両教授は、「自然実質金利下落局面でのマクロ経済の安定」と題する論文
(経済教育ジャーナル、2015年第46巻4号)において、経済が理想的な状態にあり、完全雇用状態で生産が行われ、インフレが中央銀行のインフレ・ターゲットに合致していたとしても、中央銀行は、安心して、自然実質利子率に起こっているかもしれない変化を見逃してはならない、と主張している。
さらに、本論文においては、自然実質利子率がX%下がった場合には、デフレ・スパイラルの危険を避けるために、中央銀行のインフレ・ターゲットも同じくX%だけ引き上げられなければならないと主張している。つまり、自然名目利子率は、一定に保たれなければならないということだ。言い換えれば、殆どの中央銀行は、インフレ・ターゲットを定めているが、名目利子率ターゲットにすべきだということである。
一言で言えば、インフレを安定させようとするのではなくて、名目金利を安定させるようにすべきだということである。
自然実質利子率は、1980年代から4%超下がっている(FRBエコノミストによる推計については、 http://www.frbsf.org/economic-research/files/wp2015-16.pdf を参照)。つまり、FRBは、デフレ・スパイラルの危険を避けるために、インフレ・ターゲットを2%から6%へと、同じく4%引き上げるべきであったということである。
問題は、現時点でインフレ・ターゲットを引き上げるのは、意味がないということだ。経済は現在、既にゼロ下限制約になってしまっており、FRBには、ほぼなす術がない。インフレ・ターゲットは、経済がゼロ下限制約に陥っていなかった時に、もっと早く引き上げられるべきだった。