AIの利益ポテンシャルを削る力
私は、業界分析と競争優位に関する著作で経営戦略という分野を一変させたハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・ポーターと仕事をしてきた。その経験から、AI業界の利益ポテンシャルを押し下げている力に、人一倍敏感になっている。
私は以前、この業界の地図を描き、本質的な収益性が異なる複数のセグメントを洗い出した。要するに、AI半導体の設計・製造セグメントは収益性が非常に高い一方、AIチャットボットの供給企業は巨額の赤字を垂れ流している。
なぜか。OpenAIとAnthropicは四方八方から攻められているからだ。売り手の交渉力は絶大で、価格競争も技術革新の圧力も激しい。新規参入に必要なコストは下がり続けている。そして顧客は、乗り換えの負担が小さいうえに、少しでも割安なものを探す強い動機を持っている。
具体的には以下だ。
売り手(供給業者)の交渉力
AIチャットボット企業は、AIクラウドサービス事業者からトークンを買う。そのクラウド事業者は半導体メーカーからGPUとメモリー半導体を買い、半導体メーカーはエヌビディアなどから設計をライセンスしている。トークンの価格は年々驚異的なペースで下がっており、EpochAIによれば100万トークンあたり2021年の60ドル(約9540円)から現在は約0.06ドル(約9.5円)になった。
ところが、エージェント型AI(指示を受けて自律的に複数の手順をこなすAI)が使うトークン量は桁違いに多い。グーグルのトークン消費量は2023年の月間9.7兆トークンから330倍に膨らみ、現在は3200兆トークンを超えていると、同社のサンダー・ピチャイCEOが5月のGoogle I/Oで語った。しかも、この処理を担う半導体は需要が供給を上回っている。DRAM(dynamic random access memory。パソコンやサーバーの主記憶に使われる半導体メモリー)の価格は、2026年に335%上昇すると見込まれている。
既存企業間の敵対関係
前述のとおり、OpenAIとAnthropicは、いわゆるオープンウェイトモデル(モデルの重みパラメーターが公開され、誰でも入手して自前で動かせるAIモデル)との競争にさらされている。オープンウェイトモデルは、企業が必要とする作業をはるかに安く片づけられる。layer3labsによると、ライセンス料はかからないものの、動かすための費用は自前で負担しなければならない。とはいえ、こうした低コストのモデルが手に入るようになったこと自体が、既存勢力への圧力になっている。
新規参入の脅威
OpenAIとAnthropicは、自社モデルの構築に莫大な費用を投じてきた。Claude 3では1億ドル(約159億円)である。これに対しDeepSeekのような競合が払った額ははるかに少なく、学習にかかったのは600万ドル(約9億5400万円)だった。これは、5億ドル(約795億円)に上るハードウエアなどの初期費用は含まない。参入障壁がこれだけ下がれば、価格競争が続くのは避けられない。
買い手の交渉力
最後に、企業はAIにこれほどの金を使うことにうんざりしている。投資に見合う経済的な見返りが測りにくいことを考えれば、なおさらだ。
OpenAIとAnthropicの新規株式公開(IPO)が近づくなか、AIチャットボット市場の利益ポテンシャルが目減りしていることは、個人投資家にとって明るい材料とはいえない。


