これはかねて望ましい対処策とされてきたものだが、実行するのはきわめて難しい。前出のベスクレストノウは、イスカンデルの輸送起立発射機(TEL)は、攻撃するのが非常に難しい目標だと指摘している。この8輪駆動の発射車両は多くの場合、森林の中の道を3〜5時間かけて移動し、射撃陣地に入るという。森林内では十分な掩蔽を確保でき、また発射地点は通常、国境から150km程度離れており、ウクライナ軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS)などの火砲の射程外になる。
ロシア軍に配備されているイスカンデルのTELは100両を超えるが、この戦争の装備の損害を記録している団体「Oryx(オリックス)」のデータベースによると、これまでに確認された損害数はわずか4両にとどまっている。
ウクライナがイスカンデルのTELを攻撃する機会を得るには、優れた長距離偵察・打撃能力が必要になる。ただ、最大200km先の目標を発見・攻撃するウクライナの中距離打撃能力はここ数カ月で大幅に向上しており、たとえば、ロシアの占領下にあるウクライナ南部クリミア半島への補給ルートをほぼ遮断することに成功している。
イスカンデルのTELに対する攻撃を成功させるには、外国から提供される情報、とりわけ米国の衛星やその他のセンサーによる情報が鍵を握るだろう。
こうしたアプローチによって戦争は再び非対称戦の様相を帯びる。米国は、高価なミサイルを用いて安価なドローンを空中で撃ち落としてきた。一方、ウクライナは安価なドローンを使って、地上にある高価なミサイルを破壊することになるかもしれない。AI(人工知能)を搭載した「Hornet(ホーネット)」ドローンがクリミアへの幹線道路を巡回し、燃料輸送車両を捜索しているように、ほかのドローンが林道を巡回して、通過するイスカンデルTELを探知しようとする可能性もある。
ウクライナ国産の弾道ミサイルもイスカンデルを攻撃する手段になり得るが、まだ実戦配備されていない(編集注:ロイター通信によると、ウクライナのファイア・ポイント製「FP-7」弾道ミサイルはウクライナ国防省の認証手続きに入っており、今秋初めにも実戦使用される方向になっている。より大型の「FP-9」弾道ミサイルも今秋終わり頃の実戦投入が目指されている)。
同時に、弾道ミサイルやその部品の製造工場など、サプライチェーン(供給網)をさかのぼった攻撃も強化される公算が大きい。そのためにはおそらく、「FP-5フラミンゴ」巡航ミサイルのような大型弾薬が必要になるが、最終的にはこちらのほうが有効かもしれない。
向こう数カ月は、米国にとってもウクライナにとっても試練の時期になる。それがどのような展開をたどるか、世界は中東と欧州の空の戦いを注視していくことになるだろう。


