精密な加工、独自の素材、代えのきかない手仕事。日本の産業を静かに支えてきた技術が、いま国境を越えはじめている。買収、資本参加、そして人材の移動によって。「誰に会社を引き継ぐか」は、「自社の技術を、どの資本の手に委ねるか」という問いと、すでに不可分になった。経済安全保障は、もはや国家だけの議題ではない。
Forbes JAPANが全国5都市で開催する特別セミナー「経済安全保障時代における事業承継と技術保全」。名古屋・大阪に続く東京開催では、液晶で世界の最前線に立ち続けた経営者・片山幹雄氏を迎える。聞き手を務めるのは、Forbes JAPAN編集長・藤吉雅春。世界と戦い抜いた経営者の視座から、技術を守り、価値に変え、未来へつなぐ経営を問う。
事業承継は、企業の「出口」ではない
事業承継と聞くと、多くの人はそれを経営の「終わり」の問題だと捉える。誰に会社を譲るか、いつ引退するか、相続をどうするか。たしかにそれらは重要な論点だが、この捉え方には、決定的に欠けている視点がある。
事業承継とは、企業の出口ではない。それは、日本が長い時間をかけて育ててきた技術、人材、そして地域の産業を、次の時代へどう手渡していくかという、極めて前向きな経営判断である。一社の承継の失敗は、その会社一つの消滅では終わらない。取引先が失われ、雇用が失われ、地域経済が細り、そして二度と再現できない技術が消えていく可能性を示している。
だからこそ、承継を「個人の引退設計」ではなく「技術と価値の継承」として捉え直すことが、いま求められている。
245万人、127万社。数字が示す、静かな危機
この問題の輪郭は、数字にはっきりと表れている。
中小企業庁はかつて、2025年までに70歳を超える中小企業の経営者が、約245万人に達し、その約半数にあたる127万社が、後継者未定になると試算した。仮にこれらの企業が承継できないまま廃業した場合、約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われるというものだ。
しかし、本当の危機は、この数字の先にある。廃業や売却によって失われるのは、雇用や売上だけではない。長年培われた技術、熟練の人材、地域に根ざした産業のネットワーク。一度失われれば、もう取り戻せないものが、この数字の裏側で消えようとしている。
そしてもう一つ、新たな論点が加わった。経済安全保障である。技術や人材が、M&Aや資本参加を通じて、意図せぬ形で国境を越えていく。「誰に承継するか」は、いまや「自社の技術を、どの資本の手に委ねるのか」という問いと不可分になっている。
なぜ、いま、このテーマなのか
かつて、事業承継は「身内の問題」だった。技術の流出は「大企業の問題」だった。経済安全保障は「国家の問題」だった。
だが、その境界は溶けつつある。会社を買収せずとも、中核技術を持つ人材を引き抜けば、技術は移転する。サプライチェーンの要となる中堅・中小企業ほど、その「静かな流出」の渦中にある。自社を「大手ではないから関係ない」と考える経営者こそ、いま最も無防備な立場に置かれているのかもしれない。
この構造変化のなかで、経営者は何を知り、どう備えるべきか。答えのない問いに向き合うためには、自らの経験と実感をもって語れる人物の言葉が要る。
世界と戦った経営者は、日本の製造業に何を見るか
本セミナーの中心となるのは、片山幹雄氏との対談である。
片山氏は、シャープの液晶事業を牽引し、49歳という若さで同社社長に就任した。日本の製造業が世界と最も激しく競い合った時代の、その最前線に立ち続けた経営者である。その後、日本電産(現・ニデック)で最高技術責任者を務め、世界市場で「攻める側」の立場も経験した。技術を守る立場と、世界で攻める立場。その双方を経営トップとして知る人物は稀有だ。
世界と最も競い合っていた頃、経営者として何が見えていたのか。「技術で勝ってビジネスで負ける」と言われ続けてきた、日本の製造業の本質はどこにあるのか。日本企業が陥った「6つの罠」とは何であり、そこからどう抜け出すのか。そして、AI時代に、経営者は自社をどう位置づけ、その価値をどう言語化すべきなのか。
さらに片山氏は、シャープ、日本電産、そして現在複数の企業で社外取締役を務める立場から見た「強い会社の共通点」についても語る。数々の企業を経営トップおよび社外の視点から見つめてきた経営者だからこそ描ける、実践的な洞察となるだろう。
これらはいずれも、規模の大小を問わず、技術を持つすべての企業にとって、自らの未来を考えるための視座となるはずだ。
このセミナーで得られること
本セミナーは定員50名。経営者、後継候補者、そして企業の技術と承継に関わる専門家まで、このテーマに関心を持つ方々が集う場である。
・自社の技術が、世界からどう見られているのかを捉え直す視点
・技術と人材は、買われなくても流出する。その構造の理解
・なぜ「技術で勝ってビジネスで負ける」のか。経営の見極め方
・世界の最前線で下されてきた、経営判断の実際のプロセス
・数々の企業を経営し、また外から見てきた立場から語られる「強い会社の共通点」
対談の後には質疑応答の時間を設けるほか、終了後には登壇者との名刺交換の場もご用意している。立場も業種も異なる参加者が、同じ問いを抱えて集まる場である。そこで交わされる対話もまた、この日の収穫のひとつとなるだろう。
開催概要
Forbes JAPAN 特別セミナー VOL.03 東京
経済安全保障時代における事業承継と技術保全
・日時:2026年8月27日(木) 12:45 開場/13:00 開演/15:00 終了予定
・会場:帝国ホテル 東京
・メインスピーカー:片山幹雄(株式会社Kconcept 代表取締役社長/シャープ株式会社 元社長)
・モデレーター:藤吉雅春(Forbes JAPAN 編集長)
・定員:50名
・対象:経営者、役員・部長クラスの方、後継候補者、本テーマに関心をお持ちの方
・主催:Forbes JAPAN
・参加費:無料
登壇者情報
片山 幹雄 │ 株式会社Kconcept 代表取締役社長/シャープ株式会社 元社長
1957年生まれ。東京大学工学部卒業後、シャープ株式会社に入社。液晶事業を牽引し、2007年に同社代表取締役社長に就任。2012年に会長を経て、2014年より日本電産株式会社(現・ニデック)にて副会長・最高技術責任者(CTO)を歴任。現在は株式会社Kconcept代表取締役社長として、複数企業の社外取締役も務める。
藤吉 雅春 │Forbes JAPAN 編集長
1968年、佐賀県生まれ。2014年のForbes JAPAN創刊時より制作に携わり、2018年に「スモール・ジャイアンツ」プロジェクトを立ち上げる。2019年3月より現職。著書『福井モデル──未来は地方から始まる』(文藝春秋)は、2015年新潮ドキュメント賞最終候補作。
全国5都市での開催
本企画は、名古屋を皮切りに、全国5都市での順次開催を予定。
・Vol.01 名古屋 2026.06.29 ※ 開催済み
・Vol.02 大阪 2026.07.08 ※ 開催済み
・Vol.03 東京 2026.08.27
・Vol.04 福岡 2026.09.17
・Vol.05 仙台 2026.10.28



