恩恵を受けるのは誰か、受けられないのは誰か
勝ち組は、トークンの原価の底を押さえている企業か、価格下落の果実を自分のものにできる企業だ。エヌビディア、TSMC、そしてサンディスクのような高帯域幅メモリー(HBM。GPUに直結して大量のデータを高速でやり取りする積層型メモリー)を手がける企業は、トークンが安くなるほど需要が増えるため恩恵を受ける。グーグルは、独自開発の半導体と流通網の両方を持つ点で際立って有利な立場にある。独自半導体については、Tensor Processing Unit(TPU)をAnthropicに使ってもらう契約が追い風になっている。
Anthropicは法人向けに軸足を置いていることが強みになる。AIの利用者の側も、費用対効果を高めている。決まりきった作業は2ドル(約318円)のモデルに振り分け、最も難しい2割の処理にだけ25ドル(約3975円)のモデルを充てるという使い方だ。
負け組が苦しむのは、定額の料金体系と、変動をヘッジできないトークン原価とのあいだに開いた溝である。借入金を抱え、収益を単一の顧客に依存するネオクラウド(AI向けGPUを貸し出す新興のクラウド事業者)は危うい。米国を代表するフロンティアモデルの提供企業も同様だ。スタンフォード大学の2026年AIインデックスによれば、その性能は中国勢の最上位をわずか2.7%上回っているにすぎない。
投資家が注視すべき指標
投資家は次の動きを追うべきだ。
・100万トークンあたりの価格。Artificial AnalysisとOpenRouterで確認できる。オープンモデル対クローズドモデル、中国勢対米国勢のトークンシェアも、これらのサイトで見られる。
・公表されているトークンの処理量と、その伸びが価格の下落を上回り続けているかどうか。Yipit Dataなどが情報源になる
・推論の粗利益率。ICONIQキャピタル、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ、SemiAnalysisのような専門メディアが情報源になる
・AIクラウドの設備投資額と減価償却の前提。ゴールドマン・サックスのリサーチ(Goldman Sachs Insights)や各社の決算資料で確認する
・ネオクラウドの受注残高とフリーキャッシュフローの対比。CoreWeaveなど各社の財務報告で確認する
・HBMと半導体パッケージングの生産能力。SemiAnalysisのAccelerator & HBM ModelとSilicon AnalystsのFoundry Allocation Dashboardで確認する
・AIデータセンターの電力価格。国際エネルギー機関(IEA)、PJMインターコネクションのような地域の送電系統運用機関、MITエネルギー・イニシアチブといったエネルギー分野の専門研究機関が、情報源として適している。
結局のところ、AI業界の将来は、AIがもたらす価値が価格を上回るかどうかにかかっている。今のところ企業が取り組んでいるのは、価格を下げることのほうだ。
その一例がTelnyx(テルニクス)である。同社はAnthropicのモデルを使い、AIエージェントの運用に1日あたり10万ドル(約1590万円)を費やしていた。このコストが、同社をオープンモデルへと向かわせた。
「使ってみたら、ちゃんと動きました」とデビッド・ケイセムCEOはWSJに語った。「OpenAIやAnthropicのモデルを使わなくなったわけではありません。今も使っています。ただ、何もかもをそれらに任せることはなくなりました」
同社の1400体のエージェントは、中国のスタートアップZ.AIの製品を使っており、費用はエージェント1体あたり1日約100ドル(約1万5900円)で済む。Anthropicの最上位モデルFableは、作業の段取りを組む指揮者の役回りを担い、実際の実装はオープンウェイトモデルが受け持つ。オープンウェイトモデルが出した成果の点検はOpenAIのSolが担当していると、WSJは伝えている。
投資家は、Telnyxのこうした使い分けを生んでいる力を踏まえたうえで、利益ポテンシャルが最も大きい企業に賭けることを検討すべきだろう。


