視点2:地政学が鍛える「前提を疑う」技術
地政学は一見テックとは遠いが、マクロを俯瞰する視点を鍛える格好の題材である。エネルギー、資源、サプライチェーンをめぐる国家間の動きは企業活動に直結する。半導体やAI計算資源をめぐる競争が国家戦略の中心に据えられた現在、その重要性はいっそう増した。自動車保有台数は米国が人口千人当たり約900台に対しインドは約37台。この差が縮まるとき、資源と環境はどうなるのか。「今ある条件が前提のまま続く」という無意識の思考を一度外すこと。ダニエル・ヤーギン『新しい世界の資源地図』のような書籍や、地政学コンサルタントを描いたコミック『紛争でしたら八田まで』は、世界のマクロな動きを「物語」として体感させてくれる。地政学は未来を予言するツールではなく、あり得るシナリオを複数描くための土台なのである。
視点3:医療DXが予見する「全身スキャン型」企業診断
医療のデジタル化は目覚ましい。オンライン予約、短時間のMRI検査、ウェブでの結果確認——待ち時間という最大のストレスを削減する医療DXは、カスタマーエクスペリエンス進化の好例だ。さらにAIによる画像診断は専門医の精度を超えはじめ、症状が出てから調べる時代から、全身をスキャンして潜在的問題を先回りで捉える「予防」の時代へと移行しつつある。
この発想は企業経営にそのまま当てはまる。1分間の心電図が24時間のごく一部しか捉えないように、監査法人が見るのは全取引のごく一部にすぎない。実際、不正発見の約6割は内部通報に起因し、外部監査によるものは7%程度と報告されている。近年相次いだAIスタートアップの不正会計疑惑や、「自動化」を掲げながら実態は人力だった海外企業の破綻は、サンプリング型診断の限界を露呈した。AIとビッグデータによる全量解析——財務・取引・コミュニケーションログを横断する「全身スキャン型企業診断」が、これからの標準になるだろう。リアクティブからプロアクティブへ。この診断思考こそ、想像力を裏打ちする現実的データの基盤となる。


