「選択の問題です」とシーボルドは言う。「金持ちになりたければ、金持ちになることを意識的に選ばねばなりません」
そう、読み間違いなどではない。あなたが金持ちでないのは、それほど金持ちになりたがっていないからなのだ。
シーボルドは、日中はコンサルタントとして働き――ジョンソン・エンド・ジョンソンやプロクター・アンド・ギャンブルといった大企業の営業部門や管理部門チームをトレーニング――夜は富の研究にいそしんでいる。この30年、フォーブス400に名を連ねる著名人をはじめ、世界で最も豊かな1,200人に取材してきた。なにが人を金持ちにするかについて調べ始めた貧乏学生の努力は、やがて3つの成果をもたらした。すなわち、1冊の本(『金持ちになる男、貧乏になる男』)、個人資産(金額は教えてくれなかったが、「全世界の講演者の中で上位1パーセントに入る収入」にランキングされているという)、そして、収入に関する、反感を抱かれがちな主張である。
私がシーボルドに興味を抱いたのは、彼の主張を売り込む一通のメールがきっかけだった。「あなたが金持ちでないのは、貧乏人と一緒にいるから」という考えに基づく主張である。貧乏人と一緒にいるから金持ちになれないというのは、犠牲者を責める典型的なやり口に聞こえた。そもそも、貧困の連鎖は現実に存在する。生まれ落ちた場所と環境によって、人はその一生で莫大な収入を失うことになりかねない。その影響は、「上から1パーセントの金持ちになりたい」と唱えるだけで消え失せるようなものではないのだ。
それでも、金持ちと、その他大勢である私達とでは考え方が違っており、金持ちは平均的アメリカ人とは違ったやり方で仕事にアプローチするというシーボルドの主張の根幹部分は、その主張から派生したほかの考え同様、一聴に値する。たとえば、シーボルドは居心地のよさについて、以下のように考えている。
「金持ちになりたければ、居心地のよさは最大の敵になります。[多くのアメリカ人は]居心地のいい場所に住み、居心地のいいライフスタイルを確立して、腰を落ち着けます。腰を落ち着けることは、富の創出を妨げる最たるものです。[富を生み出すためには]自分を追い詰めなければなりません」
「自分を追い詰めろ」というアドバイスは、起業家にはふさわしいかもしれないが、階層組織的な企業に属している人に対しては的外れではないかと私が指摘すると、シーボルドはこう反論した。「アメリカで金持ちになりたいなら、自分で会社を経営するのが一番ですが、会社員でも金持ちになることはできます。長時間労働を厭わず、転勤を命じられれば喜んで引っ越す……。金持ちになりたいなら、そのためにどんなことでもするのです」
シーボルドのその他の主張は、あまり納得できるものではない。彼の主張を聞いていると、まるで人が金持ちでないのは、その人自身の責任だと言わんばかりだ。アメリカの中産階級はある「病」に冒されており、その病とは、金は諸悪の根源だという洗脳であるという診断すら、シーボルドは下している。
「私もそういう家庭に生まれました。人生の一定期間を、その中で過ごしたのです。金はこの世で最も邪悪な存在だと子供の頃から叩き込まれれば、金 を追い求めるようにはならないでしょう?」とシーボルドは言う。「私は、お金というのは欲しがるべきものではないと考えて育ちました。いろんな人がいると ころで、『金持ちになりたい』なんて口走ったら、たいへんなことになります。批判されるのです。金持ちに出会った時に初めて、『そう、金持ちになりたいと 思うべきなんだよ』と言ってもらえました。まるで、金持ちになりたいというセリフは、下品な言葉かなにかのようです」
(お金の話題はたし かにタブーだが、アメリカ人は平均して週に47時間働いている。9時から5時までが典型的な勤務時間とすれば、週におよそ6日間働いていることになる。し かも、私達の大半は、定年までに充分なお金を稼げるかどうか心配している。そういったことを考えると、清教徒的なものの考え方のせいで富を否定していると は言い切れないと思う。もっとも、これに関しては、意見の相違を認め合うことができそうだ)
Part 2へ続く