経済的資産を「存在寿命」に変換する
編集部:恵島さんは、「人生の ROA (総資産利益率)」をどう高めるかということもおっしゃっていますね。時間という有限の資産がありますが、何の時間を投資すべきという考えですか?
恵島: 人生のROAを最大化するには、リターンを増やすだけでなく、アセット(分母)を意図的に小さくする、つまり「賢くお金を使う」という逆説的なアプローチが必要です。100億円を抱えたまま使い道もわからず死ぬのは、資本効率の観点からは「致命的な経営失敗」です。
入山: 資産の8割を持って死ぬことの「ROAの低さ」を直視すべきですね。
恵島: ええ。だから私は今、和食職人を3,000人育成し世界に送り出すプロジェクトや、奨学金制度の構築に資金を投じています。これは経済的資産を「存在寿命」へと変換する、私なりの人生のイグジット(出口戦略)です。
入山: 優秀な経営者は事業のROIには厳しい一方で、自身の「資本効率」には驚くほど無頓着です。次世代への継承を含めた「人生規模の資本配分」を再考すべきでしょう。
恵島: 我が家の娘たちは、対照的な戦略をとっています。長女はイギリスでAIを研究し、「AIのパートナー」として生きる道を選びました。一方、14歳の次女は「AIに論理で勝つのは無理」と悟り、寿司職人を目指しています。
入山: 素晴らしい。「寿司職人(身体スキル)×英語」という掛け合わせは、AI時代に最も高い希少価値を生みます。私は自分の息子を庭師にしたいと思っているんです。庭師はAIに潰されない。日本庭園はどう見ても価値が上がると思いますよ。
恵島: 私自身は、「毎年、労働時間を10%減らしながら、120%の成長を実現する」という極めて高いハードルを課しています。生み出した余白で徹底的に遊ぶ。効率化の先にある「暇」を、いかに豊かに「遊ぶ」か。
入山: 結局、人類は「ホモ・ルーデンス」になるんです。ホモ・ルーデンスって遊ぶ人という意味で、「遊ぶ」って目的がないんです。だから、皆だんだんそういうふうになると思います。論理や数学がAIに収斂されて、人間がやる必要がなくなってくると、これからくるのは、「食・エンタメ・スポーツ・ブランド」。これらが価値が上がると思いますよ。

入山: 僕はこの10年くらいで、ようやく人生をストックで考えられるようになりました。それまでは無我夢中で走っていたのですが、人生のピークを「87歳」に設定しています。経営学の巨人・野中郁次郎先生が昨年、89歳でお亡くなりになられました。お亡くなりになる直前まで本当にお元気で、野中先生のようにはなれないから、87歳をピークに設定して、健康、経験、人脈(居場所)、資産という4つのストックを積み上げる。これを考えていたら、今日、恵島さんに近いことを言われて、すごく嬉しいですね。
恵島: 日本の経営者は「自分を削って他人のために」という美徳に縛られがちですが、それは従業員を苦しめるようなところがあったと思うんです。まず経営者が「俺は最高に幸せだ」と公言できる状態を作ること。それをやった方が会社全体が健全になると思います。
編集部: お二人の対話を通じて、私自身も「人生のKGI」を問い直す必要性を痛感しました。
恵島・入山: ありがとうございました。


