)。
「ノーリツは2025年度のトップランナー基準を達成しました。現在は2028年度の新たな基準を見据え、より高効率な製品の販売比率を高めるとともに、効率の低い製品からの置き換えを積極的に進めています」
「Vプラン26」を起点に進める環境配慮型商品の拡大
こうした取り組み全体の起点となったのが、同社が24年に策定した中期経営計画(24〜26年度)「Vプラン26」だ。
2030年のありたい姿からバックキャストし、環境配慮型商品の拡大と事業変革を進めている。清水によれば、26年にその構成比を50%に拡大することを目指し、25年度末時点で44.3%まで到達。さらに30年には90%に拡大する計画だという。
「創業当初の『お風呂は人を幸せにする』という理念は今も企業理念の根幹にありますが、その価値を次世代につないでいくためには、快適なお湯のある暮らしと環境配慮の両立が欠かせません。
そこで私たちは、2025年11月の自然冷媒ハイブリッド給湯機「HPHB R290」発売を機に、『次のいい湯を、考える時代です。』というメッセージを打ち出しました。このフレーズは、暮らしに身近な『お湯』から、社会課題の解決に貢献していきたいというノーリツの意思表明です」
同社の現在のポートフォリオでは、2030年に製品使用時のCO₂排出量を30%削減、2050年に実質ゼロを目標にしている。
清水はまた、設備の進化におけるエネルギー供給の不確実性にも言及した。
「ノーリツは特定のエネルギーに依存するのではなく、お客さまに提供する価値を起点に技術開発を進めています。エネルギーの選択肢が変化しても、その時代に最適な形でお湯のある豊かな暮らしを提供し続けることが私たちの使命だと考えています」

自然冷媒ハイブリッド給湯機「HPHB R290」が変える給湯機器の価値
自然冷媒ハイブリッド給湯機「HPHB R290」は、ノーリツが2030年・2050年に向けて取り組む脱炭素の方向性を象徴する製品だという。では、具体的にどのような特長があるのだろうか。清水はその強みを説明する。
「最大の特長は、2013年より業界に先駆けてヒートポンプにノンフロン(自然冷媒R290)を採用している点です。一般的なエアコン(R32使用)のGWP(地球温暖化係数)が771に対して、R290は0.02と非常に低く、温暖化への影響を1/38,550に抑えることができます。R290の強燃性についても、ノーリツが築いてきた高い技術力で安全性を担保しています」
「また、R32は業者による冷媒の回収が必須ですが、自然冷媒であるR290は回収が不要です。万一大気中に排出されたとしても、フロン類のような強力な温室効果をもたらさないのが大きなメリットです」
ノーリツの試算では、自然冷媒ハイブリッド給湯機「HPHB R290」(145L MODEL)は従来型ガス給湯器と比べ、CO₂排出量を約60%※1、給湯・保温にかかる年間光熱費を約67%削減※2でき、環境面と家計面の双方で負担を大きく減らせるという。
他にも使用状況を学習して自動で最適運転を行う「新スマート制御」や、非常時のための「そなえ貯湯」、「そなえアナウンス」といった機能も搭載。平時の省エネだけでなく、災害時にも安心をサポートする。
※1 平成28年省エネルギー基準に準拠した「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)Ver3.10.0」(6地域)により算出 ●年間給湯・保温負荷18.3GJ。電気:電気事業者別排出係数-令和6年度実績-R8.1.9環境省・経済産業省公表代替値。LP:温室効果ガス総排出量算定方法ガイドラインVer1.0平成29年3月環境省
※2 平成28年省エネルギー基準に準拠した「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)Ver3.10.0」(6地域)により算出 ●年間給湯・保温負荷18.3GJ ●従来型給湯器:2006年度基準エネルギー消費効率81.7%、エコジョーズ:モード熱効率92.5% ●LPG料金5.9円/MJ ※出典元:石油情報センター(令和4年度月次平均価格(50m3)データの単純平均より) ●電気料金31円/kWh(全国家庭電気製品公正取引協議会「電力料金の目安単価」より)
水素も視野に入れた2050年の給湯ビジョン
「ノーリツはすでに、100%水素を燃料として燃焼する技術を確立しています。将来のエネルギー転換を見据えながら、あらゆる燃料の可能性を視野に入れて技術開発を進めており、その技術はいずれ製品へ転用されると考えています」
この次世代エネルギーは世界的に期待度が高い一方、インフラ整備はまだ途上にある。日本国内における家庭用製品の普及や制度設計はこれから本格化する段階だが、ノーリツは可能性が少しでもあるなら挑戦したいと考えている。
事実、欧州では水素混合ガスの実証や制度整備が進められており、将来的な普及の可能性を完全に否定できる状況ではないからだと清水は指摘する。
「2050年に向けて、住宅エネルギー分野が大きな転換期を迎えるのは確かです。多様なエネルギーを最適にマネジメントしながら使う時代がいずれやってきます。そうした選択肢が広がる時代でも、お客さまに最適な『いい湯』を提供するために、今後もノーリツは技術革新を続けていきます」
自然冷媒ハイブリッド給湯機「HPHB R290」スペシャルページ
https://www.noritz.co.jp/product/special/hphb_r290/
清水大輔(しみず・だいすけ)◎ノーリツ マーケティング部 部長。営業を経て、国内商品企画でガス給湯器などの商品企画を担当。北米エリアの商品・事業企画や現地法人での経営企画・マーケティングを経験。現在は国内のマーケティング戦略を統括する。



