ムワンザ・アガマの場合は、この体色の変化は主に、ストレス・覚醒ホルモンをきっかけとする色素の再配分によって実現されている。2022年に『Hormones and Behavior』に掲載された研究は、ムワンザ・アガマと、近縁のロック・アガマの場合、この仕組みが個体のテストステロン値と関連していることを突き止めた。
「スパイダーマン化」する個体が、岩山のボスに限られる理由
しかしこの体色は、トカゲの集団に均等に分布しているわけではない。メスの個体は、一生地味な茶色のままで、他の種とも混同されやすい。
そして、オスの場合でも、全身を赤色と青色に染めるのは、それぞれの岩山でトップに立つボス個体のみであるケースが多い。下位のオスや若いオスは、より地味な、カモフラージュの役割を果たす体色のままで、変化しない。
このように個体の性別や立場によって断絶があるのは、性選択が起きている場合の特徴だ。性選択とは、生き残るには何のメリットもなく、かえってコストが生じるケースすらある形質が存在する理由を説明するために、チャールズ・ダーウィンが提案した進化の枠組みだ。こうした形質は、交尾相手の確保や、ライバルに打ち勝つのに役立っていると、2019年に『Evolution, Medicine, and Public Health』に掲載された研究は指摘している。
ロック・アガマの場合は、日光を浴びるのに最適な場所を確保すれば、複数のメスがいるなわばりを維持できる。この際、鮮やかな体色がユニフォームとして機能する。つまり、「ここを支配しているのは俺だ」ということを、手っ取り早く周囲に広めるための手段ということだ。この派手な体色があれば、なわばりにしている岩に、見知らぬオスがふらりとやってくるたびに、実際に戦う必要はなくなる。
実際にボスに挑む個体が現れた場合、オス同士の争いは、身体接触が起きる前に、頭を上下に振ったり、「腕立て伏せ」のようなポーズをしたりする行動にエスカレートすることが多い。これらの行動は、求愛やなわばりを主張する際に、アガマ科のトカゲでよく見られるしぐさだ。これは、争いに際して、ディスプレイ行動を利用することで、相手を噛むよりも低いコストで問題を解決しようとするものだ。
体色の変更は、現実的なコストを伴う。つまり、鮮やかな赤と青の体色で自らの強さをアピールするトカゲは、タカをはじめとする、視覚を頼りに狩りをする捕食者の目にも留まりやすくなる。だが、まさにそれゆえに、低コストで済む示威行動よりも、信じるに足るシグナルとして受け止められる。


