あらゆる企業が、人件費、保険料、テクノロジーのコストを追跡している。しかし、「複雑化」に伴うコストを追跡している企業はほとんどない。これは、ビジネスにおいて最もコストのかかる要因の一つかもしれない。複雑化は、度重なる承認手続き、重複する業務、不要な会議、何層ものプロセスを通じて、静かに進行する。その結果、スピード、生産性、成長に対する「見えない税金」となる。
複雑性がすべて悪いわけではない。成長、ガバナンス、コンプライアンスといったものは複雑性を生む。課題は、価値を生む複雑性と、摩擦を生む複雑性を見分けることにある。突き詰めれば、問題はプロセスそのものではない。目的を果たさなくなったプロセスこそが問題なのだ。
私はこれを直接目にしてきた。大規模な業務変革の過程で、当社は120を超えていた給与計算エンティティを約50に削減し、事業内で異なる形に発展していたプロセスを標準化し、「昔からこうしてきた」という理由で受け入れられていた手作業の層をなくした。最も驚くべき発見は、誰かが意図して作り出したわけではない複雑性が、時間の経過とともにどれほど蓄積していたかということだった。個別に見れば、それぞれの層は無害に見えた。だが全体としては、実行のスピードを鈍らせていた。
複雑性に対処するために、より多くの人員やテクノロジーが必要なわけではない。必要なのは、リーダーが前提を問い直し、シンプルな問いを発することだ。「なぜ、私たちは今もこのやり方を続けているのか」と。
予算書には表れないコスト
複雑性が財務諸表の項目として現れることはほとんどない。それは小さな非効率、重複作業、不要な階層の中に潜んでいる。たとえば、購買申請プロセスに本来2つで済むはずの承認が5つ必要だったり、当初の目的を誰も覚えていないのに毎週開催されている部門会議があったりする。あるいは、ある従業員が複数のプラットフォームに同じ情報を入力している一方で、マネージャーが本来すでに統合されているはずの3つのシステムからデータを手作業で集約している、といった具合だ。
複雑性の危険は、1つの承認、1回の会議、1本のレポートにあるわけではない。問題は累積効果である。ここで10分、そこで20分、追加のレビュー、追加の例外処理、追加のシステム。時間が経つにつれ、こうしたものは、別の作業の層を支えるためだけに存在する作業の層を生み出す。組織はますます忙しくなる一方で、生産性は徐々に低下し、実行は遅れ始める。その結果、組織は市場環境の変化に対応しにくくなる。そして、その動けなさこそが、成功に対する最大の脅威の1つである。
「スピード」という要素
多くのリーダーは、競争優位は戦略から生まれると考えがちだが、実際にはスピードから生まれることの方が多い。スピードとは、組織が意思決定を行い、適応し、問題を解決し、顧客に迅速に対応する能力のことである。意思決定の有効性に関するマッキンゼーの調査によると、より速く意思決定する組織は、そうでない組織を上回る傾向がある。
当然ながら、複雑性はあらゆることに時間をかけさせる。承認が増えるにつれ、説明責任は曖昧になり、勢いは止まる。数時間で済むはずのことに数週間かかるようになる。やがて組織は、リソースよりも自らの仕組みによって制約されるようになる。
複雑化に直面した際、最もよくある誤解の一つが「テクノロジーを導入すれば自動的に物事がシンプルになる」というものだ。ツールによって悪いプロセスを効率化できるのは事実だが、テクノロジーが単に「非効率なプロセスを自動化する」だけになるリスクもある。デロイトの「2025年グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」レポートは、別の視点を提供している。それによると、従業員は毎日の労働時間の41%を、組織の価値創造に貢献しない活動に費やしていると報告している。複雑化は成長を遅らせるだけでなく、組織の余力を削ぎ落としているのだ。
リーダーが複雑化を見極める方法
最も効果的なリーダーは、「どこでコストを削減できるか」から問いを始めない。「どこに摩擦があるか」から始める。いくつかのシンプルな質問を投げかけることで、驚くべき機会が見つかるはずだ。
・なぜ、私たちはこれを行っているのか。
・どのようなリスクを軽減しようとしているのか。
・このレポートを実際に使っているのは誰か。
・本当に必要な承認はいくつあるのか。
・もし今日このプロセスを一から設計するとしたら、同じ形にするだろうか。
企業が成長するにつれ、追加の承認や監督の階層は、しばしば実行を遅らせ、説明責任を薄め、日常的な意思決定を不必要に複雑にするボトルネックを生む。かつて正当な問題を解決していたプロセスは、その問題が消えた後も長く残り続けることが多い。その一方で、従業員は価値を生まなくなったシステムを使いこなすために、時間とエネルギーを費やし続けている。
真のチャンス
複雑化は一度にやってくるわけではない。承認、例外対応、会議、その場しのぎの回避策が一つずつ積み重なることで蓄積していく。これはシンプル化についても同様だ。不要なステップが一つ取り除かれるたびに、余力が生まれる。ボトルネックが一つ解消されるたびに、スピードが生まれる。摩擦が一つ取り除かれるたびに、競争優位性が生まれる。
次の10年で勝利を収める組織は、最大の予算、最大のチーム、あるいは最も洗練されたテクノロジーを持つ組織ではないかもしれない。単に、他社よりも「速く動ける」組織なのだ。



