投資家は、強固な事業上のモートを持つ企業を好む傾向がある。それは通常、競合から企業を守り、安定したリターンを確保し、価格決定力を高める競争優位である。十分に防御を固めた企業はより良い投資対象になり得るが、プロダクト・モートを、提示しやすいユーザー囲い込み戦略に矮小化するのは誤りかもしれない。
一見すると直感に反するが、顧客が離れやすい状態にすることは、実際には顧客を維持するうえでより効果的な戦略になり得る。簡単に退出できる可能性は、プロダクトへの高い自信を示し、コミュニティ上の利点をもたらす。適切に実行すれば、ユーザーに優しいモートは利用者を引き寄せながら競合を遠ざけることができる。
ユーザーに優しいモートとは何か
SaaS(Software as a Service)の文脈では、モートは構造的な障壁として機能し、ユーザーがより安価あるいは流行の代替サービスに乗り換えることを合理的でなくする。モートには、主に競合他社に対する障壁となるものと、ユーザーの囲い込み戦略として機能するものがあり、複数のタイプに分類できる。
モートは業界や個々のプロダクトの強みによって異なるが、最も一般的なものの1つがスイッチングコストの引き上げである。高いスイッチングコストはロックイン効果を生み、顧客の判断を自社に有利な方向へ傾ける。多くのSaaSプロダクトはユーザーデータを囲い込み、競合サービスの利用を難しくしている。
不便なデータエクスポートや巨大なテック・エコシステムがその典型例だ。古典的な事例として、AppleのiMessageプラットフォームがある。規制当局が介入するまで、Androidユーザーはこのプラットフォームにアクセスできなかった。エコシステムを離れることは、自分のデータや多くの基本機能を失うことを意味していた。
他のプロダクト・モートは、主に競合に障壁を作ることを目的としている。独自のソフトウェアソリューション、特許、あるいは時には単にブランド名に基づく技術的な排他性がこれにあたる。例えばSalesforceは、こうした手段を使ってCRMアルゴリズムやその他の機能を保護していることで知られている。
ユーザー価値を損なわないモートとして最も大きな可能性を持つのが、ネットワーク効果である。ユーザーが増えるほどプロダクトは良くなり、自律的に持続する好循環が生まれる。ネットワーク効果はソーシャルメディアプラットフォームで最もわかりやすいが、価値を生むユーザーの入力を促せば、どのようなプロダクトでもこうしたモートを育てることができる。
ネットワーク効果に注力することは、価値を単に引き出すのではなく付加する、顧客に優しいモートを築く可能性が最も高い。その理由の一部は、ネットワーク構築が水平的成長により適しており、専門化の余地も一定程度残せる点にある。
「要塞」モデルの欠陥
リテンションの観点から見ると、SaaS企業が垂直型のモートに注力するのは理にかなっている。高いリテンションを持つ業界特化型のユーザーに到達しやすくなり、潜在的な競争も減らせるからだ。多くの専門特化型SaaS企業は要塞を築いたことで成功しているが、CEOはこうしたモデルの限界を考慮しなければならない。
垂直型のモートだけに注力すると、企業は防御的な罠に陥る恐れがある。競合に対する独自の障壁やユーザー囲い込み戦略を重視しすぎると、プロダクトのロードマップが「改善」から遠ざかってしまう。イノベーションの計画を止め、単に顧客を繋ぎ止めるための新たな引き留め策ばかりを企てるリスクが生じるのだ。
大企業がしばしば受け身であり、自ら革新するよりも小規模な競合を買収する傾向が強い理由の一端はそこにある。小規模なSaaSプロダクトにはそのような余裕はなく、代わりに垂直型と水平型のモートをつなぐ橋を築くことに頼らざるを得ない。
より多くの機能を備えて幅広いユーザー層へと拡大することは、リテンション低下や競争激化のリスクを伴うが、今まさに必要とされている柔軟性をもたらしてくれる。SaaSを取り巻く環境の変化や、AIエージェントのような新たなツールの登場による今後の急激な変化を考慮すると、柔軟性を維持することはきわめて重要だ。
AIツールとの競争によって、大企業が人員削減を余儀なくされるケースが増えている。こうした企業のビジネスモデルは、独自のデータベースという「知識のモート」に大きく依存していた可能性があるが、それはAIツールによって一夜にして一掃されかねないものだ。一部の企業はこの波を生き残っているが、無傷というわけではない。その大きな理由は、彼らが自らAIツールを導入したことにあるかもしれないが、それ以上に、そもそも彼らのビジネスモデルがデータベースの防衛に依存していなかったからだろう。AIは、今後さらに多くの業界に同様の影響を与える可能性があると推測される。
コミュニティ・モートが相互価値をもたらす理由
AIツールの普及により、ユーザーはSaaSのサブスクリプションを回避し、多くの機能を自前で実現できるようになるかもしれない。ユーザー自身が実際に機能するウェブスクレイパーやAI搭載の自動化ツールを開発することは、想像できないことではない。その際に必要なのは、それを稼働させるインフラと、問題解決を支援するコミュニティである。
例えばプロキシサーバーのプロバイダーであれば、インフラを中心にSaaSプロダクトを構築し、顧客の利用を支援すべきである。プロダクトへのアクセスを容易にし、他のツールとうまく統合できる状態に保つことがゴールであるべきであり、顧客囲い込み戦略に頼るのは逆効果だ。「オープンであること」自体が、ネットワーク効果を伴って加速するプロダクト・モートになり得るのだ。
これは従来のカスタマーサポート的アプローチや解説ブログ記事にとどまる話ではない。企業が運営するRedditやDiscordのコミュニティという新たなトレンドが、そうした隙間を埋めつつある。企業がすべての潜在顧客に提供するオープンソースソフトウェアについても同じことが言える。こうしたコミュニティ・モートは、以下のような多くのメリットを伴うプロダクト防衛力を生み出す可能性を秘めている。
• SEOとブランドプレゼンス:コミュニティ内で生成されたコンテンツによってオンラインでの存在感が高まることは、重要なキーワードにおいて競合と戦う上で有利になる。ソーシャルメディアで優位に立つことも、ブランド認知度の向上に寄与し得る。
• フィードバックループ:コミュニティ・モートは、ガイド、チュートリアル、改善提案などのユーザーからの入力を受け入れ、報いることで、さらなるエンゲージメントを促す。
• オープンな統合(インテグレーション):自社のインフラがオープンであれば、他のツールが自社プラットフォーム向けの統合を構築してくれるため、業界標準に近づくことができる。
• 優秀な人材の獲得:優秀な開発者は、自分が普段使っているブランドで働きたいと思う傾向が強い。コミュニティを活用することで、優れたエンジニアをより低コストで迅速に採用できる可能性がある。
囲い込み戦略からコミュニティ構築へのシフトからは、他にも多くの恩恵が期待できる。ニッチによっては効果が薄かったり、異なるメリットをもたらしたりするかもしれないが、企業にもたらされるすべてのメリットが、ユーザーのために創出された価値と一致しているという点では共通している。
結論
独占に似たプロダクト・モートは投資家に売り込みやすいかもしれないが、それを理由にユーザーに優しい慣行を放棄すべきではない。ユーザー囲い込み戦略を追求するよりも、ネットワーク効果を活用し、コミュニティ構築に注力することを優先すべきである。



