人材開発のリーダーたちと何十回も面談を重ねる中で、どの会話も必ず、ある問いのバリエーションへと行き着く。それは「AI時代において、感情知能(EQ)は具体的にどのような位置づけにあるのか」という問いだ。
そこで、この議論をさらに深めるため、働くプロフェッショナル993人のデータを分析した。彼らの感情知能を測定すると同時に、以下の2つのシンプルな質問を投げかけた。
- 毎日AIを使っているか?
- 毎週AIを使っているか?
狙いは、感情知能が高い人ほどAIを使う傾向が強いのか、それとも弱いのかを確かめることだった。以下が、判明したこと、その示唆、そして今後検討していく予定の点である。
調査結果:EQはAIの導入率に影響を与えない
993人の回答者を対象としたサンプルにおいて、感情知能と職場で従業員がAIを使用する頻度との間には、意味のある関連性は見られなかった。総合的なEQは、日々のAI利用(r = –0.03、p = .37)および週単位のAI利用(r = –0.00、p = .92)のいずれとも実質的に無関係であり、感情知能が高いからといって、同僚よりもAIを導入しやすい(あるいは導入しにくい)ということはないことが示された。実務的な観点から言えば、AIの導入を後押しするのは、個人の社会・感情的能力よりも、職種や業界、利用環境、組織からの期待といった他の変数の影響が大きいようだ。
(EQスコアとAI使用頻度〈毎日または毎週〉の関係を調べるために相関分析を用いたが、観察された関係の中に実務的な有意性に達したものはなかった。LEADx)
示唆:人材開発リーダーが押さえるべき3つのポイント
1. AI導入の原動力はEQ以外の要因だが、それでもEQは重要である
有意な関連性が見られなかったことは、感情知能よりも他の要因がAIの導入を強く後押ししていることを意味している。例えば、仕事の種類、年齢、業界、上司のサポート、アクセス環境などは、すべてEQ以上にAIの導入に影響を与える可能性がある。これらの要因をコントロールした上で、EQがAI導入にどう影響するかを検証できれば興味深い。
2. 低いEQと高いAI利用の組み合わせは、組織に重大な悪影響をもたらす可能性がある
EQの低い従業員がEQの高い従業員と同等にAIを利用しているとすれば、以下のような問題が生じる可能性がある。
意思決定の質の低下:感情知能は、健全な意思決定と強く結びついている。EQが低い人は、深く考えずに、あるいは衝動的にAIを使ってしまいがちだ。その結果、ハルシネーション(AIの事実誤認)を見過ごしたり、細部まで入念にファクトチェックをしなくなったりする。これは当然、ミスや倫理的に問題のある結果を招く。例えば、コンサルティング大手のデロイトが挙げられる。同社は現在、カナダ政府向けに作成した160万ドル(約2億5200万円)の報告書におけるAI起因の事実誤認をめぐり、訴訟を起こされている。
コミュニケーションの質の低下:メンロー・ベンチャーズの報告書によると、電子メールの執筆にAIを利用している人は推定19%に上る。Slackのメッセージやプレゼン資料の原稿なども含めれば、その割合はさらに高くなる。つまり、すでにかなりの割合の人々が、コミュニケーションをAIに依存しているのだ。AI企業は自社の大規模言語モデル(LLM)を「より感情知能の高いもの」にしようと躍起になっているが、感情知能は自動化が最も難しいスキルの一つであることが分かっている。優れたコミュニケーションは複雑なものだ。自分が相手にどう受け止められているか(自己認識)、相手がどう感じているか(社会的認識)、そして自分のメッセージが関係性にどのような影響を与えるか(関係管理)といった要素を考慮しなければならないからだ。
3. AIの効果を倍増させるツールとしてのEQ
感情知能が高い人も同様にAIを利用しているため、先ほどの懸念を裏返して考えることができる。EQが高く、かつAIを利用する従業員は、AIを極めて思慮深く使いこなせるはずだ。AIを用いてより優れた意思決定を行い、どのコミュニケーションにより多くの人間らしさを残し、AIの関与を減らすべきかを見極めることで、EQの高い従業員は、EQの低い同僚に対してさらなる優位性を築くことができるだろう。
人材開発リーダーが拓く新しい働き方:AI時代に必要なコアスキル
各種報告書によると、2030年までに全雇用の約60%が根本的に変化すると予測されている。マッキンゼー、LinkedIn、世界経済フォーラムは、いずれも将来最も重要になるであろうコアスキルについて予測を発表している。それらのリストの上位を占めるスキルは以下の通りだ。
- 感情知能(EQ)
- 創造性
- 批判的思考(クリティカルシンキング)
- コミュニケーション
- 意思決定
- 適応力
感情知能は、このリストに直接入っているだけでなく、他の5つのスキルすべての土台となるものだ。
グーグルのチーフ・ラーニング・オフィサーであるブライアン・グレイザーは、最近のインタビューで次のように語っている。「私たちには、人と組織のベストを引き出す新しい働き方を創造する機会がある。そして、それに対するプレイブック(手引書)はまだ存在しない。だからこそ、この時代は面白いのだ」。すべての企業は、未知の世界へと突き進むほかない。その未来を牽引するために感情知能のスキルを活用するかどうか、選択するのは企業自身だ。
ケビン・クルーゼは、感情知能トレーニング企業LEADxの創業者兼CEOであり、ニューヨーク・タイムズのベストセラー著者でもある。最新著書は『Emotional Intelligence: 52 Strategies to Build Strong Relationships, Increase Resilience, and Achieve Your Goals』。



