事業共創で新たな価値創出に挑むプレイヤーを表彰する「Xtrepreneur AWARD(クロストレプレナーアワード)」。Forbes JAPANとNTTドコモビジネスの事業共創プログラム「OPEN HUB for Plural Futures」が2023年に始めた本アワードは、2026年で4回目を迎えた。
一社単独では成しえない価値を、複数企業のレガシーを掛け合わせて生み出す新しい共創家=クロストレプレナー。その取り組みは社会に何をもたらすのか。NTTドコモビジネス代表取締役副社長・工藤晶子と、経済産業省イノベーション・環境局長・菊川人吾に、Forbes JAPAN Web編集長・谷本有香が聞いた。
谷本有香(以下、谷本):まずはマクロな観点からお伺いします。今の日本のビジネス・産業界を、それぞれの立場からどうご覧になっていますか。
工藤晶子(以下、工藤):昨今は、企業の活動と社会基盤の関係そのものが、大きく変わってきています。かつては社会の課題は行政が担い、企業は自社の課題を解く、と切り分けられていました。でも今は、その境界線が溶けてきている。例えば労働人口の減少は、企業の採用難にとどまらず、医療・介護・地域交通・行政サービスまで影響を及ぼしています。企業も自治体も国も一体となって、社会や産業の仕組みそのものを変えていく時代です。

菊川人吾(以下、菊川):「境界線が溶ける」は本当にその通りですね。
私は2024年元日の能登半島地震で支援物資の供給を担当しましたが、現場でまさに同じことを痛感しました。自衛隊の皆さんが物資を運んでくれても、孤立集落への「ラストワンマイル」にはなかなか十分には手が届かない。
そこを救ってくれたのは、どこに誰が住んでいるかを知る地元の自動車販売店や新聞配達員の方たちでした。一方、山積みになった支援物資の混乱を3日で整理したのは、熊本地震でも活躍した大手運送会社のプロたち。行政・自衛隊・地元企業・物流のプロが、誰の管轄か・誰の課題かという境界を越え、それぞれの「持ち場」で解決に当たった。これがまさに今の時代に必要なモデルだと思っています。
菊川:日本は今、「課題先進国」です。ハーバード大学の研究者が公表するいわゆる「経済複雑性ランキング」で、日本は1995年から世界1位を維持し続けている。長期的に粘り強く複雑な課題を解くことにこそ、日本の強みがあるということです。
工藤:長期的視点の重要性は、私も痛感しています。企業は年度計画を軸に短期志向になりがちですが、私はPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)を同時に実現したい。社会課題は本来タイムスパンが長い。長期的な資産形成の視点で考える経営が、今こそ必要です。
ITが"効率化の道具"から新産業を生むエンジンへ
谷本:NTTドコモビジネスは多元的な共創からイノベーションを起こそうとしています。どんなアプローチが、分野の「境界線を溶かす」ことにつながるとお考えですか。
工藤:私たちが掲げるのは「自律・分散・協調型社会」です。誰かが主導権を握るのではなく、それぞれが責任を持って自律的に動く。誰が上でも下でもない場をどう作るかを真剣に考えています。例えば2024年、循環式陸上養殖システムの会社「NTTアクア」を設立しました。当社は魚の専門家ではない。
でも独自技術を持つ沖縄の会社と、当社のIoT・AIによる遠隔オペレーション技術を組み合わせれば、「誰でも明日から陸上養殖を始められる」パッケージが作れる。これまでITは効率化の道具でしたが、これからは産業とITを融合させ、新しい事業を生むエンジンになる。自動運転も同様で、地域のタクシー会社が、特別な知識や大きな投資を必要とせずとも自動運転サービスに参加できるプラットフォームを作るのが私たちの役割です。
菊川:共創を阻む要因として"官僚組織の縦割り"は批判されてきましたが、霞が関も変化しています。最近は経産省を辞めて民間で揉まれ、再び戻るメンバーを「ヤメティ」と呼んで歓迎している。管轄が明確にせざるを得ない官僚組織も、意地悪をしたいわけではなく、無意識に「ここは自分のフィールド」という境界線が生まれてしまうだけなんです。例えば災害で電柱が倒れると、地面の下には光ファイバー、さらに水道管がある。それぞれ経産省・総務省・国交省の管轄ですが、現地の人からすればどの省庁かなんてどうでもいい。チームを組み、知見を持ち寄って解決すればいいんです。

工藤:自動運転もまさに同じです。自動車は経産省、走行は警察庁や国交省、ネットワークは総務省。あらゆる省庁を回りながら「これって誰に相談すれば⁉」と奔走しています。
菊川:みんなで集まれば議論は進む。ここは工藤さんが「全員集合!」と場を作るしかないですね(笑)。
二項対立を包み込む日本ならではの共創の力
谷本:「クロストレプレナー」の動きが広がる意義を、どう捉えていますか。
菊川:「OPEN HUB」やクロストレプレナーアワードのような場があると、「こんなコラボってアリなんだ!」というマインドセットが生まれる。それが最も大事な効果ではないかと考えています。
工藤:日本には多様な立場の"良し"を同時に実現するマインドがもともとある。三方良しがまさにそう。「どちらか」ではなく「どちらも」を叶えようとする"間"の思想です。AIか人か、自然か人か、といった二項対立ではなく、両方を包み込んだところに新しい価値を見出す。クロストレプレナーの皆さんは、まさにそのマインドで活動されています。
菊川:世界では今、多様な価値観を持つ人が切磋琢磨して価値を生むことが意外とできていない。テクノロジーとの付き合い方も、いわゆるアメリカの「テクノリバタリアン型」、中国的な「国家主導型」、ヨーロッパの「事前規制型」と分けることがありますが、日本はどれにも当てはまらない。多様な価値観を重視しながらテクノロジーと付き合う「価値主導型イノベーションガバナンス」という新しいあり方を、日本からこそ提供できる。多様な価値感を包み込んで社会を作ってきた日本の独自性が、クロストレプレナーを後押ししていると思います。
谷本:このムーブメントをさらに広げるために、何が必要でしょうか。

菊川:まずは「やってみる」ことです。経産省でも2025年11月、国会移動用の車両で自動運転を試しました。出来がまだまだと辛口な評価だったとの噂でしたが(笑)、いいんです。改善していけばいい。
工藤:本当にそう! 「これはダメ」ではなく「ここはできる、だから伸ばそう」と可能性に目を向ければ、閉塞感は突破口に変わります。バラバラに動いていた点と点が、ある瞬間パチッとつながった体験が私も何度もある。「これがやりたい」と声を大にして言うことが、想像もつかない可能性につながっていくんです。
菊川:クロストレプレナーマインドを広げる上で、「Forbes JAPAN」にお願いしたいのは、受賞者の「その後」をフォローしてほしいということ。うまくいっていないなら、壁は規制か、制度か、資金か。挑戦を阻む要因を洗い出し、関係省庁を一堂に集める場を作れたら、省庁の壁を越えて課題が一気に議論されるかもしれません。
工藤:それは大事な視点です。0から1はアイデアと意欲で意外とできる。でも1を10にするのは難しい。この「1→10の壁」こそクロストレプレナーの真骨頂であり、大企業も行政も、そこを支える役割を担っていきたいです。
菊川:政府も支援後のフォローが手薄になりがちです。「なぜうまくいかないのか」ではなく「何があればうまくいくか」という視点になれば、支援の質も変わる。新しいことに飛びつくのではなく、コツコツやっている人たちに光を当て続けることこそ、行政の役割だと思っています。若い世代には、グローバルな視点で日本の研究開発力を活かして挑戦する人が本当に増えてきた。クロストレプレナーとは、そんな挑戦者たちがすでに体現していることに、名前をつけたものなのかもしれませんね。
NTTドコモビジネス
https://www.ntt.com/index.html
OPEN HUB for Plural Futures
https://openhub.ntt.com/
Xtrepreneur AWARD
https://forbesjapan.com/feat/xtrepreneur_award/
くどう・あきこ◎NTTドコモビジネス 代表取締役副社長 副社長執行役員 CCXO(Chief Customer Experience Officer)
日本電信電話に入社後、企業のICTソリューションの活用提案、広報・宣伝業務を通じたマーケットとのコミュニケーション企画等を担当。その後NTTコミュニケーションズにて、グローバル化する日本企業のDXを推進する法人営業や、パートナー企業と新しいビジネスモデルを企画する営業の責任者に従事。東海エリアでは、愛知県労働委員会の使用者委員や中部経済同友会企画委員副委員長に就任。広く行政支援や経済活動を行いながら法人企業のお客さまのDXも担当。その後、NTT持株にて、広報室長・新ビジネス推進室長を経て、2024年にNTTコミュニケーションズ(現:NTTドコモビジネス)代表取締役副社長就任。
きくかわ・じんご◎経済産業省イノベーション・環境局長 兼 首席スタートアップ創出推進政策統括調整官
1994年京都大大学院中退後、通商産業省(現・経済産業省)入省。通商政策、環境政策、中堅・中小企業政策、経済安全保障政策などに従事。石川県商工労働部産業政策課長、在ジュネーブ日本政府代表部参事官(2013年国際貿易機関(WTO)TBT委員会議長)、中小企業庁(金融課長、財務課長)、経済再生担当大臣兼TPP担当大臣秘書官、商務情報政策局情報産業課長、製造産業局総務課長、内閣官房内閣参事官兼デジタル庁参事官、大臣官房審議官などを経て現職。米コロンビア大学修士(MPA)、青山学院大学客員教授(国際関係論)、国際環境経済研究所主席研究員、米国公認会計士(USCPA)。
<ファシリテーター>
たにもと・ゆか◎Forbes JAPAN Web編集長。証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカー後、米MBA取得。日経CNBCキャスター、同社初女性コメンテーター。オードリー・タン台湾デジタル担当大臣、トニー・ブレア元英首相、アップル共同創業者スティーブ・ウォズニアック等、4,000人を超えるVIPにインタビュー。現在、TOKYO MX 「堀潤 Live Junction」のレギュラー経済コメンテーター他、経済コメンテーター等、TV出演多数。経済系シンポジウムのモデレーター他、内閣府 オープンイノベーション大賞 審査員、内閣府SIPピアレビュー委員、東京都 キングサーモンプロジェクト審査委員、東京都 現場対話型スタートアップ協働プロジェクト選考委員等。また企業役員としても活動。立教大学大学院社会デザイン研究科 アドバイザリーボードメンバー。2016年2月よりForbes JAPANに参画。2022年1月1日より現職。



