経営・戦略

2026.08.20 16:00

成功する経営者は心拍数で決まる 身体感覚が導くAI超えのトレード術

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欧州債務危機が緊迫の度を強めていた頃、ロンドンに拠点を置く中規模ヘッジファンドのトレーディングフロアで、ある実験が行われた。対象となったのは18名の高頻度トレーダーで、彼らは運用資金、情報、ニュースフィードへのアクセスなど、全て同じ条件下で取引を行っていた。その中には、年間1000万ポンド(約21億円)を超える利益を叩き出す者がいた一方で、わずか数カ月で業界を去る者もいた。

彼らを調査した研究者が注目したのは、IQでも、トレーダーとしての経験年数でも、出身大学でもなかった。測定していたのは、極めて単純な能力だった。それは、自分自身の心拍をどれだけ正確に把握できるかというものだった。

そして、この測定結果は、誰が利益を上げ、誰が数年以内に姿を消すかを見事に的中させた。この発見は、「より多く、より質の高いデータを持つ者ほど優れた意思決定ができる」という従来の常識を覆すものだった。全ての競合他社が利用可能な、同一の市場データを学習したAIシステムが意思決定を担う場面が増えつつある現在、この調査結果は、そうしたシステムが決して取り込むことのできない情報こそが成否を左右することを示している。

これは、AIにどれほどデータを追加しても埋められないギャップが存在することを示す一例だ。AIもパターンを学習することはできる。しかし、取引の舞台裏やトレーダー採用時の見極め、取締役会で交わされたやり取りのように、記録に残らない知見をAIはそもそも学習データとして取り込むことができない。また、効果的な経営判断とは単に「進めるか、見送るか」という選択を正しく行うことにとどまらない。綿密な実行計画を描き、状況の変化に応じて柔軟に軌道修正を行い、不測の事態に備えた対応策を講じて初めて成立するものである。AIにはこうしたニュアンスを捉える力が欠けており、自社組織や現在の市場環境を深く理解した経験豊富な経営者だけが、これらの要素を踏まえた判断を下せるのだ。 

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編集=朝香実

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