企業がAIへの支出を大幅に切り詰めている。その結果、トークン価格が急速に崩れ、生成AIの各層で利益率が圧迫されている。モデルを提供する各社は、初めて本格的な価格の見直しを迫られている。この業界の収益力が消えていく様子を見守る投資家にとっても、影響は小さくない。
ありふれた作業に、最も高性能で最も高価なAIモデルを使う必要はない。Cursor(カーソル)のフィールド最高技術責任者(CTO)マイク・セイクスは、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)にこう語っている。
「サーキットを走るために設計されたランボルギーニで、牛乳を買いにスーパーへ行くようなものです」。
そこで企業は、中国製を含む低価格のモデルに乗り換えている。削減できるコストは大きい。たとえばウェブブラウザーを開発する場合、費用を87%も減らせる。
ブラウザーをゼロから作る場合、OpenAIのGPT-5.5を使うと1万ドル(約159万円)を超える。これに対し、CursorのComposerとAnthropicのOpus 4.8を組み合わせれば1339ドル(約21万円)で済む。WSJが紹介したCursorの調査による。
こうしたチャットボットを使う企業には、大幅な値引きの提案が舞い込んでいる。高圧送電鉄塔向けの顧客サポート基盤を手がけるPylon(パイロン)は、あるベンダーから約160万ドル(約2億5400万円)分、別のベンダーから6万5000ドル(約1030万円)分、三社目から1万ドル(約159万円)分のトークンを無償で受け取ったと、共同創業者のマーティ・カウサスが同紙に明かした。
なぜ今トークノミクスが重要なのか
激しい価格競争によって、経営の意思決定者にとって新しい研究分野が生まれつつある。その名もトークノミクス(tokenomics。トークンの経済学)だ。トークンとは、AIチャットボットの料金設定の基準となるデータの塊を指す。トークノミクスは、めまぐるしく変わるトークンの価格と、そのトークンを利用者に届けるためのコストを追いかけることで、限られたAI予算を最大限に生かす手助けをする。
トークノミクスを実践することで、AIの利用者は生成AIのバリューネットワーク全体に、意図せず勝ち組と負け組を生み出している。
勝ち組には、低価格の大規模言語モデル(LLM)を供給する中国勢が含まれる。DeepSeek(ディープシーク)、Qwen(クウェン)、GLM、Kimi(キミ)、MiniMax(ミニマックス)などで、2026年半ばまでに46%の市場シェアを握った。エヌビディア、TSMC、マイクロン、サンディスク、ウエスタンデジタルといったGPU・メモリー半導体の設計・製造企業も恩恵を受けている。
一方、価格の高いLLMを提供する側にあたるCursor、ウーバー、セールスフォースなどは、価格を引き下げる方向で調整している。



