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2026.08.25 11:00

「50年先の町並みを想像しながら建物をつくる」“究極のベーシック”を目指す「帝国不動産」

経営難の不動産会社を、わずか5年で営業利益70億円超へー。その劇的な再生を成し遂げたのが、ゴールドマン・サックス、ソフトバンクグループを経て経営者となった帝国不動産代表取締役社長・木本啓紀だ。逆境を成長へと変える、その経営哲学に迫る。


「どこへ行っても、そびえ立つ大きな街路樹が印象的でした。町が成長することまでを考えて、都市づくりがされているのです」

帝国不動産代表取締役社長の木本啓紀(写真。以下、木本)がそう語るのは、父の転勤で少年時代を過ごした英ロンドンでの記憶だ。

父はハイドパーク近くの築150年のフラットを購入した。印象的だったのは、建物が時を重ねるほどに価値を増していく英国特有の住文化だった。そのフラットは今も母が保有し続け、さらに50年の月日を積み重ねている。

「いい家を建てれば長い間使えるし、そこに積み重なる思い出は、何物にも代えられない。家族とその住宅が結びつくことで、より豊かな人生を送ることができるのではないかと思うのです」

住宅が人生を豊かにするという原体験。これが後の木本の決断に、大きな影響を及ぼすことになる。

英国での原体験が瀕死企業の再建を後押し

木本は大学卒業後、ゴールドマン・サックス(GS)へ入社。不良債権投資や企業再生を担当し、18年間にわたって金融の世界で経験を積んだ。

転機は2019年に訪れた。かつての上司を慕って、ビジョン・ファンドを始動していたソフトバンクグループ(SBG)に転身。そこで木本は、次第に実業への興味を強めていく。

「SBGでは、事業を成長させた人間が評価される。その究極のかたちとして、投資家として資金を出す側ではなく、経営側に回りたいと思うようになりました」

その矢先に出合ったのが、後に帝国不動産となるMDIだった。MDIはレオパレス21創業者の深山祐助が設立した不動産会社で、SBGの下で事業を再建していた。

木本は同年9月、MDIの取締役に就任。

ところが直後に、コロナ禍という未曽有の危機が訪れる。しかし、木本は逆にそれをチャンスととらえる。

「コロナによって、これまでの序列や常識が大きくゆがんだ。その混乱のなかにこそ、大きな機会が眠っているはずだと確信していました。非常に大きなディールを扱っているSBGからしたら、MDIに注力している状況ではない。私が経営を引き受けるチャンスだと思ったのです」

とはいえ、MDIの当時の純損失は70億円を超えていた。先の見えないコロナ禍にあって、その金額はあまりにも重かった。それでも木本の背中を押したのは、ロンドンでの原体験だった。

「パッションをもって取り組むことを前提に考えたとき、住宅事業にコミットしたいと思ったことが決め手でした。働く社員とビジネスモデルの双方に将来性を感じ、この会社にキャリアを懸ける決断をしました」

そうして21年、木本はSBGを退職。退路を断ち、MDIの代表取締役に就任した。

木本がまず行ったのは、SBGとの対話だ。GSでの経験から、木本は「時間の価値」を痛感していた。どれだけいい会社でも、時間切れになれば再生できない。時間を確保するために、SBGとの交渉を重ねた。

「再建には一定の時間が必要なので、その期間だけは保証してほしいとお願いしました。再建のフェーズを3段階に分け、まずは赤字脱却、その次に成長、最後に投資回収という道筋を立て、了承してもらいました」

実際に再建に取り組むにあたっては、GS時代に培った判断力とアジリティ(機敏性)を武器に、正しいジャッジを積み重ねていった。その最初のフェーズで下した重要な決断が、「プロパティマネジメント(賃貸管理)」事業の強化だ。

「不動産の売買や開発は利益が大きい一方で、リスクも高い。家賃収入や賃貸管理は、利益は小さく見えても、継続的に収益を生み出してくれます。まずはそこを徹底的に強化しました。ここを分厚くすれば、リスクを取れる事業への許容度も上がると考えたのです」

超高級分譲住宅の新事業「House of Time 」を計画

再建に向けて着手したのは、財務改善だけではない。木本が同様に力を注いだのは、企業文化の刷新だ。

「重視しているのは、社員が『オーナーシップ』をもつことです。私は、他人に言われてやる仕事のつまらなさをよく知っています。だからこそ、各部の本部長に経営の意思決定を委ね、社員が自主的に動く組織へと変えました」

同時に、社員が成果を実感できる環境づくりにも力を入れてきた。

「カルチャーだけでは人はついてきません。会社が成長し、給与が上がることを実感できてはじめて、組織文化にも説得力が生まれます。毎年10%を超える賃上げやストックオプション制度を導入し、社員が会社の成長を自らの成果として享受できる仕組みを整備しました」

さらに木本は22年、アーキテクト・ディベロッパーへの社名変更にともない、経営理念を新たに設定。そのひとつ目は、英国での原体験が基になっている。

「ふつうの集合住宅が、実はいちばんよくできている、となるようにする」

木本がその思いを打ち明ける。

「私たちが手がけているのは、家賃7万〜10万円ほどの物件が中心です。豪華な素材を使うことはできませんが、その制約のなかで、質の高いベーシックなものを届けようという考えでやってきました。この価格帯では、トップクオリティだと自負しています。そして、もうひとつ私たちが大切にしていることは『公共心』です。今建てている物件の耐用年数は、少なくとも50年です。その間、町中に存在し続けるわけですから、その建物が町の風景のなかにどう溶け込んでいくかを常に意識しながらものづくりをしています」

帝国不動産代表取締役社長 木本啓紀
帝国不動産代表取締役社長 木本啓紀

こうした取り組みにより、業績は急回復。21年の代表取締役就任から5年で営業利益70億円超の企業へと生まれ変わった。

再建フェーズを終えた同社は、次なる成長ステージへ。その象徴が、26年5月の「帝国不動産」への社名変更だった。

「このメンバーと共に会社を成長させ続けたい。そのために、株式公開を目指しています。上場すれば永続企業となり、社会の公器となります。日本を代表する企業として社会に認知されることを願い、力強さを想起する『帝国』を社名にしました」

上場を見据える木本は、M&A戦略を加速させ、建設機能の拡充も図っている。

社員約900人のうち約260人が建設関係の人材であり、業界の人手不足が深刻化するなか、自社で建設できる体制を整えている。

そうした強みを生かし、新たな事業にも着手している。それは、富裕層向けの超高級分譲住宅「House of Time」だ。

富裕層向けの超高級分譲住宅「House of Time」。
富裕層向けの超高級分譲住宅「House of Time」。

「日本では、ハイエンドの一戸建て住宅がまだ多くありません。一方で注文住宅は、その人の好みに特化しすぎるため、200年続くような住宅にはなりにくい。住み手が代わりながら、長く住み継がれる家には、誰が住んでも心地よく、時代を超えて価値を保つ品質が求められます。私たちが目指すのは“究極のベーシック”。東京都内の一等地に、延べ床面積800㎡ほどのグローバルスタンダードを備えた高級住宅を建設したいとも考えています。日本の素晴らしい住宅地を残していきたいのです」

少年時代に英国で出合った「住まいは時間とともに価値を育む」という思想が今、日本に新たな風景を描こうとしている。

帝国不動産 


きもと・ひろき◎帝国不動産代表取締役社長。ゴールドマン・サックス証券で18年間、企業・不動産投資などに従事。ソフトバンクグループを経て、2019年にMDI(現・帝国不動産)取締役に就任。2021年に代表取締役CEO、2025年7月より現職。

Promoted by 帝国不動産 /text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro