標準(規格)は「目に見えないインフラ」と呼ぶことができる。それは、私たちの世界、特にテクノロジーの世界を動かしているガイドラインや仕様だ。しかし、標準化機関は、AI(人工知能)に見られる週単位での容赦ない変化のペースについていくことができるのだろうか。
これこそが、国際電気標準会議(IEC)、国際標準化機構(ISO)、国際電気通信連合(ITU)という、世界の主要な3大技術標準化機関が直面している課題である。
筆者は先日、IECの事務総長であるフィリップ・メッツガー氏と対談し、技術の進化と同じスピードで、あらゆる形態のAIに対する標準を策定しようとする同機関の取り組みについて話を聞いた。1906年にケルビン卿によって設立されたIECは、蛍光灯の安全性から音響機器の電流にいたるまで、過去1世紀にわたるあらゆる標準化の背後に存在してきた。
こうした標準の採用は完全に任意であると、メッツガー氏は強調する。一般的に標準を遵守すること、そして特に昨今のAI標準に従うことは、競争優位性の確保に役立つという。「私たちが標準を通じて提供するのは、競争のためのプラットフォームである。私たちは世界貿易に貢献しており、世界貿易機関(WTO)からも認められている。IECやISOが策定した標準を適用すれば、企業の融資適格性や市場からの信頼が高まる」
これまでに策定・公開された最も代表的なAI標準は「ISO/IEC 42000」シリーズであり、その最新規格であるISO/IEC 42001:2023は、AI(人工知能)マネジメントシステム(AIMS)の要求事項を定め、その適合性を認証するものだ。
IECとその姉妹機関であるISOは、偽のAI画像を排除することを目的とした標準の策定と公開にも取り組んでいる。これは、ユーザーや企業が、AIが生成した誤った素材と本物のコンテンツを区別できるようにするための共通標準を開発・普及させるためのものだ。
IECとISOが昨年発表した「JPEG Trust」規格は、信頼性指標の形でメタデータをJPEGファイルに直接埋め込むためのフレームワークを提供する。現在策定が進められている同規格の2つの追加事項では、信頼性プロファイルのスニペットカタログと報告用テンプレートが導入される。これらは、そのまま使用することも、放送、デジタルカメラ、AIを活用したコンテンツ生成サービスといった特定のワークフロー、ユースケース、アプリケーション向けのプロファイルを構築するための起点として使用することもできる。メディアアセットのウォーターマーク(電子透かし)機能も提供される。
さらに、IECは情報セキュリティプロトコルの「ISO/IEC 27000」シリーズをベースに、産業オートメーション、サイバーセキュリティ、および産業プロセスへのAI導入に向けた標準の策定を進めているとメッツガー氏は言う。「これは当機関の技術専門家や委員会によって進められており、同標準の新バージョンに反映される予定だ。既存のシステム内でAIが確実に機能し、安全性と信頼性が維持されるようにしなければならない」
AIは急速に変化しているが、策定される標準は「具体的」かつ綿密に設計されたものである必要があるとメッツガー氏は指摘する。「当機関の専門家は、技術の安定性を確保するために取り組んでいる。重要なのは、開発される標準が特定の技術を規定するものではなく、それを適切に実装する方法を規定するものである点だ」。さらに同氏は、「すべてが適切に機能することを確認するために、組織内で適用すべきプロセスを特定する」とした上で、次のように語った。「どの技術を使うべきかを指示するのではなく、すべてが効率的かつ倫理的に機能するために取るべき手順を示すのだ。なすべきことを提示するのであって、それをどのように行うかを規定するものではない」



